EP21 誘拐(奪還)
もう一波乱ですね。
この街の人間は僕たちに関わりたくないようで、僕らも後腐れなく立ち去れます。
ただ…
「数日以内にこの街を去ろうと思います」
僕がそう告げると、冒険者ギルドの皆さんは目に見えて動揺し始めました。
「オイやべえぞ…」
「何か気に障る事でもあったんじゃ…」
「あいつがいなくなったら……」
何やら恐れている者、
「そうか」
「頑張れよー」
「たまには帰ってきてくれよな」
特に反応しない者、
「えっ!? お兄さんこの街離れるんすか!?」
「マジかよ…!?」
激しく動揺する者。
反応は分かりやすく三つに分かれました。
「酷いっすよ! このままお兄さんが居なくなったら、私は誰と結婚すればいいんっすか!!」
「知りませんよ、そんなの」
非殺傷の揺すぶりを掛けられていますが、その程度で僕は考えを改めませんが…?
「大体、結婚が非効率な行為であることは理解していますか? 世帯を持つということは経済的リスクを共有し、他人と法的な責任を共にしなければいけないんですよ? 僕は独身で居ますよ」
「でもお前、女の奴隷は買ったんだろ?」
「彼女はただの盾ですから。それに自分の奴隷と結婚する物好きがいるんですか?」
「居ないことはないみたいだぜ?」
「本物のバカですね…」
奴隷と結婚するとは、出来ないわけではないですが、正直よくわかりません。
頭が極限まで悪いとこうなるんでしょうか?
「とにかく、レアロンに向かおうと思っています」
「大丈夫か…? あそこでは今、戦争が…」
「ええ、もっと経験が欲しいので自分から行くことにしました」
「やっぱお前、悪魔だな」
「失礼ですね、生物学上は人間ですよ」
こうして、ギルドへの挨拶は終わりました。
次は、買い物です。
「はいよ、銀貨7枚だ」
「どうも」
「旅だろ、大変だねえ」
「そうですね」
僕一人なら要らないんですが、シエルが居ますからね。おまけにシエルは僕が食べなくても大丈夫である事を信じないでしょうから、自然と二人分の食料が必要になります。
今はレアロンへの旅路に掛かる二週間分の堅焼きパンを購入したところです。
異次元ポケットがあればある程度腐敗を抑えられるので、そこに食料を入れれば良いわけです。
ある程度の素材は現地調達として、どうしようもない主食だけ揃えておきましょう。
後は消耗品もある程度買っておきましょうか。
「お、ここにいたか!」
「どうしましたか?」
誰でしたっけ……ああ、串焼き屋の人ですね。
「たっ、大変だぞ!?」
「ですから、物事を簡潔に説明してください」
「あんたの嬢ちゃんが拐われた、あんたの名前を叫んでたから、とりあえずあんたに教えようと思って探してたんだ」
「そうですか…とりあえず何が起こったかを教えてください」
「付いてきてくれ、証人を集めてる」
僕はひとまず、串焼き屋に付いて行くことにしました。
「お嬢さんが買い物をしてたんだけど、角から出てきた男に突然連れ去られて…」
「途中で暴れてたみたいだけど、何か嗅がされてね…」
「叫んでたよ、お兄さんお兄さんって」
「そうですか」
僕が渡した買い物籠が地面に転がり、ジャガイモ擬きやクラの実などの食材が散乱していました。
そして、もう一つ、僕の目を引くものが地面に落ちていました。
「………………………」
剣の柄に付けられていた、邪神のデフォルメされたストラップです。
恐らく剣を抜こうとして、抵抗できず拐われたのでしょう。
「な、なああんた……ひっ!?」
「そうですか……そこまで死にたいとは思いませんでした」
初めて感じる静かな激情。
僕の盾であり自動調理器であり、洗濯機でもある家電総合の奴隷を攫うなんてとんでもないですね。
もう誰の仕業か分かっているので、人の物を奪ったら泥棒だと教えてあげなければなりません。
「おい、あんた……?」
「大丈夫ですよ、ちゃんとギルドに報告して事件として調査依頼を出します」
「あ、ああ……」
僕はその場を、ゆっくりと後にしました。
宿に帰ると、良い匂いが鼻をくすぐりました。
昼に食べたローストチキンの匂いですね。
「次は命だけでは済ませませんよ」
僕はポケットを開き、そこから仮面とローブを取り出しました。
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