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EP16 買物

20話からタイトルが二文字ではなくなります。

ご了承ください。

でゑと回です。

数日後。

くそったれ邪神........いえ、神に加護を頂いたので、本来の目的をシエルに果たしてもらいましょう。

ですがその前に........


「お兄さん、私だけこんな服を着てもいいんでしょうか.......?」

「ゴードンさんに聞いたところでは、女奴隷を着飾らせるのがこの世界のステータスらしいですし、問題ないでしょう」

「そ、それはお貴族様の奴隷だけじゃ........」

「碌な品揃えがありませんね、期待して損しました」

「何だとお前! ウチの店にケチを付ける気か!」

「なんですか?」


いきなり中年の男が喚きながら近寄ってきました。

煩いので、とりあえず適当に黙らせて..........


「ダメ!」

「っ!」

「お兄さん」

「分かりましたよ」


自分とした事が、シエル相手だと何故か強く出られません。

数日過ごしただけなのですが........


「......仕方ありません、オーダーメイドは出来ますか?」

「ああ、出来るが.......」

「では、お願いします。僕の分はいいのでこの子のを....幾らですか?」

「あ? 子供用か...........どんなのを望んでるかで結構変わるが、そこら辺を決めよう」

「勝手に話を進めないでください、僕は――――」


裾を掴まれた。

見れば、シエルがこちらを見ていました。

……….やりにくいですね、ですが因果支配が効かないので僕にはどうしようも出来ません。


「お兄さん」

「”静かに”」

「...........」


彼女が奴隷で助かりました。

煩すぎて耳が腐るところでしたから。


「.............条件は子供服、ただし僕らは冒険者なので動きやすく、同時に寒暖どちらにも耐えられる構造をお願いします。後は.......必要かは分かりませんが、見た目の可愛さと耐久性も重視してください」

「――――ああ、分かった........材料費も考慮すると....多分金貨3枚くらいになるがいいか?」

「..........そうですか」


意外と高いですね..........

しかしシエルの眼前で何かするわけにもいきませんし...........


「いいでしょう、払います」


僕は財布から金貨を3枚摘むと、店主に渡しました。

残り金貨は82枚、殆どがヘンフリー男爵家から頂いたものですが、このまま行くと無くなるのも時間の問題でしょう。


「毎度あり..........一週間後にまた来てくれ」

「分かりました、では失礼します。」


僕はシエルの手を引いて外へと出ました。


「”喋っていいですよ”」

「........お兄さん、偉いです」

「そうですか?」


何か凄い事をしたのでしょうか?


「ちゃんと手を出さずに交渉できました!」

「ああ、なるほど」


数日間生活を共にしたことで、僕の扱い方を心得たという訳ですね。

少々気に食わないですが、仕方ありません。


「次はどこに行くんですか?」

「次は..........まあ、食料品でも見ていきますか、せっかくなので何か作って貰いましょう」

「はい!」


僕とシエルは、そのまま市場の方へと出向きます。

思えば市場は殆ど行ったことがありませんでした。

宿は食事付きなので料理をする必要が無かったんですよね。




「へえ........なるほど、これが市場ですか」


市場という言葉は使われていましたが、こうして人が直接集まるマーケットは初めてです。

いや、一応火星移住先ではこういうマーケットもあると聞きましたが、リスクの高い事業でしたので興味がありませんでした。


「店主! パルハの実はあるかい!?」

「あるぞ! 5個で鉄貨85枚だ!」

「そこの方~、大脚鶏(ビッグレッグチキン)の串焼きはいかがかね~!」

「今日獲れたての魚だぞ、今なら銅貨6枚!」


青果店、魚屋、食料品の屋台など様々な店が並び、色々な人が行き交っています。


「それにしても、この街はどういう位置づけなんでしょうか、シエル?」

「あ....は、はい! この街は流通の中心地だって奴隷商人の人が言ってました、だから裏の商売も儲かるんだって」

「ふーむ、そうなんですか..........」


一瞬ここで事業を立ち上げることも考えましたが、この世界の商売のノウハウがありませんし、右も左も分からない状況では何を売るか、何が需要があるのかも把握できません。

インターネットがないので各国情勢や関税、外貨があるかは知りませんが為替レートの把握も難しいですし、株式会社のような融資を募るシステムも、外部の人間が信用を高められる手段もなさそうですしね。


「そんなことより――――――食べたいんですか?」

「は.........はい!」

「仕方ありませんね」


シエルが串焼き屋を見つめているので、分かりやすかったですね。

なるほど、こうして人は他人にそれとなく意思を伝えるんでしょうか?

まさか子供に教わる時が来るとは思いませんでした。


「すいません、この子に串焼き一本ください」

「お、お兄さん! お兄さんの分は?」

「僕は要らないですよ」


食べる必要が無いですからね、普段からペースを組んで栄養バランスを整えた食事をしているので逆に毒になります。


「むぅ........」

「食べなさい、確か児童は食事が出来る量が限られているためにおやつといった追加の形で栄養を補給するんでしたよね」


僕は串焼きを銅貨1枚で購入すると、シエルに渡しました。


「兄ちゃん、妹さんかい?」

「首輪が見えないんですか、奴隷ですよ」

「がははは、奴隷にだけ飯を食わせる主人か....こりゃ面白い、もう一本おまけしてやる」

「............ありがとうございます」


善意で貰ったものを突っ返すのも悪いので、僕はそれをシエルに渡しました。


「すいませんね、僕はどうしても無理です」

「.........分かりました、向こうに行きましょう」


僕らは串焼き屋を離れ、直ぐ傍の切り株にシエルと共に座りました。


「.....................」

「......................」


暫く、シエルがもぎゅもぎゅと串焼きを食べる音だけが聞こえていました。

僕はその間ずっと、前世でもよくやっていた雑踏の人々を観察し、体型、服装、顔つき、表情、バッジなどから職業や経済状況、性格などを推理するという事をやっていました。

意外と面白いんですよね、これ。


「お兄さん」

「どうしましたか――――ッ!?」


呼ばれて振り向いたら、口内に何かを突っ込まれました。

油断していましたね、大した攻撃です..........え?


「ど...どうですか」

「なるほど.....一本取られました」


僕は口に突っ込まれた肉を噛み千切り、咀嚼して飲み込みました。


「..........何を考えているのかは知りませんが、そんなに僕の栄養状態が心配ですか?」

「はい!」


シエルが笑顔を見せました。

それは僕に、何か表現できない感情を想起させました。

とはいえ、これで今日のバランスが崩れたのは確かですし、これ以上の飲食は避けたいですね。

ああしかし、夕食を作って貰う予定でした。

困りました.......一人だと考えなくていい事が、二人になると色々大変です。


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