その9 ~ゲーム本編~
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその9まであります。本日6/6中にその9まで投稿する予定です。
ワオンから引いたカードの絵柄を見て、ルージュはくりくりした目を大きく見開いてしまいました。その目に映っていたのは、ビッとブイサインしてギザギザの歯をむき出しにした、オオカミの絵柄だったのです。ルージュは引いたオオカミさんカードと、ワオンを交互に見てから今度は目をシパシパさせます。
「どうして、だって、これ、お花カードのはずだったのに、なんで……」
「ごめんよ、ルージュちゃん。でも、おいら別に、ルージュちゃんを引っかけようとしてカードを見てたわけじゃないんだよ。ただ、たとえあがれるとしても、おいらにオオカミさんカードは捨てられないから、それなら誰かにもらってもらえればって思って、それでじっと見てたんだ」
申し訳なさそうに、ワオンはうつむいたままいいました。その言葉を聞いて、マーイがやっぱりといった表情で口をはさみます。
「それじゃあやっぱりワオン、お前、オオカミさんカードを捨てたらあがれてたのに、わざと捨てずに、オオカミさんカードを誰かに引いてもらおうとして、ワインとパンカードを使ったんだな。まったく、バカなやつだなぁ。別に本当にお前が、オオカミが捨てられるわけじゃないってのに……」
あきれたようにいうマーイでしたが、その顔はにまにまと、まるでほほえましいものを見るような優しさにあふれていました。そしてそれはブランとルージュも同じだったのです。
「あーあ、でもこれでワオンさんの勝ちかぁ。くそー、うまいことお花カード集められてると思ってたのになぁ」
「あら、最後のほうは、ブランも完全にポーカーフェイスじゃなくなってたじゃないの。……でも、ワオンさんおめでとう。とりあえず第一回戦はワオンさんに勝ちを譲ってあげるわ」
ルージュにいわれて、ワオンは驚いたように顔をあげました。ルージュはくすくす笑って続けます。
「あら、もしかして勝ち逃げしようとしてたんじゃないでしょうね? ダメよ、あと一歩で勝てたのに、最後の最後で一歩届かなかったんだし、リベンジのチャンスくらいちょうだいよ」
「それはこっちのセリフさ。今度こそぼくが一番になってやるからな! あ、そうだ、ワオンさん、ぼく今度はレモンティーがいいな。あと、よかったらワオンさんのケーキも食べてみたいんだけど、いいかな?」
二人にいわれて、ワオンは目をゴシゴシこすって、それから恐る恐る聞き返しました。
「……ホントに、いいの?」
「もちろんよ。だってまだまだゲームは始まったばかりじゃないの。……あ、でも、今度はちゃんと勝てるときは、オオカミさんカードも捨てなくちゃダメよ」
ルージュがいたずらっぽい口調でいいます。口をもごもごさせるワオンに、ルージュは優しく続けました。
「オオカミさんカードを捨てても、わたしたちはワオンさんを捨てたり、きらったりしないわ。それに、今までごめんなさい。わたしたち、ワオンさんのこと、悪いオオカミだってばかり思ってて、喫茶店にも近寄らないようにしていたわ。でも、これからはそんなことしないし、おとぎの森のみんなにも、ワオンさんが優しくっていい人だって伝えるわ。……だから、また遊びに来てもいい?」
首をかしげて心配そうに聞くルージュに、ワオンはもう一度目を乱暴に手でこすってから、そして何度も何度も首をたてにふりました。
「わかった、うん、わかったよ! ありがとう、ルージュちゃん、それにブラン君も、それにマーイも……。ありがとう、本当にありがとう!」
何度目をゴシゴシしても、あとからあとから涙がこぼれてぐしゃぐしゃになっていきます。見かねたマーイが、ちょっぴり意地悪な口調でワオンをうながしました。
「ほらほら、とりあえずカードはおれがシャッフルしておいてやるから、この二人にお前のご自慢のケーキをふるまってやれよ。あ、おれはレアチーズケーキで頼むぜ。それとホットミルクも追加だ。頼むぜ店長、これからどんどん繁盛するだろうし、グズグズしてないできびきびしないとな」
愛のあるツッコミを受けて、ワオンは最後に大きくうなずいて、それからカウンターの奥へ走っていくのでした。
「いやー、楽しかったなぁ! それにルージュはさすがに強いな。一回戦が終わってから、まさか三連勝するなんて、我が姉ながらびっくりだよ」
『ワオンのおとぎボドゲカフェ』からの帰り道に、ブランはうーんと伸びをしながらいいました。
「でも、マーイちゃんも強かったわよね。最後のゲームはマーイちゃんに負けちゃって、四連勝を逃しちゃったわ」
手に持っているバスケットに目をやりながら、ルージュも笑顔で答えます。バスケットの中には、ワオンがおみやげにくれた、はちみつマフィンがいっぱい入っているのです。代わりにルージュがつんできた花は、ワオンのおとぎボドゲカフェに飾ってもらっています。
「でも、本当にいいオオカミさんだったわね。優しいし、正直者だし……」
「確かに、ルージュと違って引っかけたりしないもんな、ワオンさんは。それに比べてルージュは、席を入れ替えてとなりになったときとか、ホントに大変だったもん。ワインとパンカードを使われたら、毎回お花カード取られちゃうし、ぼくがうまいことお花カード集めてても、おばあちゃんカードで流されちゃうし……」
ぷくっとふくれっつらをするブランを、ルージュはおかしそうに見ています。
「だいたい一回戦だって、ルージュがワオンさんを疑うから、最後に負けちゃったんだろう?」
「あら、それじゃあブランも気づかなかったのね。……あのカードがオオカミさんカードだってこと、わたしもちろん気づいてたわ」
ルージュがいたずらっぽく小首をかしげたので、ブランは疑うようにふりかえりました。
「えっ? いやいや、うそだろ? だいたい気づいてたら、オオカミさんカードを引いたりしないだろ?」
「そうね。でも、ワオンさんがオオカミさんカードを捨てれないでいるのは、様子を見てたらわかったもの。自分の番が来るたびに、悩ましそうに手札を見てたから。だから助け舟を出したのよ」
またたきして立ち止まるブランに、ルージュも足を止めて続けました。
「オオカミさんカードを助けてあげて、ワオンさんが勝つことができれば、次からはオオカミさんカードも捨てられるじゃない? せっかく楽しいゲームですもの、ワオンさんにも気がねなく楽しんでもらいたいって思ったのよ」
「じゃ、じゃあ、ルージュはあの10枚以上あるカードから、正確にオオカミさんカードがどれか見抜いたってわけ?」
口をあんぐり開けて聞き返すブランを、ルージュは楽しげに見てうなずきました。
「けっこう大変だったわよ。さすがのわたしも、絶対オオカミさんカードを見つけられる自信なんてなかったから、内心ドキドキしてたわ。でも、うまくいって良かった。これでワオンさんも楽しくカードで遊べるでしょうし、そうなればわたしたちももっといろんなボードゲームで遊べるわ。それに、おとぎの森のみんなも呼べば、どんどん楽しいの輪が広がるでしょう?」
「……まさか、そこまで考えてたなんて。ぼくは自分の手札を見て、作戦を考えることで精いっぱいだったよ」
「はぁー」と感嘆のため息をつくブランを見て、ルージュはくすりと笑いました。
「さ、次は誰を誘って遊びに行こうかしら?」
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カドゲ・ボドゲカフェ企画は6/30まで開催しておりますので、どうぞ企画をお楽しみください(^^)/