その2
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその9まであります。本日6/6中にその9まで投稿する予定です。
ワオンをカドゲボドゲの沼に誘いこんだあと、マーイはさっそく、ワオンのおとぎボドゲカフェの集客を始めたのです。マーイがまず最初に目をつけたのは、おとぎの森一番の美少女、ルージュでした。
「マーイちゃん、ほんとに大丈夫なの? いくらマーイちゃんのお友だちっていっても、オオカミさんでしょう? わたし、食べられたくないわよ」
マーイに手を引かれながら、まだあどけない女の子のルージュは、顔をこわばらせてたずねました。ルージュの頭には赤ずきん……ではなく、赤くて大きなリボンが結ばれています。そのリボンが不安そうにゆれました。
「もちろん、ワオンは絶対にルージュちゃんを食べたりしないよ。それどころか、このおとぎの森の仲間たちは、誰も食べたりしないさ」
ひげをなでなでしながら、マーイは照れたように一人でうなずきます。しかし、ルージュのとなりには、デレデレするマーイをキッとにらみつける男の子がいたのです。ルージュの双子の弟であるブランです。
「ルージュ、こんな得体のしれないネコのいうことなんか聞いちゃダメだよ。なぁ、今からでも間に合うよ。やっぱり帰ろうよ」
ブランは完全にマーイを信用していない様子で、まるで猟師のような鋭い目を向けてきます。マーイもムカッとしたのでしょう、しっぽの毛を逆立てて、ブランを真正面からにらみつけます。
「ワオンと話したこともないくせに、ずいぶん疑り深いんだな?」
「オオカミとなんて話したところで、どうせろくなこといわないだろう? それどころか、言葉巧みにぼくたちをだまして、うまいこと食べようとするに決まってるさ」
ブランの言葉に、ルージュが「ヒッ」と小さく悲鳴をあげました。マーイがあわててルージュをなぐさめます。
「あぁ、そんな怖がらないで。本当にワオンは君たちのことを食べたりしないよ! 昔この森に住んでいた、悪いオオカミとは違うんだよ。それはおれが保証するよ」
「どうだか。お前もそのワオンとかいうオオカミとグルなんじゃないか?」
またしてもブランが口をはさんだので、マーイは思わず「シャーッ!」とブランをいかくします。ブランも腰から猟銃……ではなく、愛用のパチンコを取って構えたのです。ルージュがあわててブランを止めます。
「ちょっと待って、ブラン! マーイちゃんにそんな危ないもの向けないでよ!」
「でも、ルージュ、もしこいつがその悪いオオカミの手先だったら、ぼくたちとっても危険なんだよ!」
ルージュに止められたのがショックだったのでしょうか、ブランは白いほおを真っ赤に染めて、ルージュを説得しようとします。ですが、ルージュは首をふってマーイに向きなおりました。
「マーイちゃんはそんなひどいネコちゃんじゃないわ。いろんなお話を聞かせてくれるし。わたしの大事なお友達だもん」
まっすぐ姉のルージュに見つめられたら、ブランはもうなにもいえなくなってしまうのです。口ごもってしまい、もじもじしていましたが、ようやく小さくうなずいたのです。
「わ……わかったよ。ルージュがそこまでいうなら、信じるよ。でも、おいネコ、もしぼくたちをオオカミに食べさせようとしたりしたら、そのときはひどい目にあわせるからな!」
肩をいからせるブランを、ルージュが非難するようににらみつけます。
「ブラン!」
「う……。ごめん、悪かったよ」
しゅんとするブランを見て、マーイはにゃししとほくそ笑みます。と、ルージュのくりっとした目にきらきらと星がともりました。
「あっ、お花畑! マーイちゃん、ちょっとここで休憩しましょう」
道を少し外れたところに、赤、ピンク、黄色、紫と、色とりどりの花が咲いていたのです。いても立ってもいられないといった様子で、ルージュがそのお花畑にかけ入っていきます。ブランは頭をがしがしかいて、小さくため息をつきました。
「まったく、ルージュ、寄り道してて遅くなっても知らないよ」
「大丈夫よ。それにオオカミさんも、お花の束をプレゼントしたらきっと喜ぶわ」
ルージュは白く細い指で、愛おしそうに花をつんでいきました。持っていたバスケットにハンカチをしいて、その上につんだ花を並べていきます。
「そういやルージュちゃん、そのバスケット、なにが入っているんだい? もしかして、ぶどう酒とかじゃないよね?」
マーイに聞かれて、ルージュは思わず笑ってしまいました。
「もう、マーイちゃんったら、ぶどう酒なんて入れてないわよ。わたしが焼いたクッキーが入っているわ。オオカミさん、甘いものが好きなんでしょう?」
「あぁ、ワオンもおれも、大の甘党だからな。そりゃきっと喜ぶぜ」
うんうんと首を縦にふるマーイを見て、ブランはふんっと鼻を鳴らしました。
「ぼくたちを食べたあとに、デザートも食べようとするなんて、ずいぶん欲張りなオオカミだな」
「ブラン!」
またもルージュにどなられて、ブランはビクッと身を硬くしました。
「あ、ごめん……。悪かったよ」
「もう……。さ、それじゃあ行きましょう」
バスケットをお花いっぱいにして、ルージュはくりっとした目を輝かせました。
「やぁ、いらっしゃい。ワオンのおとぎ喫茶……じゃなかった、ワオンのおとぎボドゲカフェにようこそ」
森の外れにある、ワオンのおとぎボドゲカフェに足を踏み入れると、リンゴのような甘い香りとともにワオンが迎え入れてくれました。
「あんたがオオカミ? それにしては……」
ハトが豆鉄砲を食らったような顔で、ブランがワオンを見つめます。スーツすがたで、器用に二本足で歩くワオンは、オオカミというよりもウェイターさんのように見えました。
「ささ、どうぞどうぞすわって。お飲み物はなににする? ケーキもあるけど、どんなお味が好き?」
ワオンにうながされて、ブランは完全に目をまん丸にして固まっています。しかし、ルージュはくりっとした目をきらきらさせて、ワオンについていきます。
「すごい、素敵な喫茶店だわ……。あなたがマーイちゃんのいっていたオオカミさんね?」
「うん。今日は来てくれてありがとう。おいらの名前はワオン。このおとぎき……、おとぎボドゲカフェの店長さ」
少し照れたように笑うワオンを見て、ルージュはくすっとします。
「わたしはルージュ。こっちは双子の弟のブランよ。このお店、ボドゲカフェっていうの? なんだか不思議な名前ね。あ、そうだ、ケーキもいいけど、今日はわたしもおみやげを持ってきたの」
そういって、ルージュは先ほどのバスケットをテーブルの上に置きました。花いっぱいのバスケットを見て、ワオンは「わぁっ」と思わず声をあげます。
「すごい、お花いっぱいつんできたんだね。うれしいな、今日のカードゲームも、お花がいっぱいだからぴったりだよ」
「カードゲーム? でも、ここ喫茶店って聞いたけど、カードゲームもできるの?」
ワオンの言葉に、ルージュはくりくりした目をぱちくりさせて、首をかしげます。ワオンはチラッとマーイを見てから、こくりとしました。
「うん。このカフェの名前、『ワオンのおとぎボドゲカフェ』っていうんだけど、ボドゲカフェのボドゲは、ボードゲームのことなんだよ。あ、もちろんうちはカードゲームも取り扱っているよ。それで、おいらが作ったケーキや紅茶を楽しみながら、ゲームを遊んでもらうんだ」
ゲームと聞いて、ルージュの目がまたしてもキラキラし始めます。さらにブランも、そわそわしながらワオンのほうを盗み見ています。
「ゲームで遊べるだなんて、すごいわ、面白い喫茶店ね。ねぇ、ワオンさん、いったいどんなゲームがあるの?」