ピノ子
わたしはピノ子。3才。
わたしのおうちはね、まちのはじっこのおうちがたくさんならんでいるところにあって、
2かいだてのあおいやねのおうちなの。
おにわには、しばふとお花がたくさんあって、これがわたしのじまんなの。
あ、そうそう。
わたしは「じまん」っていうむずかしいことばも、ちゃんとしってるの。
えらいでしょ?
おかあさんはね、まい日ぼうしをかぶって、手ぶくろをはめて、お花のお手入れをするの。
わたしは近くで見ていたいんだけど、いつもおうちの中でおるすばん。
土をさわったらよごれるし、あやまってたべたら大へんだから、おかあさんはそれをしんぱいしているみたい。
だいじょうぶなんだけどなぁ。
そのかわり、わたしにはとくべつなせきがあるのよ。
それは、げんかんのおくのまどが出っぱったところよ。
おにわのようすが、ぜんぶ見えちゃうんだから。
* * *
ある日のわたしはおるすばん。
いつもの出っぱっているまどでおるすばん。
そしたら、しばふのせんたくものをほすぼうの上にカラスが止まったの。
あいつはてんてき!おいかえさなきゃ!
「てんてき」もむずかしいことばだけど、私はちゃんと言えるよ。
わたしがカラスにおこって見せると、カラスはだまってしらんかお。
もう一ど大きくおこってみたけど、やっぱりカラスは知らんかお。
「おっかないかおで、ガラスのむこうからにらんでも、全ぜんこわくないよ」
って言ってるみたい。
しばらくカラスはそこにいて、私とずーとにらめっ子。
だけど3回目にわたしがおこってみせたら、ようやくカラスはにげていったわ。
ふぅ…これで一あん心。やく目をちゃんとはたしたわ。
どう?わたしはとってもいい子なのよ。
「やく目」っていうのもしってるんだから。
* * *
つぎの日のあさ。
…おはよう。ちょっとねむい。
えーと、わたしはいつも、おかあさんのへやに行って、おかあさんをおすの。
えらいでしょ?
ベットはたかいけど、ジャンプをすればへっちゃらよ。
見ててね。
よっこいしょ。
…あらら。
足がふらふらして、上手くのぼれない。
よし、もう一回。
よっこいしょ。
よし、かんぺき!
そして、おかあさんのおふとんにもぐって、おなかをさわったり、おかおをさわったり。
でも、めずらしく、きょうのおかあさんはなかなかおきてくれない。
きのうお出かけしたから、つかれているのかなぁ。
わたしはおふとんの中を行ったりきたり。
一人でちょっと、つまんない。
でも、おふとんはあったかくて、だんだん気もちよくなってきた。
んーーー。おかあさんもまだねているし…。
…。
何分たったかわからないけど、そのままわたしはねてしまいました。
* * *
またつぎの日。
わたしはおかあさんといっしょにおさんぽをしたの。
外はいいお天き。
コンクリートのどうろはちょっとあついけど、つめたいゆきの上よりはあるきやすいわ。
おうちにかえってきたら、ちかくにすんでいるユリちゃんとトシくんにあったの。
ユリちゃんはおねえちゃんで、トシくんはおとうと。
ユリちゃんはわたしをだっこしてくれるのが上手なのよ。
せなかをやさしくなででくれるもん。
でもトシくんのだっこはきらい。
足がちゅうぶらりんになって、おっこちちゃいそうなんだもん。
一回ほんとうにおちたときがあったわ。1メートルくらいのたかさから。
けがはしなかったけど、いたかったんだからね。
だけど、やっぱり…。
一ばんだっこが上手なのはおかあさん。
いつのまにか、うでの中でねちゃったことが何どもあったわ。
そんなことをかんがえていたら、
ユリちゃんとトシくんと、わたしのおかあさんのおしゃべりがおわったみたい。
さいごの、おわかれのときは、いつもバイバイ。
おかあさんのかたの上で、おかあさんにまえ足をつかまれてわたしもバイバイしたわ。
* * *
わたしはピノ子。3才。
「ピノ子ー。ご飯よー。」
おかあさんのやさしいこえに、きょうも「ワン!」とげんきよくへんじをしました。