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悪役令嬢、婚約破棄シリーズ

婚約破棄された少女は、新たな契約を結ぶ。

作者: 巫月雪風

 第1万回聖竜祭前日、少女リーネは婚約者である王太子リックから婚約破棄を宣言される。

 それを大人しく受け入れた彼女だったが、王太子は知らなかった。


 実は彼女は王国、いや人類とある契約を行っていた。


 彼女はその契約を行う直前、王太子の新たな婚約者である侯爵令嬢に、新たな契約を持ち掛けられた。


 本小説は、以前アップした、【婚約破棄された少女は、契約を執行する。】の改訂版になります。

https://ncode.syosetu.com/n7971gs/

 登場人物や設定は同じですが、流れ等かなり変わっていますし、なにより結末が全く違うものになっております。

 かつて、人々が住んでいた世界はまるで地獄のようだった。

 人々は救いを求めた。

 聖竜は人々の願いを聞き入れ、人々を平和な世界へといざなった。

 人々は聖竜への感謝を忘れぬよう、この世界に来た日を記念日とした。

 これが聖竜祭の起源である。






 この世界に唯一存在する国の王太子リックは、自身が主催する小規模なパーティにおいて、その宣言を行った。


「リーネ嬢、あなたとの婚約を破棄する。

 明日の第1万回聖竜祭でのお前との挙式は行わない。私は元々の婚約者アイナと結婚する!」


 リックの隣には、公爵令嬢アイナが控えている。

 美しい二人が並ぶ様は、まるで絵画のようである。

 それに比べ、リーネはどこにでもいるような顔立ちをしていた。


「お前のように貴族ですらない人間との婚約というのがそもそもおかしいのだ。

 いくら国王たる父上の命とはいえ、このような事、許されるわけがない」


 そう、リーネはそもそも貴族ですらない。

 昨年の聖竜祭の翌日、いきなり国王が彼女と王太子の婚約および第1万回聖竜祭での結婚を宣言したのだ。

 今ある婚約を無理やり破棄させて。

 当然大勢の貴族が反対したが、国王夫妻は半ば強引に事を進めた。


 それでもリックは頑張った方だろう。

 リーネを好きになるために努力した、

 しかし、リーネはいつも「見た事がある」「面白くない」「つまらない」と言って、リックを困らせた。

 そして、「もっと面白いところへ連れていけ」「私が見たことの無い物を見せろ」と言うのだ。

 そんな彼女にいい加減リックは疲れてしまっていた。

 未来の王妃として必要な勉強も仕事も、きちんとしたのは数日のみ。

 しなくなった後は、教育係兼秘書となったアイナに全てをやらせていた。

 だが、もしそれだけならば、このように国王の意向を無視しての強引な婚約破棄などは行わなかっただろう。


「貴様が来てから、父上も母上もおかしくなってしまった。

 本来は貴様に責任を取らせ、死刑にしたいところだが、証拠がない故、追放処分とする!」


 そう、リーネが現れてから、国王夫妻はおかしくなってしまった。

 今まで贅沢を良しとせず、お金のほとんどを民の為、国の為に使ってきたが、リーネに対して湯水のごとく金を使ったのだ。

 金に糸目をつけずに名品珍品を買ってはプレゼントし、時には彼女の為だけに様々なイベントを行い、またある時は名の知られた大道芸人等を呼び寄せたり……


 無論、リックとて戒めた。

 しかし、国王夫妻はそれを聞き入れず、金を使い切り、足りなくなると税を増やすなどして、リーネの為に金を使っていた。

 そして、リックに対し「もっとリーネと仲良くしろ」と言ってくるのだ。


 あまりの変貌ぶりに、リーネが何かしているのではないか、とリックは考え、リーネの事を調べられたが、分かったのは彼女の情報、例えば生まれや家族、今まで何をしていたのか等、が何も分からないという不思議な事だった。

 では、彼女が魔法や洗脳等で国王夫妻を操っているのでは、と考えられたが、専門家に調べてもらっても何も出てこなかった、


 しかし、これ以上金を食いつぶす彼女を放置しておくわけもいかず、今までの経験から両親に何を言っても無駄だ、と思ったリックは、この婚約破棄に踏み切ったのだった。


「いいですよ。わかりました」


 もっと暴れるかと思ったが、意外と物分かりが早くて助かった、とリックは内心で感謝した。


「おっしゃられた通り、すぐ出ていきます。ですが、きちんと契約は執行させていただきます」

「契約?」


 彼女が婚約者に選ばれた理由がそこにあるのだろうか?

 リックがそう訝しむと、


「まあ、婚約が破棄されようと執行されようと、結果は変わらないと思いますけどね。

 結婚式は楽しみでしたが、相手がこんなつまらない男では、ね。」

「どういうことだ!!!!!」


 リックは怒鳴ったが、リーネは彼を無視し、


「では明日、聖竜祭終了後に契約を執行しますので、()()()()()


 そういうと、リーネはパーティ会場を出て行った。






「なんて馬鹿な真似をしたんだ!!!」

 

 翌日、第1万回聖竜祭の日の朝、リックは父である国王にそう怒鳴られた。

 リーネがいない事に気づいた国王夫妻が調べたところ、婚約破棄の事実が発覚し、急遽リックを呼び出したのだ。


「父上、いい加減に目を覚ましてください!

 リーネが来てから、父上も母上もおかしくなってしまっています!

 国の為に使う金を彼女一人の為に使うなんて間違っています!」

「そんな事は分かっている! だが、そうしなけらばならなかったのだ」

「その理由を教えてください!

 そもそもなぜ平民である彼女と結婚せよとおっしゃられたのですか?

 リーネが言っていた、契約と関係あるのですか?」

  

 そう、そもそも平民であるリーネとの結婚はありえないのだ。

 つまり、そのありえないが起こった原因は、契約の内容にあるのだろう。


「やはり約束を破っても言っておくべきだった。これでもう世界は終わりだ……」


 国王は涙ながらにそう絶叫した。

 世界が終わり……

 なぜ、一平民との婚約破棄が世界の終わりにつながるのかわからなかった。


「お前は聖竜祭の起源を知っているか?」

「聖竜が我ら人類をこの世界に送ってくれた感謝を示すための祭りです」


 そんな事誰だって知っている。

 なぜ父はこんな事を聞いてくるのだろうか?


「私もそう思っていた。

 だが昨年の聖竜祭のあと、リーネ嬢が我らの前に姿を現したのだ」


 部外者たる彼女がいきなり国王夫妻の前に現れたのには驚いたが、直感で分かった。

 彼女が人外の者であると。


「彼女はこう聞いたのだ。

 いったいいつになったら見せてくれるのだ? 最近は呼ばれもしない。期限は来年だぞ、と

 それで私は彼女に尋ねた。

 見せるとは何のことだ。期限とは何のことだ。

 それに関する彼女の回答は、恐ろしいものだった。


 あなたたち人類をこの世界に連れていく時に私はあなたたちと契約を結んだ。

 私は何億年も生きた。私は何でもできる。でも、だからこそ生きるのに飽きている。

 連れていく対価として、1万年以内に、今まで見た事もないものや面白い物を一つ見せろ。

 そうすればこの世界をくれてやる。

 だけどもし駄目だった場合、契約違反として、この世界ごと滅ぼす。

 それをあなたたち人類は承諾した。 

 最初の数千年の内は色々見せてくれたが、ここ数千年何も見せてくれない。

 期限は来年だ。

 早く見せろ。


 これが彼女が語った契約の内容だった。」


 国王はその時の恐怖を思い出し、震えた。


「それで気づいた。彼女は聖竜だと。

 つまり、聖竜祭は契約の期限の1万年目へのカウントダウンを忘れぬようにする為だと。だが、月日が経つうちに、我らはその意味をわすれてしまったのだ。

 そして彼女は第1万回聖竜祭、つまり人類がこの世界に来て1万年目の日に契約違反としてこの世界を滅ぼすつもりだと。

 しかし1年で今まで見たこともないものや面白いものを用意できる可能性は少ない。

 だからお前を婚約者にしたのだ。

 何億も生きる聖竜だからこそ、愛を知らぬだろうと。

 実際彼女に聞いたのだが、愛されたことはないと言っていた。

 王太子との恋愛、そして聖竜祭という記念すべき日の贅を尽くした結婚式、これを自身で体験する。

 これこそ今まで経験した事のない面白いものだろう、と 

 実際彼女はこう言っていた。王太子はつまらない。

 だが、自分の結婚式はとても楽しみだ、と

 こんな面白そうなイベントは初めてだ、と


 この契約の内容をお前に知らせることも考えたが、リーネ嬢は知らない方が面白そうだから黙っていろと言ったのだ。

 たしかに、この事をお前に知らせると、緊張して関係がうまく進まない可能性がある、そう思い、私はお前に言わないと彼女と約束した。

 だが、こんなことになるなら、お前に知らせておけばよかった。

 結婚式を行えば、彼女も満足するはずだったのに……」


 涙を流す父を前に、リックは震えた。

 リーネは言った。

 聖竜祭終了後に契約を執行します、と

 もうすぐ聖竜祭が始まる。

 そしてリーネは自分の言う事を守って、どこかに行ってしまった。


 もう打つ手がない。

 この世界はもう終わるのだ、と

 だが、その日、第1万回聖竜祭が終わっても、聖竜は姿を現さず、世界も滅ぼされなかった。

 その代わり、リックの元に1つの訃報がもたらされた。

 彼の元々の、そして新たな婚約者である、公爵令嬢アイナが亡くなったという知らせが。






 時は、リーネが追放された数時間後、第1万回聖竜祭を翌日に控えた深夜にさかのぼる。


 王都にある公爵家の屋敷の一室で、リーネはくつろいでいた。

 彼女はパーティ会場から出て行った後すぐに馬車に乗せられた。

 国外追放だから未開の地にでも連れていかれるのか、と思ったが、連れてこられたのがここだった。

 そしてこの部屋で待っていてほしいといわれ、出されたお茶やお菓子を食べながら待っていたのだ。


「お待たせして申し訳ありません。リーネ様」

 

 そう言い、現れたのは公爵令嬢のアイナだった。

 リーネは慌てて立ち上がると頭を下げた。


「いえ、追放された私に情けをかけ、このような場所に連れてきていただき、誠にありがとうございます。まして様付けなどもう必要ありません」

「そのような事ありませんよ。それに、頭も下げなくても構いません。

 どうぞ楽にしてください」


 そういってアイナはリーネの対面にあった椅子に座ると、アイナも再び椅子に座った。


「実は、リーネ様と1対1でお話がしたかったのです。」


 そういってアイナがちらりと部屋にいたメイドの方を見ると、メイドは頭を下げ、この部屋から出て行った。

 こうして、この部屋にいるのはリーネとアイナだけになった。


「それで、どのようなお話なのでしょうか?」

「その前に……

 もう演技はいいんですよ。リーネ様。

 いえ…… 聖竜様」


 その言葉を聞いたリーネの雰囲気が、いきなり変わった。

 どこにでもいる平民の少女が持つものから、人外の化け物が持つものへと。


「へぇ…… やっぱり知っていたんだ……

 って事は私とあんたら人間がした契約内容も当然知ってるんだよね」

「ええ、あなたとリック様との婚約が発表された後、私だけ陛下から全てお聞きしたのです。

 パニックになるから他の人に決して言ってはならないとの警告と共に。

 そして、あなたの教育係兼秘書として、あなたをサポートしつつ監視しろ、さらにあなたの趣味嗜好を調べて報告しろ、と言われていたのです

 さらに、可能ならば殺せ、と」

「へぇ、そんな事してたんだ。全然知らなかった」

「ええ、殺害計画は全て失敗しましたし……」


 実際様々な殺害計画は、すべて徒労に終わった。

 最初は、賊、もっとも正体は公爵家や王族直属の暗殺者だが、に襲わせて殺害しようとしたが、すべて駄目だった。

 しかも、リーネは賊を撃退したわけじゃない。

 何もしなかったのだ。

 全ての攻撃は、彼女に傷一つつける事が出来なかったのだ。

 挙句の果てには、「もう飽きたからどこかに行ってくれない?」とか「邪魔だからどいてくれない?」と言われる始末だった。

 次に毒殺も試したが、彼女は平気な顔をしていた。

 実際今彼女が食べているお菓子や飲み物だって、苦労して集めた猛毒だ。

 でも彼女は気にせず食べていた。

 つまり、殺害は不可能なのだ。

 絶対に。


「ってかさ、だったらなんで婚約破棄止めなかったわけ?

 あんたが言えばしなかったと思うけど?

 私、結構結婚式楽しみにしてたんだけど」

「無論、止める事も出来ました。

 ですが、結婚式を行っても、あなたが満足しない可能性が高いと思い、止めなかったのです。

 リック様はあなたの事を心底嫌っていた。

 あなたと一緒にいる時、リック様は笑顔でしたが嫌悪感は全く隠していなかった。

 そんな相手と一緒にいたら、どんなに楽しい結婚式でも楽しめるものではないでしょう?」

「ま、そりゃそうよね。

 だから私も結果は変わらないって思っていたし」

「ええ、ですが結婚式を行うとなると、その準備で時間を取られてであなたと2人きりでお話が出来ないので、この婚約破棄を行わせることにしました」


「ふぅん。ま、いいけど。

 で、私にいったい何のようなわけ?

 まさかこのお茶とお菓子を食べさせる為に呼んだわけじゃないでしょ?」

「ええ、もちろんです」


 無論、このお茶とお菓子に含まれた毒で死んでくれれば話は早かったが。


「私は、聖竜様と新たな契約を結びたいのです」

「へぇ…… 明日には滅びる生き物がいったいどんな契約を結びたいわけ?」


 リーネは心底馬鹿にしたように言ったが、アイナはそれを気にせずに続けた。


「具体的な内容の前にお聞きしたいのですが、聖竜様は過去に行くことはできますか?」

「出来るわよ。したこともあるし。

 私って何でも出来るからね。

 出来ないのは自殺と退屈を埋める事ぐらいなんだよね」

「ですが、過去に行った場合、聖竜様が2人いる事になるのでは?」

「ああ、それなら大丈夫。

 過去移動っていっても、記憶の上書きに近いから。

 存在する私は1人だけだよ」

「加えてお聞きしたいのですが、聖竜様が過去に行った場合、この世界はどうなるのですか?」

「並行世界として存在し続けるよ。」

「そうですか。それを聞いて安心しました。」


 そういってアイナは笑うと、話を続けた。


「実は、聖竜様に過去に行って欲しいのです」

「えー! なんでー!

 過去に戻ったって面白いことがあるわけないじゃん。」

「ええ、過去に行っても聖竜様に面白い事は何も起こらないでしょう。

 普通なら、ですが」

「へぇ、それって普通じゃない事を私にしろって事?」

「ええ。具体的な内容ですが……」


 そして、アイナは契約の内容を話した。


「ふぅん。変な事考えるんだね。

 でもさ、それでも面白い事が確実に起こるわけでもないし。

 やる価値あるのかなぁ?」

「ええ、たしかに絶対に起こるとは言い切れません。

 ですが、この内容を実施すれば、より愛を感じられ、面白くなる可能性は高いと思われますが?」

「で、私が過去に行く、という事はその分時間稼ぎができるってわけか」

「ええ、しかも聖竜様は先ほど、この世界が並行世界として存在し続ける、とおっしゃりましたね

 ですから仮に聖竜様をご満足させなくても、どちらかの世界は残ります」

「は? 何言ってるの?

 私、契約は絶対守るわよ」

「ええ、でしょうね」


 アイナは楽しそうに続けた。


「ですが、聖竜様との契約内容は、この世界を滅ぼす、という事ですよね?

 そして、2つ存在する世界の内、1つを滅ぼせば、その契約は履行されたとも言えます」

「だけど、1つの世界は残るから、契約は履行されていないとも言えるよね」

「ええ、無論それを判断するのは聖竜様です。

 ですが、おそらく聖竜様にとって、世界を滅ぼす事なんて、つまらない事でしょう。

 いちいちこの世界に戻って世界を滅ぼすなんて、そんなつまらない事をするぐらいなら、面白い事を探しに行ったほうがよほどいいかと思いますが?」

「なるほど、確かにそうかもね。

 でもなぁ、残った世界の奴らに、契約履行されなかったって言われるのもなぁ」

「嘘を言わないでください。

 聖竜様にとって、人間のような下等生物になんと言われようとも全然気にならないのでは?」

「まぁね」


 今度はリーネも楽しそうに笑った。


「ま、いいや。

 別にあんたと契約結ばなくてもいいけど、面白い事も起こるかもしれないし。

 いいよ、契約しても」

「ありがとうございます」

「ただし、追加内容がある」


 そう言うと、リーネはアイナに対して嘲るように言った。


「あんたの魂が欲しい。」

「魂、ですか?」

「過去に戻る前に、あんたの魂を抜き取る。

 あ、ちなみに魂を抜くとあんたの肉体は死ぬからね。

 で、もし面白い事が起こったらこの世界に転生させてあげる。

 もちろんいい条件でね。

 でも、もし起こらなかったら未来永劫私の奴隷としてこき使ってあげる。

 この条件を飲むなら、契約を結んであげるけど?」

「構いませんよ」


 この回答に対し、さすがにリーネは驚いた。


「へぇ、即答しちゃうんだ」

「ええ、私一人の犠牲で世界が救えるのなら、本望です。」


 アイナのその言葉に嘘はなかった。

 その証拠として、彼女は心底嬉しそうに笑っていた。


「じゃ、さっそく始めましょうか。」

「ええ、構いませんよ。

 あぁ、そうだ。最後に聞きたい事があるのですが。」

「何よ?」

「聖竜様の本当のお名前ってなんていうのですか?

 あと、本当の姿はどのような姿なのですか?」

「忘れた。

 名前は昔はあったと思うんだけど、昔過ぎて忘れたし。

 姿もしょっちゅう変えるから、本当の姿は忘れた。

 私が聖竜って呼ばれるのは当時竜の姿からだったからだし。

 ちなみに、このリーネって名前は王妃が名付けたもので、この姿になったのはさすがにいきなり人間の前に竜が現れるのはどうかなって思って適当な人の姿を真似たものなんだよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 そういうと、アイナは魂を抜き取られ、命を落とした。


 翌日、いつまでたっても出てこないアイナを心配したメイドが彼女の遺体を発見したのだが、その時、すでにリーネの姿はなかった。

 アイナの遺体の顔は、満足したような満面の笑顔だった。






★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 その日、公爵令嬢アイナは緊張していた。

 今日、初めて自分の婚約者である王太子リックと会うのだ。

 

『ねぇ、王太子はどんな人なんだろう?

 私、仲良くなれるかな?』


 王城へ向かう馬車の中で、アイナは心の中に語り掛けた。


『あなただったら大丈夫!

 きちんと愛を育んで、イチャイチャすればいいのよ』

『そんな言い方しないでよ……』


 アイナには秘密がある。

 彼女の心の中には、もう一つの人格があるのだ。

 最初は親に相談したが、結局誰にも信じてもらえなかったので、今は誰にも話していない。


 でも、アイナはこの自身の体に住み着く同居人を気に入っていた。

 時には親に言えない悩みを相談したりと、ある意味親以上に信頼していたのだ。


 同居人に励まされたアイナは、不安な気持ちを抱えながらも、これからの日々を想像した。

 きっと、大変な事が起こるだろう、つらい事も起こるだろう。

 でも、この同居人と一緒なら、きっと楽しく、面白い日々になるだろう。

 そして、まだ見ぬ王太子と、愛を育んでいくだろう、と。















『ふふふ…… さぁ、私を楽しませてちょうだい』

 アイナの心の中で、同居人は聞こえないようにそう言って、笑った。

 お楽しみいただけましたでしょうか?


 前書きでも書きましたが、こちらの小説は、以前アップした、【婚約破棄された少女は、契約を執行する。】の改訂版になります。

https://ncode.syosetu.com/n7971gs/


 最初は、普通に修正を行う予定でしたが、何より結末が変わってしまうのが嫌だったので、このように別の形にすることにしました。

 さらに、タイトルも嘘になってしまいますので。



 よろしければ、ご意見ご感想以外にも、誤字脱字やおかしいところを指摘していただけると幸いです。


 星での評価もお願いいたします。

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[一言] 今回の話も良かったです アイナが、健気すぎる… 新しい世界で、幸せになって欲しい でも、元の世界のリックはアイナの死をリーナが原因と思って、もう存在しないリーナに復讐を誓いそう リッ…
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