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流れて、春  作者: うみneco
3/3

02 家出少女


午後8時を回る頃、流石にお腹が空いたと身体が訴えてきた。


 ぐるぐると鳴る腹の音に佳代子は苦笑いした。

「生きてたらお腹も減るよね」

 涙でカピカピになった顔を洗い、洗面台に写った顔を睨み付けた。こんな顔だったっけ?と、鏡に写る自分をはたと見やる。ごしごしと乱暴に顔の水を拭い、玄関に置いてある車の鍵をパンツのポケットに突っ込んだ。潰れてしまったbBの代わりに、新しく購入した車は真っ赤なボディがかわいいミニクーパーを選んだ。理由は妹に勧められたから、と至極単純なものだ。


「何にしようかな」


 坂を降りてすぐの駅近くのコンビニに入った佳代子はお弁当コーナーの前で頭を傾けた。

 コンビニ弁当をいくつか物色し、結局いつもと同じデミソースオムライスを手に取った。レジでオムライスを差し出し、181番くださいとタバコを頼む。


「こちらでよろしかったですか?」


「はい」


「お会計953円になります」


「PayPayで」


「かしこまりました」


「どうもありがとうございます」


「ありゃしたぁ」


 愛想のない店員からオムライスとタバコを受け取り、車に乗り込んだ。踏み切りの前でコーラを買っていないことに気がついたが、めんどくさくなりそのまま帰路についた。


 踏み切りを越え、ゆっくりと坂を走っていると見慣れた人影が目についた。


 窓を開けて大きく叫ぶ。


「ゆうき!」


 人影はビックリしたようにこちらを向くと、無言で車に乗り込んできた。


「佳代子いるとかラッキーだったわ」

「いや、勝手に乗ってくんなよ」

「呼び止めたってことはそういうことだろ」


 にたりと笑う男は佳代子の大学時代からの友人であり、今は某出版社で連載する漫画家様である。名前は榎本祐希。

 祐希の手にはパンパンに膨らんだエコバックが握られていた。


「お前のとこ行く途中だったんだよ。コーラも買ってるんだからいいだろ?」


 膨らんだバックは大量のコーラとお菓子であった。佳代子はそれを一瞥すると、はぁとため息をついてアクセルを踏み込んだ。


「階段」


 ん?と、祐希が首をかしげる。


「階段上るの肩かしてよね」


 勿論だ、と祐希は嫌みな顔でにたりと笑った。ふんっと笑い返すが、この男はどうしてこうも邪険な顔しかできないのか。佳代子は目を細めた。


「綺麗になったな」


 家につくとコーラを冷蔵庫に突っ込みながら祐希が呟いた。


「前にきたのは…」

「桜子がまだ生きてたときだよ」


 そうだったそうだった、と繰り返し答えて、佳代子にコップを手渡す。


「PCもないじゃん、仕事は?」

「休みにした」

「また、なんで」

「困ってないからよ」

「あっそ」


 聞いておいてその態度かよ。むかりとした感情をそのままぶつけるが、祐希はお構いなしと寛いでいる。


「じゃあ俺の頼み聞いてくれない?」


 はぁ?と、怪訝な顔を向けるが関係なしと祐希は続けた。


「知り合いの女の子がね、家出してんのよ」

「それで?」

「今うちにいる」


 思わず飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。それもそのはず。祐希の家は男所帯の漫画家、同棲、激狭物件だからだ。


「彰人さんはなんて?」

「娘ができたみたいって猫可愛がり」

「そらようござんした」

「おかげで家に帰ってくるのがはやくなりましてね、彼ったら」

「もっとよかったじゃん」


 祐希はよくねーよ、とごちてコーラを一気に喉に通した。


「その子しばらく預かってよ」

「なして」

「うちじゃ狭いし、なによりおっさん二人の家に女の子はまずいでしょ」

「でも二人ともゲイじゃん」

「そーゆー問題じゃない!」

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