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片恋心中  作者: みづは
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中島がいないだけで、その日は平和だった。

全ての授業を終えた放課後、雅実は国枝を連れて校舎を後にする。

坂木の見舞いに行こうと言う事になったのだ。一人で行くほど仲が良かった訳でもないので、国枝と一緒なら演劇部として見舞いに来たと言い訳になる。

部長が入院で、裏方を仕切っていた沢村が自宅謹慎中なのだ。部室にいて繕い物をしていても虚しいだけだった。それなら見舞いに行く方が建設的だろうと提案したら国枝が頷いたので連れて来た。

道中、話が弾む訳もなく沈黙が重たかった。

病院のエレベーターでそれに飽きた雅実は、少し離れた所で俯いている国枝を盗み見る。

こんなに気弱で主人公を演じられるものだろうか。だが、坂木と沢村はそう強弁していたのだ。藤原は惚れた欲目と言う事にしても良かったが、演劇部にとって中心となる人物がこんなにも推すのだから、それなりの理由はあるのだろう。

確かに顔立ちは綺麗な方だろうと思う。

陽に灼けない体質なのか、肌は白く唇はグロスを塗ったように赤く艶やかだ。髪は真面目な性格通り染めておらず、真っ黒。その所為かどちらも際立って見える。

そして、黒い瞳とそれを縁取る睫毛の長さ。マッチ棒が三本は乗りそうだ。

いつもオドオドしてばかりで笑ったり怒ったりしない、ある意味では無表情。その所為で国枝が美少年だと言う事に気付いてない者も多いだろう。

お七を演ったら、こりゃ化けるわ。

そう思うが、どうにも国枝の性格と言うか人柄のような物がハッキリと掴めない。

主役なんて、と尻込みする割りには演劇部を辞めようとしないのだ。

やりたいのかやりたくないのか、ハッキリして欲しい。

「安藤先輩……?」

チラッとだけ見るつもりが、ガン見してたらしい。

国枝が戸惑ったように雅実を恐る恐る見上げている。

「あ、ごめん」

バツの悪さに咳払いをして、適当な話題を引っ張り出す。

「国枝は兄弟いる?」

唐突な雅実の質問に首を傾げて「いませんけど」と答える。

「でも、年上の従弟がいましたよ。その人を兄のようだったと言えない事もないです」

珍しい。

口籠りながらではあるが、国枝が質問以上の答えを言った。

それに気をよくして雅実は続けて問い掛ける。

「年近い?」

「十才離れてます」

ほー。

そんなに年が離れてたら、さぞかし可愛がられただろう。国枝の属性から言って年上に好かれそうだし。

「ん……でも、兄のようだったって過去形?」

時差を置いてふと疑問に思う。

独り言のようなものだったが、国枝にも聞こえたらしく困ったように小さく笑う。

「死んだんです、去年。自殺でした」

淡々とそう言う。一年もあれば、心の整理がついているのだろう。

だから、同じ部活と言うだけの雅実にも話せた。

だが、何故そこで苦笑する?

釈然としなかったが、エレベーターが目的の階に付く音がして話はそこまでとなってしまった。


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