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片恋心中  作者: みづは
18/43

18

翌朝。

学校へ行く途中で背後から呼び止められ振り返ると、前日に比べて爽やかさの増した佐伯がいい笑顔で立っていた。

イケメン爆発しろ。

意味もなく呪詛を吐いて「何ですか」と答える。

「妹を助けてくれたみたいで、そのお礼を」

「いりません」

アッサリと拒絶して再び前を向く。

だが、佐伯は諦めずに雅実の隣に並ぶ。

「何があっても真っすぐ帰れって言っといたんだけど、気になったみたいで隠れて見てたらしいんだ。カッコいいって感動してたよ」

どうせ藤原の事だろう。

何しろ雅実は軽口を叩いただけで特に何かをしたと言う訳ではない。それに引き換え、藤原は大活躍したのだ。

「仲間引き連れて仕返しなんてしようものなら、生まれて来た事を後悔させてやる」

佐伯の言葉に雅実は足を止める。

昨夜、同じ台詞を口にしたような気がしたのだ。少しばかりテンションが上がって柄にもなくはしゃいでしまった。いかんいかん、これからは慎もう。

「そう言った顔がカッコ良かったって一晩中大騒ぎしてたよ」

佐伯の妹はどうやら不良に憧れてしまうタイプらしい。中二病のようなもので、時が経てば黒歴史になる事だろう。

「まだ根本的には解決してないんですよ」

溜め息混じりにそう告げると、「分かってる」と相槌が返って来る。

根本的な解決。それは中島の排除しかないだろう。

だからと言って、何も物騒な事を仕出かすつもりはない。中島にはこれまでの行いに対する報いを受けて貰おうと言うだけだ。

そもそも、これまで野放しだった方がおかしいのだ。

同級生に対するイジメ、部員イビリ。これだけでも問題になっていいのに、昨日の男のように金で雇った連中を使って犯罪紛いの事もしていたに違いない。

警察に通報すると言う方法もあるにはあったが、余りあてには出来ない。

金で雇った男に中島は身元を明かしていないのだ。雇われた側の証言だけでは警察が本気で捜査してくれるとは思えなかった。

だが、分かった事もある。

中島に取り巻きなどいないと言う事だ。

佐伯を強引に連れて歩いていた事もそうだし、行きずりの男を雇ったのもそう思う根拠としては充分だった。

残る問題で厄介なのは、中島が金を握っている事だった。

だからこそ、雅実は何度も『根本的な解決ではない』と繰り返しているのだ。

佐伯の妹が無事だと知ったら、また違う男を雇うだろう。バカな男は掃いて捨てるほどいるのだ。

それを阻止するには中島の資金源を探る必要がある。

「お金持ちの親戚……」

噂で聞いた程度だが、矢張りそれが中島の資金源なのだろうか。

ふと思いついて隣を歩く佐伯を見つめる。

「佐伯先輩はお金持ちですか」

「……薮から棒に何の話?」

「お年玉の総額を教えて下さい」

ちなみに雅実が貰ったお年玉は全部で二万三千円だ。両親から一万と、祖父母から一万、兄の勇一からは三千円だった。

「これから受験もあるから俺はお年玉貰ってないよ」

殊勝な事を言う。

雅実は意外だと言うように佐伯を見つめる。

「お年玉って言っても微々たる金額だからね。塾や大学入試に回してくれって言ってある」

「立派な心がけです」

部活の帰りにお茶して行く雅実にとって耳の痛い話になった。

どうしてこんな話になったんだろう。

首を傾げて思い出す。

「親戚に億万長者がいたりします?」

「……安藤って変わってるんだな」

残念そうな溜め息をつく佐伯に失礼なと思いながら雅実は切り口を変える。

「じゃ、質問を変えます。億万長者が親戚にいたとして、しょっちゅうお小遣いを貰えますかね?」

「どうだろうな。絶対にくれないとは言えないし、どういう続柄かにもよるんだろうけど……少し不自然かな」

「どこら辺が?」

「一緒に暮らしているなら顔を合わせる事も多いだろう。でも、親戚と一緒に暮らしてるって事はよっぽど大きな家か、そうじゃなかったら両親と別に暮らしてるって事になるんじゃない?」

成る程。お小遣いを貰うには親戚と会う必要がある。まさか銀行振込にしてまで小遣いをやろうと言う妙な親戚もいないだろう。当たり前と言えば当たり前だ。

「でも、中島の資金源はお金持ちの親戚なんです」

噂でしかないが、他に考えられないのだ。幾ら中島が女王様のように振る舞いたいからと言って、アルバイトをしてまで男たちに札ビラ切ったりはしないだろう。

「その噂か……聞いた時は気にしなかったけど、確かに言われてみればおかしな話だな」

「噂と言えば、もう一つ気になる事が」

「驚くほどのマイペースだな。何?」

不必要な枕詞を無視して、雅実は続ける。

「中島の取り巻きって本当にいたんですかね」

いや、いたのだ。

雅実が演劇部の定期公演を観た時、確かに観客席に何人かの男子がいた。

だが、雅実が演劇部に入ってから何度か中島と接触したが、その男子の姿を目にした事はない。

何かがあって、取り巻きが中島から離れたのだ。

その原因として考えられるのは、中島が金を惜しんだからではないだろうか。だが、昨日の男は中島から二万円で佐伯の妹を襲うのを引き受けたのだ。

見知らぬ男に二万払えるのなら、取り巻きに頼んでもいい筈だった。もっと言うなら佐伯を無理に引き込む必要などないのだ。

「取り巻きが離れたのは金の問題じゃないとすると……」

中島に飽きたのだろうか。

お世辞にも美人とは言えない。ただ化粧が濃いだけの中島が男を引き連れて歩けたのは、身体を使ったからだ。それにも飽きたのなら、中島を女王様として扱う理由はない。

だが、全員が一斉に離れるだろうか?

「佐伯先輩、頼みがあります」

「何人かに聞いてみるよ」

察しのいい佐伯の返事に、雅実は爆発しろなんて思ってすみませんと心の中で頭を下げる。


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