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どこまでも体育会系な兄とは反対に、雅実はかなりのインドア派だった。
だから中学時代も身体を動かすような部活は避け、吹奏楽部に所属していた。そうは言っても名簿に載っているだけの幽霊部員だったのだが。放課後の時間を部活で費やすには、少し協調性の足りない性格をしていたのだ。
だから、高校に入ってからは潔く帰宅部を名乗っていた。
そんな雅実が唐突に演劇部に入ったのだから、沢村が訝しく思うのも無理はないのかも知れない。
兄の所為で有名だったとしたら、ある程度の個人情報も一緒に流れていただろうから、裏があると思われて当然だった。
言ってしまおうか。
雅実は目を伏せて逡巡する。
これまで親しく口をきいた事はなかったが、沢村は信頼に足る人物だと思う。おまけに頭も良さそうだ。
だが、それでも最後の踏ん切りがつかない。
雅実の目的は気軽に言えるような物ではないからだ。下手をしたら学校全体を巻き込んでしまう。
躊躇うばかりで口を開こうとしない雅実から目を逸らし、沢村が静かに言う。
「多分、私たちの目的は同じだと思う」
矢張りそうなのか。
雅実は声に出さず納得する。それを見透かしたように沢村が続ける。
「でも、それが果たされるまでは誰にも打ち明けられない。いや、果たされた後も話すつもりはない」
「え、」
もう少しで打ち明けられそうだったのだ。それをキッパリと拒否するような言葉を投げかけられ、雅実はキョトンとする。
「共犯が多ければ、それだけ危険も増すからね」
そう言うと薄く笑った沢村がドアへと向かう。雅実はその背中を呼び止めようとするが、寸前で飲み込む。
沢村と坂木の企み。それは間違いなく中島カレンをどうにかしようと言うのだ。
坂木は怪我でリタイアしたようだが、沢村は一人でもやり遂げるつもりなのだろう。