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片恋心中  作者: みづは
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一人で行動するなと、藤原に念を押されたが、そう簡単に出来るものでもなかった。

移動教室の途中、周囲にクラスメートの姿が見当たらない事に気付いて雅実は溜め息をこぼす。

避けられてるのは分かってましたとも。だからと言って危険が目の前に迫ってると言うのにアッサリ見捨ててしまえるクラスメート達の良心が信じられなかった。

廊下の先に昨日の放課後に見た王子の姿があった。しかも、その隣には中島カレン。

イチャモン付けられるか、もしかしたら坂木と同じように怪我をさせられるか。

だが、ここで逃げ出したのでは何の為に演劇部で針仕事をしていたのか分からない。

雅実は覚悟を決めて、中島に声を掛ける。

「こんにちは。今日もお化粧がケバ……濃くて……」

適当な事を言って気を逸らそうと思ったのだが、失敗してしまう。

どうしてこうも口が軽いのだろう。ウンザリと目を閉じる。

「何が言いたいの」

中島の刺々しい声に目を開くと、まさに鬼の形相で睨まれていた。

「えぇっと……これからご出勤ですか?」

頭の中で色々考えたのだが、雅実の口から出たのはどうしようもない言葉だった。

それを聞いた中島の目がますます吊り上がる。

リンチだけじゃ済まないかも知れない。

どこか他人事のようにそう暢気に考え、取りあえずヘラッと愛想笑いを浮かべてみる。

困った時は笑って誤摩化せ。

父と兄に教わった家訓だった。

だが、誤摩化せなかったらしい。中島と一緒にいた男子に肩を掴まれ引きずられる。

「うわぁ、これはもしかして校内暴力。イジメという物じゃないんですかぁ?」

切羽詰まった状況だからこそ軽口ばかり叩いてしまう。ある種の現実逃避だ。

こうなったら現実逃避ついでに妄想をぶつけてやる。

そう覚悟した雅実はペラペラと立て板に水の勢いで喋り出す。

「坂木部長は骨折したんですってよ。痛かったでしょうねー、何しろ骨が折れたんだから、そりゃ痛いですって。しかも、階段から落ちたんだから擦り傷切り傷で満身創痍でしょうって。いやぁ、幾らナイフで脅されたからって、ちょっと慌て過ぎたんじゃないですかねー」

雅実のお喋りに肩を掴む王子の手がピクリと震える。

それを逃さず、ますます勢いに乗って雅実は続ける。

「股がユルいのだけが取り柄の誰かさんの為に傷害事件の加害者っすか。一件だけじゃなくて二件目まで現在進行中ですからねー。本当、ご苦労さまです。それで幾ら貰える約束なんですかー?」

ピシッと空気が歪むような音がして、思わず王子の顔を見上げる。

図星を刺されて憤怒の形相かと思いきや、泣出しそうな情けない顔をしている。

はて?

不可解なその表情に内心で首を傾げていると、「違う」と絞り出すような声がする。

「違う……俺はそんなつもりじゃ……」

坂木に怪我を負わせる気はなかったと言うのか。

主役から降りろとナイフでちょっと脅しただけだと言うのか。

ふざけるな。

階段でナイフをチラつかせて置いて、そんなつもりじゃなかったなんて言い分が通るとでも思ったのか。

雅実はガムシャラに暴れて三年生の手から逃れる。だが、その場から立ち去ろうとはせずに、二人の男女をキッと睨む。

「人を呪わば穴二つって言葉知ってるか」

人を呪えば、その報いは必ず返って来る。だから墓穴は二つ必要なのだ。

中島がやった事はいつか必ず中島自身に返るだろう。その時になって、そんなつもりじゃなかったと言い張ったところで手遅れなのだ。

「アンタ達はこれまで何人の部員を辞めさせたんだ、その全員の恨みを買った事に気付いてない訳じゃないよな」

他にも金をバラまいて男を寝取ったのだ。そして自尊心が満たされ、用済みになった男は捨てる。

その数は、雅実が知っているだけでも両手じゃ足りない。他にも大勢いるのだ。墓穴一つでは到底足りない。

そんな中島と関わった事で、雅実にも因果は回って来るだろう。最初から覚悟していたので、それは構わない。だが、坂木と沢村が何を思って中島を主役から外したのか。また、藤原が評した国枝の性格。その真意が明らかになるまでは大人しく従おうと思っていたが、考えが変わった。

一秒だって、こんな奴らと係わり合いにはなりたくない。

だから雅実は感情のままに啖呵を切る。

「どうしてコンビニのゴミ箱に財布を捨てたんだよ」


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