001 帰ってきた賢者
「これが救世の賢者ゼノ様のお話だよ」
豊穣の宿酒場の看板娘リーゼルっとはそう締めくくった。
「やっぱり何度聞いても現実味がないわよね〜」
答えたのは豊満な体の美魔女冒険者
「つってもまだ百年しかたってねーてんだから驚きだよなぁ」
とはスキンヘッドの偉丈夫冒険者
「でもこれは実話。間違いなくね」
そう答えたのはショートカットのエルフの美女
「んあなことわわかってるさ、実際人と魔人、亜人間での差別はなくなったわけだしな」
「そのとおりですよ」
現に看板娘は兎人、美魔女は魔族、偉丈夫は人、それにエルフが一堂に会し、酒を飲み交わしている。
「途方もなく偉大ってのはわかるなぁ〜」
「なんたって死者蘇生の魔法だからね、それに豊穣の魔法。彼は実は神様なんじゃないかーって言って信仰してる人もいるぐらいだもん」
「だよなぁ、しかもとんでもない博愛心の持ち主だしよぉ、おらあ餓鬼のときからこの逸話好きなんだが、何度聞いても目がうるっとなるね」
そう言って偉丈夫は目をうるませる
「おっさんが何いってんだか」
「あ?なんだとこのババア」
「あ?」
「やんのか?」
美魔女とは偉丈夫のにらみ合いが始まる。
「うちの店で喧嘩しないでくださいよぉ!」
看板娘になだめられる。
『チリンチリ~ン』
そんな会話をしていると不意に扉のカウベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」
看板娘が振り向きざまにそちらを向く。
そこに立っていたのは首筋ほどまで伸びた透明感があるがボサボサの白い髪、そして空のように青い眼はなぜだか潤んでいる、顔は驚くほどに整っていた。全身を純白のローブで包み込んでいて、片手に杖を持っている事から魔術師なのであろう。
美青年は席につくとこうく口にする。
「この店で一番美味しいものをもらえるかな?」
☆
「はぁ・・・」
百年の眠りより覚め、洞窟から出でて、鵜局左折ありながらも、やっとの思いで都市についたと思えば、なんと身分を証明するものもなく、さらには無一文。こんな怪しげな人物を門番の衛兵が見逃すはずもなかったのだ。
現在ゼムは長方形のテーブルをはさんで中年の衛兵と向かい合っていた。詰め所で。
「なぁ、あんちゃん、そんな落ち込むことないぜ?簡単な取り調べが済んで問題がなければすぐに街に入れるからよ」
中年の衛兵がため息を吐くゼムにそう声をかける
「あぁ、いや、すまないね、やってきて早々衛兵に捕まるとは思っていなかったものだから、すこし幸先が悪いなと思ってしまっただけだよ」
苦笑いをするゼム
「まぁでも、身分証もなく、金もないってんじゃ衛兵に止められるのは仕方ないんだ、こらえてくれや」
「もちろんさ、僕は僕の怪しさをしっかりわきまえているからね。さて、さっそくだけど取り調べてもらえるかな?」
「あぁ、了解だ。」
そう言うと、机上の羊皮紙に羽ペンを這わせる
「そいじゃぁ、名前を教えてくれ」
「ゼムだよ」
「ゼムか、いい名前だな、かの御仁と同名とは、きっとお前の親御さんはあの逸話が好きなんだろうなぁ」
そういって中年がほほ笑む
「次はここに来た目的だな」
「観光だよ」
「ふむふむ。オーディ王国の首都、アガレス市はかの御仁の聖地だ、観光とゆうのもうなずけるな。だがなんで無一文なんだ?」
顎鬚をさすりながら問うてくる
ゼムは何と答えるのがいいかと一瞬悩むと
「道中魔物に襲われてしまってね、この杖以外の荷物をすべておいてきてしまったんだ」
「なるほど、合点がいったぜ、それは災難だったな。そうゆうことなら魔獣手当が効くな、ほれ、この書類の項目に沿うように記入していってくれや。お前さん、字は書けるんだよな?」
「あぁ、僕はこう見えて魔術師だからね、造作もないさ」
ゼムは、中年から羽ペンと何やら書類を受け取ると、次々と項目を埋めていく。
「はい、これでいいかな?」
中年は書類を受け取ると、数秒眼をとおしてから
「うし、不備はねーな。じゃ、これを受け取ってくれ。中に銀貨5枚、50000ギル入ってる、一週間分の宿泊と食事代くらいにはなるだろうから、尽きるまでに働き口を見つけてこの銀貨五枚を返済してくれ」
そういって、銀貨5枚が入った麻袋を渡してくる。
ちなみにだが、1ギルで、日本の1円と同じ価値があり
小銅貨=1ギル
銅貨=10ギル
大銅貨=100
小銀貨=1000ギル
銀貨=10000ギル
大銀貨=100000ギル
金貨=1000000ギル
黒貨=10000000ギル
虹貸=100000000ギル
といった感じだ。
「おぉ、こんな制度があったのか、驚いたな」
「あぁ、だが一か月以内に返済できなかった場合利子がつくし、払いきる前に逃げ出したりしたら犯罪者だ、気をつけろよ?」
「心配はいらないよ、こう見えて有能なんだ、働き口くらいすぐ見つかるさ。冒険者とかね。」
にこりとほほ笑む
「確かに魔術師とあらばどのギルドからも引っ張りだこだろうしな、心配はいらなそうだ」
「あぁ、任せてくれたまえ」
詰め所を後にした時にはもう日が暮れていた、すぐにでもギルドに赴きたいところだったが、この時間帯はギルド登録ができないはずなので宿屋を探すことにする。
王都は中央の城を囲むように建物が並んでいる、半径100kmの巨大都市だ。
城からは、四本の道が東西南北に出ておりそれらを、「イーストストリート」「ウェストストリート」「ノースストリート」「サウスストリート」と呼ばれており、それぞれに集まる建物が異なる。
まず北、西は住宅街や宿屋、飲食店、露店が、北は商店や、冒険者ギルドが、南には職人街がある。
そして、往生から10km圏内は貴族街と呼ばれ、貴族位を持つものしか住むことができない。
それらを衛兵から聞いたゼムは北側、つまりは宿屋を探しに向かった。中年の傭兵から豊穣の宿酒場は酒も料理も絶品とのことなので、そこを探すことにした。
10分ほど彷徨い、とうとう豊穣の宿酒場にたどり着く。ベットと麦が描かれた看板に「豊穣の宿酒場
」と書かれいるレンガ造りのきれいな建物だ。
扉を開けると『チリンチリ~ン』と子気味いいカウベルの音が鳴ると「いらっしゃいませ~」と少女の愛くるしい声が聞こえる
中には兎人らしき少女と、魔人らしき美魔女、ヒューマンの偉丈夫、さらにはエルフ、そのほかにも様々な種族の男女が酒を飲みかわしている。
その光景を見て今にも号泣しそうになるゼム。なにせ自分の長年の夢はかなっていたのだから。
目を潤ませながら席に着くとゼムは
「この店で一番美味しいものをもらえるかな?」
といった。
一切書き溜めがないので更新遅くなりますが、なにとぞ