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サイハテ新章  作者: 佐々薙 慎
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7話 旅の別れ

「サクトがいない?」

「ああ、テントの中にはサクトの姿はなく、中の様子を察するに、夜中にどこかへ出掛けたのだと思う」

「どこに行ったのかしら?」

 朝食を済ませて、テントも片付けたようとした時、サクトが消えていたことに気付いた。ユクノとユイギスはそれでずっと話し込んでいた。サクトがいないところを前へは進めないし、それを決める人もいない。

「サクトはいつも勝手なんだから、困ったものね」

「あ、向こうから馬車が来るぞ。あの人にサクトを見てないか聞いてみよう」

「そうね」

 アリシェは幼い頃馬車には乗ったことがある。しかし、ハクヤは馬車を生まれて初めて見て。

「獣が物を動かしてる!?」

「あれは馬ですよ。野生の獣とは違いますから、斬らないでくださいね」

 ハクヤは馬車を引く馬に驚き、人に協力している動物を見るのは初めてで、それを操っている人、自分より大きな荷馬車。何もかも驚いていて、アリシェはクスクス笑いながら、自分に知っている限りのことを全部教えた。アリシェも世間知らずだが、ハクヤはこれから行く街の常識は何も知らないのだから今のうちに教えておこう。

「すいません。ここら辺で若い男の人を…」

「お前らの探し人はここにいるぞ」

「サクト!?」

 サクトは馬車の荷台から顔を出した。どういうわけで馬車に乗っているのだろう?

「これ以上歩くと疲れるだろう。街まで行って馬車を用意した。お前ら全員これに乗れ。センロティア・アレスへ行くぞ」

「お前、そのためにいなくなったのか?」

「そういうことなら言えばいいのに」

「ふん…乗るのか?乗らないのか?」

「乗るに決まってんだろ?ハクヤ、アリシェもこれに乗れ。メミアちゃんは手を貸そうか?乗れないだろ?」

「お願いします!」

 あれ、メミアが昨日までとは違って笑顔だった。何か覚悟とか決めたのだろうか。

「それじゃあ、オヤジ。よろしく頼むぞ」

 馬車は来た道を引き返し、センロティア・アレスへと向かった。

「このまま寄り道せず港までこの馬車は直行する。そこでお前たちとはお別れだ」

「そうか」

「メミアちゃんはどうするか決めた?」

「私も帝国へ一緒に連いていっていいですか?」

「もちろんよ!」

「ありがとうございます!」

「いいのか?それで」

 サクトはメミアに聞いたが、メミアはとうに覚悟していた。

「迷惑はかけませんので」

「ふん…」

 サクトはメミアに対しては態度は改めなかった。けど、何かする様子もない。もしするようならユクノとユイギスが止めてくれるだろう。

「ハクヤ、私はみんなと別れたら、家に帰るつもりだから」

「お前の家を教えてくれないか?」

「私のことは探らないで。お願い」

「…困ったことがあったら何か言ってくれよ。助けてやるからな」

「ありがとう…」

「俺はみんなとアリシェと別れたら、街で俺の親を探してみようと思う。アリシェも俺の親を探して見つかったら俺に伝えてくれたら助かる」

「わかった。私からも探すね。えと、ハクヤの親の名前は…?」

「父親の名はロクド。母親の名はセレヌだ。そうだ。親には迷惑かけたくないから、俺の名前は伏せてほしい」

「わかった。そうする」

『………』

 アリシェとハクヤが話し込んでいると、他の周りの人はそれを黙って聞いていた。特にハクヤの話をすると、表情は固くなっている。

「皆さんはハクヤの父親と母親のこと知ってるんですよね」

「知っている。有名人だからな。俺たちに聞かなくてもすぐ見つかるだろうさ」

「俺たちからは何も言えん。ハクヤ。自分の目で確かめてこい」

「なんだよ。俺の親ってそんなにヤバイのか?」

「息子が居たとなったら大問題だろうな」

「サクト!」

「いや、何でもない。今の気にしないでくれ」

「きっと、ハクヤ君の親もあなたに会いたいと思っていますよ!」

「ありがとう。ユクノさん。街で探してみます。そして、会って自分の目で確かめてみます。父さんと母さんは本当は何者なのかどうか」

「そろそろ街が見えてくる頃合いだな」

「俺たちも久々のセンロティア・アレスだな!」

「私たちは半年ぶりかな!」

「あれがセンロティア・アレス…あれが街!?」

「2年ぶり…か」

 サクトたちやメミアとは港で別れる。アリシェは自分の家に帰る。ハクヤは親の捜索。これだけ人が居たのに、1人になってしまうのが寂しい。外を見れなくなるのが寂しい。

「私の旅は終わるのか…」

「おーい!アリシェ。俺には聞こえてるぞ!」

「いたたっ!頬を引っ張らないでー!」

「お前のやりたいことはなんだ?家に引きこもって親の言いなりになりたいのか?俺はお前の夢を知っているぞ」

 そうだ。私は外に憧れを抱いていた。私の夢は、外の世界を旅すること。私は家に帰って引きこもり、余生を過ごしたいわけじゃない!

「私、もう負けないから。ありがとう、お兄ちゃん!」

「お兄ちゃん言うな…恥ずかしい」

「全く、仲の良い兄妹だ。本当の兄妹でないのが恐ろしい」

「恐ろしいってなんだよ?サクト!」

「お前、本当に好きな奴ができた時、その子がお前の障害になるぞ」

「障害?私が?」

「そもそも、好きなタイプが俺には分からないんだが」

「経験してないからか?傑作だな」

「笑うんじゃねえよ…」

「それでも、私はハクヤとは仲良くしたいかな」

「おっ!街へ着いたぞ!」

 話してるうちにセンロティア・アレスに着いたみたいだ。荷馬車の中は外が見えないから、外の様子を伺うか教えてくれる人がいないと気が付かなかった。

「人がたくさんいるぞ!」

「当然だ」

「たくさん建物があるぞ!あれ全部家か!?」

「お店もある」

「お店ってなんだ?」

「お前、それもわかんねえのかよ」

 サクトがハクヤに教えてると、なんだかこの2人仲良そうに見えるな。サクト少し笑み溢してるように見えるし。

「お店もお金も知らねえやつは初めて見た」

「悪いな!教えてもらって!」

「気になることなら今のうちに聞け。世間知らずが外に出回るとろくなことにならない」

「じゃああれは?」

「闘技場だ。人と人が戦って1番強いやつを決める場所だ」

「じゃああれは?」

「あれは城だ。この国で1番偉い王様が住んでいる場所だ」

「あれは?」

「学校だ。子供が勉強して一般常識を身に付ける場所だ。この国の場合は、義務化されていないから通わない子供の方が多い」

「あれ、なんかあの人たち変な格好しているぞ」

「あれは兵士で着ているのは鉄の鎧だ。この国の治安を守っている奴らだ。悪いことしたらあいつらが追ってくる。悪いことはすんなよ」

「何もしねぇーよ。それより、サクトはなんでも知ってんだな!」

「これは一般常識だからな!答えられて当然だ!」

 ハクヤとサクトは盛り上がってるなぁ。すると、アリシェの隣にメミアがやって来た。

「入る余地はないみたいだね。お姉ちゃん」

「お姉ちゃん?アリシェにしてくれないかな?私、下に妹も弟もいないから」

「自分が妹なのはいいんですか?」

「私、一人っ子だったから。頼れる兄とか姉がいたら良いなぁって思ってたんだよね」

「じゃあ、私をお姉ちゃんと呼びますか?」

「それは無理があるかも…」

 一桁の女の子に二桁の私がお姉ちゃんって呼ぶのは流石に違和感しかない。

「でも、私がハクヤさんと結ばれたら」

「それはおかしいから!ダメだから!」

「何がダメなんですか?」

「まだ幼すぎますよ!」

「大人になったらの話ですけど」

「その時はハクヤがオッサンになってますから!」

「…ハクヤさん、カッコいいですよね。アリシェさんが妹なのが羨ましいです」

 はっ!?まさか、本当にこの子はハクヤを狙ってるんじゃ。色々とそれはまずい。ロリコンの兄なんて気持ち悪い。

 あれ、でも私も妹だよね。そしたら私も嫌われるじゃないか!不用意にロリコンはダメとは言えないじゃない!

「メミアちゃん。ハクヤのこと好き?」

「はい!優しくてカッコよくて頼りになるから、好きになっちゃいました!」

「メミアちゃん。ハクヤのことは好きになって良いけど、結婚は許しませんから」

「アリシェさん。そんなにマジな目で睨まないで。そこまで真剣には考えてませんから!」

「そうですか。なんか、ほっとしました」

「アリシェさんの方がお似合いですし」

「兄妹としてならそこは誇るわね。ずっと仲良くしたいって思ってるし」

「2人の兄妹大喧嘩を見てみたいかも」

「メミアちゃんは兄弟いた?」

「私は覚えてません。親の顔も知りません。だから、私は旅して探してるんですよ!」

「そう。見つかるといいね」

「はいっ!」

 この臭い。潮風ね。そろそろ港に着く頃だろう。汽笛の音が聞こえる。みんなとはそろそろお別れだろう。

『お客さんそろそろ港に着きまっせ』

「ああ、わかった。お前ら、そろそろ降りる準備をしろ。もうすぐ港に着く」

「お別れだね」

「ハクヤとアリシェは元気でやれよ!」

「そっちもな」

「お世話になりました」

「いえいえこちらこそ。短い間だったけど」

「また会おうね!ハクヤさん!アリシェさん!」

「メミアちゃんまたね!」

 馬車を降りて、4人に手を振って船を見送った。

「なんか寂しいね」

「そうだな」

「私たちも行こっか」

「そうだな」

 ハクヤとアリシェもこれからそれぞれやりたいことがある。ハクヤは街で情報収集。アリシェは自分の住んでいた家へ帰る。

「じゃあ、アリシェ。俺はお前と兄妹だ。困ったら頼ってくれよ」

「もう、心配しすぎだよ!お兄ちゃん!」

「お兄ちゃんって呼ぶなって!あれほど言って…」

「お兄ちゃんこそ。世間知らずで変なことなんて起こさないでよ。私にできることなら力になるから」

「お前は良い妹だな。お前が妹で良かったよ。最初は何もできないお嬢様だったのにな」

「誰かさんのせいで、おしとやかさが無くなりました」

「それは悪かったよ」

「けど、悪くないかも」

「そうかよ」

「じゃあお兄ちゃんまたね」

「ああ、またな。アリシェ」

 私たちはそれぞれの道を動き出す。また会えるよね。きっと。




『…やあ。君なら帰ってくると思っていたよ。2年ぶりだね。アリシェ』

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