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サイハテ新章  作者: 佐々薙 慎
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6話 街道を塞ぐ者

「やっと森を抜けた。虫とか蛇とか見るのはもうたくさんよ…」

 ユクノはもう森には一生行きたくなさそうなのに対して、

「あー楽しかったな」

「サクト。お前は楽観しすぎだ」

 サクトは森で虫や獣退治を自ら率先してやっていたので、楽しんでいたみたい。ユイギスはそれに呆れているみたいだ。

「森を出るのは初めてだ…」

「私も、外を旅するのは初めて」

 ハクヤとアリシェは街道に出ただけで感動していた。メミアは2人の後ろで無言のまま後を付いてくる。

「空って広いんだな」

「空って広いんだよ。森にいるから分からなかったの?」

「空なんて眺めても木が邪魔で見えなかったからな。何にも邪魔されず見るのは初めてかな」

「そっか。ハクヤはそれくらいで感動しちゃうんだね」

「2人とも。行くわよ!」

 街道を少し歩くと、少し大きな川がある。橋も見えてくるはずだ。

「あ、あれが橋ね!」

「石橋だそうだ。石でできてるらしいぞ」

「誰かいるぞ?」

 橋の目の前に来ると、1人の男が川の方を眺めていた。近くに村も街もないのに人がいるのは珍しい。

「なんだい君たち?そんな大勢でこの橋を通りたいのかい?」

「ああ、そうだ」

「ここを通りたかったら、交通税を支払わないといけませんけど?」

「交通税?お金を払うってこと?」

 おかしい。セルティア大陸には交通規制している地区があるなんて聞いたことがない。それも人里もないこんな外れた場所で。

「そうです。ですから有り金全部ここに置いていきなさい!命が惜しければ!」

「チッ…囲まれた……」

 こいつらは山賊。どこから出てきた?10人ぐらい剣や斧を持つ男たちに囲まれた。

「確か、センロティア・アレスの南で採掘したばかり原石を狙う連中がいたって話を聞いていたが、お前らか。あの山道は狭いから混雑を減らすために馬車はここまで迂回しないといけない決まりがあったからな。しかし、俺たちは見ての通り採掘帰りの御一行じゃねえ。宝なんて持ってねえぞ」

「若造は何も分からんようだな。お宝?原石?俺たちが欲しいものは通行料だ。有り金や金に代わるもの全て頂くんだよ!」

「ここの通行料はぶっ飛んでやがるな」

「そこの女2人と女子供1人。そこの奴らは帝国に売り飛ばせば金になるだろうな!あそこは奴隷制度があるから、ガッポリ稼げるんだぜ?」

「いい加減にしろよ」

「ぐはっ!」

 サクトはよく喋る男を口を塞ぐように顔を拳で殴った。

「リーダー!?」

「よくもやりやがったな!お前ら!こいつら全員ぶっ倒せ!男は容赦するな!殺しても構わん!」

「テメェ。リーダーだったのか。雑魚が」

 サクトはリーダーの男の首を掴み、橋の外に放り出す。

「やめ…ろ!離せ…!」

「離したら橋の上から落ちるぞ」

「じゃあ、ごめんなさい。もうしません。許してくださいと言って謝るんだ」

「ごめんなさい!もうしませんから!許してください!首絞められて苦しいから!」

「じたばたすんじゃねえよ。手が滑るだろ」

 と、サクトは掴んでいた手を放した。

「ぬわーっ!?」

「ほら、落ちてしまったじゃねえか」

「いや、お前わざと落としただろ?」

「リーダー!?」

「あいつが川で溺れている間に俺たちは橋を渡るぞ」

「待て、サクト」

 ユイギス、ユクノ、メミアはサクトに追いついていたが、ハクヤとアリシェは3人の山賊たちに囲まれていた。

「よくもリーダーを!」

「お前たち2人は逃がさん!」

「覚悟しやがれ!」

「くっ…!」

「人と戦う事になるなんて…!」

「アリシェ。やるしかないみたいだ」

「かかれー!!」

 山賊たちは一斉に襲いかかる。剣と斧を振ってくる山賊たちを2人は短い狩り用の剣で相手をする。しかし、2人にとって、獣より手応えがなく相手が弱すぎた。

「ぐへっ!」

「ぐひっ?」

「ごはっ!?」

 ハクヤとメミアは一気に3人まとめて蹴散らした。それは一瞬だった。

「獣より鈍くて力もなかったな」

「動きが読みやすい。少し力入れるだけで武器吹き飛ばしちゃったし」

「お前ら2人とも大丈夫かー!」

「こっちは大丈夫です!」

 ユイギスが棒読みで声をかけてくる。面倒事なら1番手助けしそうなユイギスが一歩も動いておらず適当な対応だった。

「狩人はそこそこ腕が立つわけか。山賊よりも」

「あの2人は筋が良い。俺たちより強くなりそうな気がするな!」

「ユイギスより強くても俺よりかは強くならねえよ。更に俺の方が強くなるからな」

「はははっ!なら、俺はあの2人に賭けてみるか!いつかお前を負かすぐらい強くなる奴らになるさ!」

「まだ奴らはガキだ。ガキが組織の人間に敵うものか。戯れ言はもういい。とっと行くぞ。山賊を相手にするのは面倒だ」

「すいません。追いつきました」

 アリシェとハクヤもサクトたちの元までやって来た。サクトは先行してそのまま先に進む。

「ハクヤ・エリーツ。お前の父親はロクドだよな。俺はあの人を尊敬してるんだ。今度会った時、是非とも俺と会わせてくれないか?」

「えと、気が向いたら…」

「約束だからな!お前にも期待してるぜ」

 ハクヤの父親の名前はロクドって以外アリシェとハクヤは何も知らない。あのユイギスが尊敬してる人なんだから、センロティア・アレスの都市で一体何をしているんだろう。この組織3人は知っているみたいだが、教えてくれない。直接自分たちで確かめろ。そう言いたいんだろうけど。センロティア・アレスに近付く度に不安が募る。

「今日はだいぶ歩いた。今夜はここで野宿しよう。あと少し歩けば着くだろう。明日の正午には到着予定だ。それぞれ、覚悟で決めるんだな」

「サクト…ありがとな…」

「さ。ユクノ。飯の準備を早速始める。俺がさっきの川から水を取ってきてやる。ハクヤお前も来い」

「俺も?」

「力仕事は男の仕事だ。ユイギスは火を起こしてろ。得意だろ」

「マッチかライターがあれば楽勝だぜ」

「そんなもん持ってねえよ。持ってても海に浸かってて使えねえ」

「じゃあ、どうすりゃ火を起こせるんだ!?」

「自分で考えろ」

 この人たち旅してる割にはどこか適当な気がする。

「私ができますから、ユイギスさん一緒にしましょう!」

「ここに救世主がいたー!?ありがとうアリシェちゃん!」

「あまり近付かないでください」

 あまり汗かいてる人には近付きたくないんで。あれ。お風呂って野宿でどうやってするんだろ?

「さて、メミアちゃんは私のお手伝いしてくれる?」

「構いません。私にできることは何でもします」

「まだ10歳にもなってない子がとても頼もしいとなんか変ね。もうちょっと子供らしくしてもいいのよ?」

「私はこれが普通です」

「そ、そう?すごくクール少女ね。じゃあ、ユイギスの鞄から食材持ってきて、私は机を用意しとくから」

「はい!わかりました」

「まあ…可愛いらしいからいっか」

 アリシェは近くにあった石を使って火起こしをする方法をユイギスの前で披露をする。

「はい、これで火がつきますよ。ユイギスさんは息を吹きかけてください」

「うおっ!?手際がいいな!もうついたぞ!」

「まだちょっと息が弱いです。もっと息を吹いてください!」

「ぶふぅー!!これでどうだい」

「続けないと消えますよ!」

「ふぶぅーーーー!!!」

「そうです!枯れ草入れますよ!」

「初めて火起こしをやったが、これは結構きついな…」

「まだ5分も経ってませんよ。そうだ。扇子使いますか?」

「風起こす道具あるんかい!?必死で息切らして火お越ししてた意味あったか?」

「使ってみたら分かると思いますけど、息でやる方が火は起こしやすいですよ」

「俺にはよくわからん!」

 ユイギスはそれから火の番になり、アリシェは寝床の確保の準備を始めた。

「テント…ううーむ。聞いたことあるけど、使ってみるのは初めてね」

 ユイギスの鞄から骨組みと水を弾きそうな布を取り出して見たが、組み立て方が分からない。

「ユイギスさん。どうやってテント立てればいいんですか?」

 ユイギスに聞きながら自分で試して、約1時間かけてテントを1つ立てることができた。途中でユイギスに手伝ってもらって火の番が代わったが何とか1つできたのだ。

「よお。水はくんできたぞ」

「サクトにハクヤさんお疲れ様。これだけあればご飯も炊けますね。けど、随分時間かかりましたね?」

「誰かさんが山賊に喧嘩吹っかけるから」

「ハクヤ。そのおかげで肉が手に入ったんだ。今夜はご馳走だぞ」

「って、やってること山賊と同じじゃないですか!」

 あの肉はハム。そう言えば、いつも食べるものは獣の肉か海や川で獲れる魚、あとはそこら辺に生えてる草がご馳走だった。アリシェは2年ぶりに食べることになる。ハクヤは育ちがずっと森の中なので初めてかもしれない。

「テントは1つか?あと2つは作っとけよ。俺は鞄に小さなテントが2つ分入っているから」

 あと2つもあると聞いたとき、絶望した。あと2時間の延長戦に入ったわけだ。

「サクト。その肉、とりあえず焼いとくか?」

「ああ、ユイギス頼む」

「ねぇ。ハクヤ。一緒にテント作らない?面白いよ!」

 こうなれば、ハクヤも巻き添えだ!心の中では面白いなんて思ってもいない。

「なんだ。簡単そうじゃねえか。こうしてこうしてこうすれば完成だろ」

「1分もかからずにできた!?」

「いや、完成形を隣で見て、見よう見真似にやればできるだろ?」

「うう!私だってやればそれぐらい…」


──30分はかかりました。何がいけなかったんだろう?




「いやー。お前らが持ってきた肉旨かったなー!」

「ユイギス。俺感謝しろよ」

「おう!感謝するぜ」

「サクト。それ盗んできた肉なんですからね」

「さて、俺は寝る。この小さいテントは俺の貸しきりだ」

「うおおい!?お前!それ2人までなら余裕だぞ!1人で使う気か!?」

「そもそもこれは俺の所有物だ」

「俺だってこの1番でかいテント俺のだぞ。だからって1人では使えんもんな」

「5人か。小さいテントが2人。大きなテントが3人になるな。メミアは大きいテントに行くとして。割り当てをどうするべきか…」

 ハクヤとユイギスは迷っているようだ。何をそんなに迷う必要があると言うのだろうか。テント一晩だけの割り当てなんて。

「よし、ここは男と女に分かれて」

「ええ…なんでそうなるのよ」

 アリシェはユイギスを思わず止めてしまった。ユイギスは困惑している。

「私はお兄ちゃんと同じテントがいいなぁ…」

「こんな時にお兄ちゃんって言うな!?」

「こういう一瞬の旅なんだから、親しい人と寝るべきだよ。まだ出会って間もないし何も知らない者同士で寝るのは不安なの」

「それもそうか。アリシェの言う通り、まだ俺たち出会って1週間も経っていないからな」

「ちょっと待てよ!それだと、お前たち兄妹と俺とユクノが同じテントになるじゃねえか!」

「私に何か不満があるのですか?」

「いや、そんなことないが…男と女だぞ」

「き、気にするんですか?」

「ま、まあ…な」

 あれ、このお互いに照れる様子はまさか、お互いに脈ありね。

「アリシェ。例え仮の兄妹でも同じ部屋で寝たことなんて1度も無かっただろ?実際にはユイギスとユクノのように血の繋がりのない赤の他人で男と女だ」

「だから?」

「だから…変な気が起こったらどうするんだって話だ」

「ハクヤはそんなこと私にはしないよ。だって2年間1つ屋根の下で無防備に過ごしてきたのに、何もしなかったのがその証拠だよ。だからハクヤのことを信用するの。それに兄妹水入らず大切な話がしたいからね」

「アリシェ。わかったよ。なあ。ユイギスさん、そういうことだから」

「よーし!そういうことなら、大きいテントは使わせてもらうぞ!(ユクノと少しでも距離を置かなければ心臓に悪い!)」

「メミアちゃん!ハクヤ君とアリシェさんが良いとは思うけど、ここは私たちを助けるつもりで、ね!?(テントで男の人と寝るのは初めてなの!)」

「……分かりました。けど、好きなら好きと言えばいいじゃないの。気まずいから…」

「す、好きぃ!?」

「へ、へぇぇ!?」

 あーもう。この2人見てられない。そんなに声を裏返すほど驚かれたら好きなのバレバレじゃないか。

「メミアちゃん。この2人の背中押してあげないと。2人とも気持ちを伝えられないかも」

「アリシェさんは私に恋のキューピット役をさせて2人をくっつけてほしいとか、そう思ってます?」

「できたら、ね」

「期待しないでくださいよ」

「アリシェとメミアは何2人でこそこそ話してるんだ?」

「ううん。何でもない!」

「じゃあ、私はテントでもう寝ます」

「子どもは早く寝るべきだからな!」

「ユイギス。あまり声大きいとサクトが怒るわよ」

「す、すまん…!」

 じゃあ、私たちももう1つの小さなテントを借りて寝ましょうか。

「このテント2人でなら広いかもね」

「寝袋もう準備してあるのか。いつでも寝れるな」

「ハクヤはそっちね。私はこっち」

「もう寝るのか?アリシェ」

「うん。ハクヤも寝袋で寝るといいですよ」

「はいよ。特にすることもないから。歩き疲れたし、アリシェの言う通りそうするか」

「………ハクヤ」

「なんだアリシェ」

「私たち、兄妹だよね」

「なんだよ。血が繋がってなくても俺はお前の妹だ。もしかして、嫌なのか?」

「嫌じゃない。けど、もし兄妹との関係が壊れてしまったら」

「例え離ればなれなったとしても、お前は俺の妹だ。もし、助けが欲しいなら1番に俺を頼ってくれ。必ず助けてやるから」

「ありがとう。けど、それなら、私もハクヤに何か困ったことがあれば、私にできることなら何でもしてあげるから。1人で抱え込まずに頼ってね」

「アリシェ。こんな話をするなんて、何か隠してないか?」

「…私ね。センロティア・アレスに帰ったら1人で行きたい場所があるんだ。そしたら、またハクヤの所に戻ってきたいの」

「…家に帰るつもりか」

「ハクヤも両親探すんでしょ。その間、

しばらく別行動したいの」

「じゃあ、サクトたちとメミアを船で送ってからだな」

「もし帰ってこなかったら…」

「必ず帰ってこい」

「…いえ、何でもないわ。私ってばらしくないわね。けど、不安なの…。2年もセンロティア・アレスに帰らなかったから、お父様にご心配かけました。またもと生活に戻されるのか、ハクヤと会えなくなる気がして、外も見れなくて家から出られなくなるような気がして」

「アリシェ。俺だって両親に会うのが不安だ。今何をしてるのか気になるし、勝手にセンロティア・アレスに来ちゃったらどんな反応されるか。だから、アリシェ。お前は独りじゃない。お互いに不安を持っている者同士、困ることがあれば助け合おうぜ。…本当に1人で大丈夫か?」

「大丈夫。1人の方が都合が良いってことあるの」

「…アリシェ」

 それ以上の会話無く、翌日朝日が昇るまで静かに過ごした。

「お兄ちゃん……」

「寝てんのか。アリシェが不安になってるところを見るのは初めてだな…」

 アリシェはハクヤにしがみついて寝ていた。アリシェはこの時、もしかしたら離ればなれになると、これからのことを悟っていた。ハクヤに会えないそんな気がして。

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