19話 絶望の果て
──この洞窟に落とされてから半年で、私は変わった。大切な命を1つ失った悲しみから生み出された私の決意がそれを生み出した。
「これで20種類目に到達」
──この洞窟に住んでから2年目。アリシェは獣狩りから魔物狩りへと変わっていた。
半年を過ぎて、1つ分かったことがあった。魔物は魔物を喰らい力をつける。白竜がそれをやっていた。私も魔物を喰らえば強くなれる。やってみたら、本当に力がついたのだ。そこに至るまで時間がかかったが、今では不意打ちでなくても、魔物を狩れる。
魔物は鮮度が大事だ。殺してしまえば消滅してしまう。だから、生きたまま食べるか、それとも頭を切り落として食べるかだ。頭さえ切り落とせば魔物は頭だけが消滅し、胴体が残ることがわかった。最近は生きたまま喰らうことの方が多い。その方が面白いからだ。
「そろそろ4層に上がろうか。上にいけば行くほど魔物は強くなるしね」
今ではあの白竜が可愛く見える。弱いから最下層に居たのだろう。
「魔物は全部喰らい尽くしてやる。そして、私は強くなる」
先の見えない迷宮にも飽きた。魔法石を食べながら魔力を補給する。魔力を補給するなら魔物より直接魔法石を喰らう方が効率的だとわかった。普通は歯で噛み砕いて喰えるものではないが、今のアリシェならそれができる。
「…ここが4層。遺跡?」
人が作ったものがこの洞窟で発見されるなんて思ってもなかった。何か文字が書かれてる石碑もある。何書いてるか読めないけど。古代文字かしら。
すると、目の前に勢いよく何かが落ちてきた。
「派手に出てくるのね」
「ンガァ!!」
なんて大きさ。この空間が広すぎからって私の20倍は背が高いじゃない。こんな魔物、下の階層では見なかった。
「受けてたとうじゃない!」
アリシェの拳と魔物の拳がぶつかり合う。拳の大きさに差がありすぎるのに、アリシェの拳は負けていない。
「全然前に進まないじゃない…!今までの魔物とは比べ物にならないわね…」
「……(ニィッ)」
魔物はニヤついた。あれ、まさか私が好みだった?
そう思ってる隙に魔物は拳に魔力を込めてアリシェを吹き飛ばした。
「痛いなぁ…まさか、魔物が技を使ってくるなんて想像もしてなかった」
魔物なのに魔力を利用する戦い方されるのはここに来てはじめてだ。けど、大して話は変わらない。
「私もやることは同じよ!」
アリシェは石のナイフを取り出す。
「“エレメンタルソード”(初級技)!」
石のナイフに魔力を込めて、魔物の体を縦に切り裂いた。
「まだ浅いか…」
「ングガァ!」
魔物は拳をアリシェに向かって放つが、アリシェは身を翻して拳に乗った。
「……ンガっ!?」
「“セミエレメンタルソード”(中級技)」
魔物の体を貫き、頭を切り落とす。
「21匹目ね」
技を使うのは卑怯だったかな。けど、魔物の方も使ってきたし、魔力は使わないと消費しないからな。少し力いれたら一撃なのは予想外だったかな。
「──見事ですね」
「人の声?」
気配に全然気が付かなかった。しかもこの洞窟に人が居たなんて。
「あなたもゴウに呼ばれてここに来た方ですよね」
「まさか…あなたも!?」
「リセイアと言います」
「私はアリシェと言います」
「そうですか…あなたがアリシェさん」
え、私のことをこの人は知ってた?いや、でもゴウがこの計画に私の名前を告げていたの?だとしたら。
「すみません!私のせいでこんな目に遭わせてしまって!」
「他の人はあなたのことを恨むかもしれませんが、私は望んでこの計画に乗り出した唯一の人です。私はあなたに恨みはありませんよ」
「…どういうことですか?」
「私は…ゴウの恋人ですので。とは思ってるのも私だけかもしれませんが、謝るのなら私の方です。私はこの計画を知ってました。賛成しました。こんな目にあなたを遭わせたのも私のせいでもあります。すみませんでした」
「……言葉が出ないんだけど」
「驚きましたか?」
「ええ、まず最初にこの洞窟に落とされた20人全員が全滅したと思ってたから」
「ゴウは私のことを見ててくれなかった…ということでしょうね」
「それにあなたがゴウの恋人って…」
「私の一方的な恋です。けど、彼は変わってしまった。ゴウという名前は本名ではありません。仮面を被った悪そのものです。昔は優しくて笑ってくれたひとだったのに」
「計画は全部知ってたの?」
「この洞窟に人を落とす計画は、ゴウに直接会って聞きました。他にも何かしていたみたいですけど、詳しくは知りません。けど、アリシェという女の人のためにやってることだと聞いて…あなたは何者なんですか?」
私は何者か。何者なんだろう。
「私は元々お嬢様です。屋敷から抜けることのできない外の世界に憧れを持つ人でした。そんな人がゴウによって外に連れ出されて利用される。私って今は何者なのでしょうね…」
「私は、ゴウがあなたに時間とお金と人生を賭けてるの知って、ずっとあなたのことが気になってました」
「すみませんけど。ゴウが勝手にやったことで、私はそれに巻き込まれてるだけです。奪ったつもりはありませんよ」
「ええ、分かってます。ゴウはあなたのことを陥れたいと言ってました。だから、アリシェさん。ここまでしてきたゴウのことを殺してください!あなたが殺さないなら、私が殺します!!」
「ゴウのこと好きなんじゃないの?」
「好きです。だからこそ…もう人を陥れる真似は二度としないでほしい!ゴウを殺したい人はきっとあなたです。色んな目に遭ってきたと思います。ゴウを殺して復讐や苦しみから解放されてください」
「……悪いんだけど。リセイアさん。ゴウには復讐したいなんて考えてませんよ。苦しいかったかもしれないですけど。私は最近、こうなるべきだったと思うところはあるんです。私は弱い人間でした。誰かに守られてばかり、誰かに頼ってばかり、いっそ誰にも頼れない守られないこの場所に落とされてみればよかったんです。私はゴウのことは憎いですけど、どこかで感謝してるんです。これがゴウの狙いでしょうね」
「…あなた、ゴウを信じるんですか。ゴウは悪い人ですよ」
「…ゴウは殺すわよ。あなたの望む通りに。リセイアさん。この魔物食べる?」
「えっ。魔物食べるんですか」
「あなた…どうやってここまで来たのよ」
魔物の肉を焼いて、リセイアにもお裾分けをする。
「はいどうぞ」
「じゃあ、いただきます(パクっ)」
「美味しいですか?」
「ええ、久しぶりにお肉を食べました。とても美味しいです!」
「今まで何を食べてきたんですか?」
「栽培していたものを。種は一応持ってきていたので」
私がどう足掻いても食べられないものだ!それってインチキじゃない!?
「農園見せましょうか?」
「あ、いいです。結構です…農園ってこの洞窟に…」
見たら今まで苦労してきた食生活はなんだったんだと落ち込んでしまう。
「リセイアさんはこの4層には詳しいんですか?」
「4層って?」
「あー。えと、ここは一番下からの深いところから4番目の階層なんです」
「そうなんですか。私はずっとこの辺りにいたので、詳しいと言えば詳しいですね。ここにある遺跡、調べてみて分かったのですが、ここにはある魔物を封印されていたみたいです。けど、今はご覧の通り遺跡はメチャクチャです。その魔物はもしかしたら、封印が解かれてこの洞窟にいるかもしれませんね。名前は確か、そうこの石碑に“カースドラゴ”と書かれています」
「この石碑の字が読めるの!?」
「雰囲気で読めます」
「雰囲気って…あれ、カースドラゴ?」
そう言えば、ゴウが言っていた。この洞窟で1番強いのはカースドラゴという魔物だ。封印されるぐらい強い魔物か。そいつを倒せば、洞窟から出れる。
「ねえ。その魔物はどこにいるの?」
「この上の階層です。3人がカースドラゴに挑みましたが誰も勝てませんでした。あれはもう、人間の力では勝てる相手ではありません」
「……そう。わかった」
「どこに行かれるんです?」
「私は先に進む。ここにいる魔物を1匹残らず喰らい尽くしてそのカースドラゴも倒す」
「アリシェさん…」
リセイアとはここで別れてアリシェは更に奥へと進む。
「お気をつけて」
カースドラゴを倒すため、今の力ではまだ物足りない。まずはこの階層の魔物を調べる。魔物の種類を確認してから全部私が喰らい尽くす。
──1年後。この洞窟に落ちてから3年が経つだろうか。
私は最後の階層のへと向かう。第5層。カースドラゴ。最後の強敵。私は最強の魔物と戦う。
「72匹目。カースドラゴ。あなたで最後よ。私に喰われなさい」