18話 アリシェの子
この洞窟に住み始めてから1週間は経つ。食料は底をついた。療養も兼ねて拠点の洞穴に籠っていたが、そろそろ狩りに出ないといけなくなった。
「この時が来てしまったか」
魔物の棲む洞窟をまた探索しなければならない。また危険な目に遭うかもしれない。恐怖感があるが、食料集めならば仕方ないと諦めるしかない。気を引き締めないと。
「この数日、しっかりと道具は揃えたつもりだ。獣の皮でバックも作った。本当は着るものを作りたかったけど…材料が足らないからね」
中身は魔法石数個と狩りに必要な石の道具。それ以外は何もないので、ほとんどすっからかんだ。
「準備は出来た。行こう」
狩りは前と同じ場所だ。拠点の十字路から南。暗闇を過ぎた先だ。
「そういえば、前に何か気配を感じたんだけど。あれってなんだったのかな」
前と同じ獣がいた。2回目ともなると、大体の行動とやることは同じだ。
「相変わらず手強いけど!」
隙を見せたところに不意打ちで同じように倒せば狩りは簡単に済んだ。
「2回目は無傷で済んだわね。前よりも小さいけど、今度は10日持たせてみようかな。ん?」
少し離れたところに。小さな獣がいる。赤ちゃんだろうか。
「可愛い…小さい…!連れて帰ろうかな!」
バッグにその小さな獣を入れて、狩った獣を背負って連れて帰った。
ううむ。野生とはいえ、獣の赤ちゃんを連れて帰って良かったのだろうか。
「この子の親を私が殺してしまったんだろうね…けど、育てて良いのかな?」
けど、こんな小さいな子(獣)をこんな危ない洞窟に独りにさせていいものか。絶対食べられて死んでしまうよね。
「というか、もう連れて帰ってしまったし、小さくて可愛いし、独りだと私が寂しいから、面倒見ます!まあ、すぐに大きくなるとは限らないし、危なくなったらどこかへ放せばいいもんね。うん!もう悩むな!そうしよう!」
適当に考えて、この小さい獣を飼うことにした。襲われることまだ先の話だ。
「君の名前は、私がアリシェだから、アリシエルよ!よろしくね。アリシエル!」
「……(プイッ)」
無視された!?まだ生後何ヵ月かでしょ。まさか、私のこと恨んでるの!?まあ、仕方ないか。
「干し肉食べる?」
「……(カブッ)」
「食べた!美味しい?」
というか、アリシエルと同じ種族の肉なんだけどね。共食いだよ。なんて残酷。
「君は私が育てるからね」
──2週間が経過。
「結構大きくなったわね。意外と成長早いのかな」
──更に1ヶ月。
「あれ、私の半分くらい大きくなってる?」
──半年が経過。
「もう私より大きくなってるんですけど!?」
もういつ襲われても、私が人飲みされてもおかしくない。この子ずっと洞穴から出したことないけど、もう洞穴から出られないんじゃないかな。大きすぎて。
「干し肉食べる?」
「………(プイッ)」
それに最近、何も食べなくなってきた。私は我慢して虫をゲロ吐きそうになるほど食べてるのに。この子の食料調達も週一では追いつかなくなるほどあっという間に無くなっていたのに。ここ最近は何も食べてくれない。
まさか、お腹を空かせてから、私を食べる気なんじゃ。それとも洞穴から出ようとして、頭が突っかかって出られなくなってることがショックでダイエットしてるとか。
「アリシエル。なに考えてるか分からないけど、食べないと死んじゃうよ」
「………(ペロペロ)」
そして、最近大きな舌で私の体を舐めてくる。私の体を洗ってくれてるのかな。それとも味見してるのかな。なついてるわけではないとは思うけど。
「そう言えば、まだ私下着のままじゃん。そろそろこれボロボロだし。というか、いつまでこんな格好してるのかな」
アリシエルの世話ですっかり自分のことを忘れてた。でも、この子の同族ばかり狩りをしてるから、この子と同じ皮で服を作りたくないし。別の魔物は群れで行動してるから、一匹狼みたいな獣じゃないと狩りできない。
「けどまあ、私のことはいいや。ここまで立派に育ったアリシエルが居てくれたから寂しくなかったし。頑張れた。いつも隣にいてくれてありがとね。アリシエル」
アリシエルに抱きついたら蹴り飛ばされた。そういうのは嫌らしい。
「あはは…。いつもこんな感じだよね。アリシエルは。私のこと、どう思ってくれてるのかな」
アリシエルの体温でこの洞穴は暖かい。いつの間にかアリシェよりひとまわり大きくなったアリシエル。そろそろ、別れの時が近いと思う。
「おはようアリシエル。今日は狩りに行ってくるね!」
「………」
片目だけ開けて、また閉じた。起きてるのにいつも寝たフリだね。君は。
「じゃあ行ってくるよ」
洞穴から出て十字路を出ようとしたその時、いつもとは違う違和感を感じた。
「え、ウソ……」
私は今まで勘違いをしていた。アリシエルの同族である獣たちは一匹狼ではなく、群れで行動する生き物だったのかもしれない。ここ半年、獣の数が減ってきていたら、原因を突き止めたくもなるだろう。アリシェは囲まれた。アリシエルと同じ種族の獣たちに。
「まさか…ここまで来て、私を!?」
何匹かの獣が一斉に襲いかかる。行動がわかっているとはいえ、数匹も相手だとアリシェの力不足では手に負えない。
「がはっ…」
何匹もの獣たちに体当たりをされ、食べるのではなく、殺しに来ている。私はこの獣たちに恨まれてるのだと感じた。
「…ここまでなの」
そういえば、獣の赤ちゃんだけは殺してなかった。見逃していた。アリシエルの成長ぶりをみたらその赤ちゃんが成長しきった姿なのだろう。その獣たちに恨まれてるのだと。定期的に現れている私は仇だ。後をつけられ、復讐に来るなんて…。
「死ぬのかな…んぐっ!?」
地面に倒れても蹴り飛ばされたり体当たりを繰り返し、抵抗もできずにやられっぱなし。動きも早いし力もあるし、手も足も出せない。
「グァラアアアー!!」
突然岩壁を壊して、アリシェの目の前に盾するように現れた。まさかアリシエルなの。
「アリシエル…あなた、この子達より随分大きいのね。1番大きくて嬉しい…」
「……グゥルルル!!」
アリシェの姿を見ると、アリシエルは牙を剥き出しにして唸り声をあげる。何匹かはそれで怯んだが、少し大きめの獣たちは臆しておらず、逆にアリシエルに距離を詰めてくる。
「まさか、アリシエル。私のこと。庇ってくれるの?」
アリシエルは何匹もの獣たちと戦った。体の大きさで何匹もの獣たちを相手にしてるのにも関わらず力だけは勝っていた。けど、アリシェを庇って戦ってるせいか、自由には戦えず、守りながら1歩も動かず戦ってるせいでずっと打たれ続けている。獣たちも全員で襲いかかり、アリシエルも一方的にやられることになった。
「アリシエル…!!」
アリシエルは遂に立てなくなり、アリシェの上に乗しかかるように倒れた。最期まで血を流してまでアリシェを庇う。
アリシェは身動きがとれない。アリシエルが重くて。獣たちの声が聞こえなくなったのはだいぶ時間が過ぎた後だった。
「アリシエル……」
アリシェはその後アリシエルの下敷きになってからようやく顔を出した。獣の姿はない。
「そうだ。アリシエルは!?」
ピクリとも動かない。この目は死んでる目だ。
「そんな…アリシエル!私を庇って……」
私は、アリシエルにどう思われてるのか気にしていたけど、ずっとアリシエルは私のことを思ってくれれてたんただね。私がこんな目に遭って、助けに来てくれた。
「ありがとうアリシエル。私の命を救ってくれて…!」
涙が止まらない。君が死ぬなんてずっと思わなかったから。私が死ぬものだと考えていたから、独りになって、寂しさが込み上げてくる。
「アリシエル…!うわぁぁぁん!あああ!!」
その日は、ずっと私は泣いていた。心細かった私にアリシエルが居てくれたから、私はやってこられたんだと思う。
──翌日。
「アリシエル。君のことは忘れないよ。だから、私の側にいてほしい」
アリシェはアリシエルの毛皮で服を作った。これで君のことをずっと感じていられる。
「私、強くなるから!」




