13話 カフェ
ゴウの言われた通り紙袋の指示に従ってきたが、私は遂に拒絶した。負けてるような気がして。
この状況を全て打破するには、少なくとも収入が必要になる。最低限生きるためにも働くしかない。たまたま通りかかったカフェの求人ポスターを見たアリシェはそれを見てカフェに入った。
「すみません」
「お客さんですか?今営業時間外なので…」
カフェの中にいた人はおじいさん。ただ1人。カフェのマスターをしている人みたいだ。
「外にあった紙を見て、ここで働きたいと思って…」
「ここは個性的な客が多くて大変だぞ。お嬢ちゃん」
「頑張りますので!」
「…わかった。今日働いてみて、様子を見よう」
「ありがとうございます!」
「名前は?」
「アリシエーラと言います。長いのでエーラって呼んでください!」
「じゃあ、エーラちゃん。接客を頼むよ。オーダーを取って、私が作って出来たものを運んでくれ」
「わかりました」
「ウチは午後の4時から開店だ。それまでに色々と準備しよう。とりあえず、制服を用意するから、奥の部屋に入ってくれ」
カウンターと厨房を抜けると、控え室のような小さな部屋へとやって来た。そこにはもう1人、この店の女店員がいた。
「誰だテメェ?」
「えと、アリシエーラと言います」
口が悪い人っぽい。見た目も少し怖い。
「ガキじゃねえか?話聞いてたが、ここで働きたいってか?」
「はい。働きたいです」
「ウチは緩いぞ!」
「はい。覚悟の上です!って、ゆるい?」
「俺みてえなチャラぽんみたいな奴を許してる時点で緩いって察しろよ!」
「は、はぁ…」
理解が追いつかないなあ。緩いって本当かな?
「おい。ガキ!」
「エーラって呼んでください」
「ガキにも制服を用意しねえといけねえ!だから俺にスリーサイズを測らせろ!」
「ええ!?」
男口調だからビクってなるけど、そもそもこの人は女の人だから。それくらいいいのだけど。
「やっぱガキだな」
「失礼ですね!?」
「胸大きくないし、どうやって客寄せするんだ?」
「そういうお店なんですか?私に対して失礼が過ぎますよ」
笑顔でキレそうです。でも、この人冗談で言ってるというより真顔で真剣に言ってる。だから、本気ではキレそうにない。
「まあ、着る制服今はねえからどのみち俺の制服貸すけどな!大丈夫!胸以外はぴったり合うと思うぜ!」
この人、皮肉しか言わない。
「じゃあ接客の練習だ!まずは笑顔で微笑んでみて」
それは得意ですね。お嬢様時代によく人に微笑んでいましたから。
「良い笑顔だ。それだけできれば接客は充分だな!」
「笑顔だけですけど!?他のことは何も教えてもらってませんよ!?」
「接客なんてな。ウチの真似したら偉い目に遭うぜ!」
ああ、何だかわかります。口調がチャラそうですもんね。
「アメリ。まだ着替えさせてないのか」
「じっちゃんなんで入ってくんだよ!」
「お前の笑い声がうるさくてな」
「ゲラゲラ笑ってねえよ!?」
「それより、客が来ている。その子に接客させるのがちょうど良い。さっさと着替えさてくれ」
「えっ?まだ営業時間前じゃ……」
「あーはいはい。そういうこと。じゃあガキ!これ着てさっさと出ろ!」
「うわぁ!?自分で着替えられますから!?乱暴にしないでください!」
アメリのくれた制服をさっさと着替えて逃げるように厨房へ出た。あの人と付き合うのは疲れる。
「エーラちゃん」
「はい。店長」
「いや、店長は私ではない。マスターだ」
「どちらでも同じじゃないんですか?」
「マスターと呼ばれる方がカッコいいじゃん!」
お店の人の方が個性的な店なのかもしれません。
「じゃあ、あの人を試しに接客してこい」
「わかりました。若い人ですね」
「ああ、この店を良くしてもらってる人物だ」
「んー………」
なんというか。男にしては美しい人だな。私より年上で風格がある。何だか上から目線言うようなナルシストって感じがする。
「やあ。ソール。よく来たね」
「よっ。ここのコーヒーうめえから飲みに来たわ」
「最近、仕事は忙しいんじゃないのか」
「俺は人に仕事を任せる立場の人間だ。今は報告待ちで暇なのさ」
流石マスター。入り方が自然だ。マスターが首を捻った合図が送られる。行けっていう合図だろう。
「初めまして」
「ん。知らない顔だな。新入りか」
「今日から働くことになりました。アリシエーラと言います。エーラとお呼びください」
短いスカートの裾を持ち上げて挨拶をする。お嬢様育ちの私にとってこれは普通だが。ソールは笑みを浮かべた。
「スカートを持ち上げるのはよしな。パンツ見えるぞ」
「え、ええっ!?」
この返し方は生まれて初めてされた。何という上品さの欠片の無い返しなのだろう。立場はこの人が上なのだろうけど。
「お前、男と付き合ったことないな。うぶな気がするぜ」
やっぱりこの人ナルシストだ!?
「あの、ご注文はよろしいですか?」
「ん。じゃあコーヒーいつもの頼む」
「あいよ」
マスターがコーヒーを煎れ始める。
「それと、君には質問をいいかな」
接客で質問攻めって答えた方がいいのかな?マニュアルなんてもらってないし、この人偉そうだから変に断るのはよそう。何でも聞いてこい!全部答えよう!
「君は最近までこの街で住んでいなかったね」
なんでわかるの?まさか、超能力者!
「ええ。2年前まではこの国住んでましたけど。帰ってきたのは最近です」
「俺のこと知らないそうだから。誰もが俺を見ると緊張するけどな。初対面なら尚更だ。なのにエーラ。お前は俺を見てその緊張がまるでない」
まあ、変な男の人に絡まれてるから、知らない人にはもう緊張はしなくなっまかな。逆に悪い人でなければ近付きたいと思ってるし。
「君、ソールを知らないのか?」
「知りません。凄い人なんですか?」
「この国のことどれくらい詳しい?」
んー。私の知識は2年前だからな。最近の話は特にわからないかな。
「今はセムラト国王がこの国を納めてますよね?」
「そうだ。そして、王妃シェレルダがこの国を支えてる。セムラト国王は主に外交に積極的だ。王妃は国内。だが、国内には他にも有望な期待される人物がいる」
「大将ロクドですね」
「そうだ。あの男は帝国との戦争に勝利を飾った英雄。18年も前の話だな」
ハクヤの本当の父親。ハクヤは今頃どうしてるかな。大丈夫かな。お兄ちゃん。
「そして、もう1人。英雄と呼ばれて慕われている。兵士長ソール・クレイト。破壊神を倒してこの国を救った男だ」
兵士長!?それって私が出会ってはいけないもう1つの敵!
「大袈裟だな。破壊神なんていなかったし。崇めていた奴ら蹴散らしただけだ。そこまで大層なことなんてしてない」
「でも、こんなに親密度が高いんだ。ロクドより人気なのはそのせいだろう。お前は誰よりもこの国のことを考えている」
「戦いと戦略考えるのが得意なだけで、ボランティアのつもりでこの国守ってたらいつの間にか偉くなっちまったんだよな。あ、コーヒーもう一杯」
「あいよ」
見た目は若いが、この感じで兵士長か。その話だと、この人とんでもなく強そう。戦略家だと聞くとますます似合ってる。私の正体もすぐにこの人に睨まれるとバレそうだ。
「アリシ……エーラだっけ。君」
「はい…」
偽名だと気付いたか。いや、すぐには気付けないはず。
「君にはまた会いに来るよ」
「もう行くのか?」
「いつまでも邪魔しちゃ悪いだろ?それに、俺にはやることできたし。じゃあな」
代金はきっちり丁度出して出ていった。何を頼むか決めていたのか代金も前もって準備してたように用意が良い。
「さあ。そろそろ開店だ。エーラ。外に看板出してこい」
「はい!」
外に看板を持って出ると、ソールと入れ替わるように老夫婦が外で待っていた。
「おや、可愛い店員さんだね」
「新人さんかい?」
「はい!お客様ですか?どうぞ中へお入りください!」
それから私の接客業の仕事が始まった。マスターとアメリ先輩と私の3人で。人を大事にしてる店だと聞いて、客はそこまで多くは来なかったが、ずっと会話を切らすことはなかった。私もずっとお喋りばかり。人の話を聞いてばかり。けど、悪くはなかった。
仕事が終わって、私はゴウの手紙を見た。それは次の行き先。
「…少し歩くけど行けなくもない場所ね」
このブレスレットがある限り逃げることはほぼ不可能。このブレスレットには発信器が付いていて、場所は特定される。だから、朝の決意とは裏腹にまだあの男には従おう。まだあの男の考えが読めてないから。
「人がいる?」
街灯の下と書かれていた場所にはやつれて立っていた男の人の姿があった。
「あなた。アリシェ…さんですか?」
私の本当の名前!?ゴウの仕業か!ということは…ゴウの手下?
「これ、あなたに渡してほしいと言われて。渡しましたからね。では……」
手下…というか、雇われて待っていた人みたいね。ゴウのような不快で不穏な雰囲気ではなかった。
「手紙だけみたいね。差出人はもちろんあの男」
『宿を取った。そこでゆっくり休むといい』
場所はここからすぐそこ。職場からも近かった。やはりずっと見ていたのだと思う。
アリシェはこの手紙の文を見て、ある特徴に気付く。
「私がこの手紙を裏切った行動したらどうなるかという話はずっと書かれていない。いつ裏切っても良いってことよね…」
手紙事態が罠だ。ゴウの考えが読めない。何をどうしたいんだ。あの男が喋らないと意図が読めない。私は今ある状況から選んで行動するしかない。
「宿に行こう…」
いい加減、あの男に従うのが嫌になる。だが、それと同じ心情になるくらい楽に肩が落とせる。この男はずっと私に対して気配りしている。不気味だが、異常だが、悪いやつだが。楽になれるのはどうしてだ。あの男は許していない。許さない。私に対して追い詰めて何かしようとしてる奴のことなんて。
「私は絶対に負けない」
女だろうが、あの男に勝つまでは泣かない。




