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亡者達

 美童丸は注意深く慶次郎をあれから観察していた。


 そしてどこか慶次郎に惹きつけられていく自分を意識していた。

 何もかも剛胆、豪快。そして弱い者には限りなく優しい。こんな男が世にいたのか。

 だが、噂で長島の一向一揆のとき女子供も殺したということを聞いた。いかな第六天大魔王を自称した織田信長の命といえども、美嵐丸は慶次郎がそんなことをしたとは思えなかった。


 美嵐丸は、その時のことを同じ所に参戦した者を探して聞き回った。

 ある者はあやつは鬼神じゃ、と言い、ある者は情け容赦のない人非人にんぴにんと罵った。

「儂は・・・見た!この目で!敵の幼いおなごの首を地面に槍で突き通すのをな!」

 この男は足軽として慶次郎の周りに付き従ったという。美嵐丸は不思議に思った。その頃は慶次郎は滝川一益の軍中にいた。一益こそ実父だ。武将がそんな女子供を相手にするはずはない。

「何故にそのおなごは慶次郎様などの前に出てきたのです?」

「・・・儂等は男は殺すが、おなごは殺さねえ!せっかく生かして捕まえたのに・・・」

 その男の顔をみて美嵐丸は目を背けた。

 ぎらぎらとした目でその時を思い出す年老いた男の顔は、欲望にまみれて生きてきた徴を晒していた。


 ある夜、大きな声に美嵐丸は飛び起きた。

 主の慶次郎の部屋からのようだ。美嵐丸は大刀をひっ掴んで飛んでいった。

 障子の外で慶次郎の名を呼んだが返事がない。美嵐丸は飛び入った。

「旦那様!」

 床の上には胡座で座り上半身の寝間着を脱いで宙を睨み続ける阿修羅のような男がいた。

「・・・どうされました?」

 躙り寄って話しかけたが返事がない。

 慶次郎は筋骨逞しい肉体を硬直させ、暗闇の天井を睨み続ける。首から肩、両の太腕の筋肉がりゅうと盛り上がり、腹筋が階段のようになって腹で息をしている。全身から汗がじっとりと出ている。

 ふと慶次郎が美嵐丸を見た。今まで気が付かなかった様に。

「お嵐か・・・済まぬ、起こしたな。少し寝ぼけたようだ」

「何を見ておられたのですか?」

 美嵐丸は月夜の薄明かりで慶次郎の顔を見ようと顔を近づけた。慶次郎の男の匂いがむっと鼻を突いた。

「儂は・・・今までたくさんの者を殺めてきた」

 美嵐丸は自分が陰で聞き回っていたことを知られたかと思いびくっとした。

「時々・・・いや、いつも思い出す。連中の間際の顔をな・・・」

「恐ろしいのですか・・・?」

「うるさいのじゃ」

「え?」

 美嵐丸は意外な答えに目を丸くする。慶次郎は寝間着を肩に戻しながら言った。

「儂に・・・奴らの分まで生きろと言いに来る」

「生きろと・・・?」

「儂はもうこの世に飽いた。だからいくさで死のうと思う。強い奴に当たるとぞくぞくする。ここで存分に戦って死ぬことが出来るだろうと。しかし気が付くといつも生き残っている。五体満足でな」

「その亡者達が旦那様を守っている・・・?」

 慶次郎はかかと笑った。

「かも知れぬ。それが奴らの復讐なのだろう」

「先ほどは何を怒鳴ったのです?」

「もう、死なせろと言ってやった」

 美嵐丸は慶次郎の胸に抱きついた。

「お嵐・・・」

「死なないで下さい!私を旦那様のお側に居させて下さい。そして一生・・・」

 慶次郎は美嵐丸を愛おしそうに懐いた。そして強くその広い胸に閉じ込めた。その美しく梳かれた髪の匂いを嗅いで。



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