六頁 詩竜
瓦礫が散乱する裁判所、その中央には倒れ伏すバンダースナッチとその前に立つ千秋の姿があった―
「やっと倒れたか、無駄にしぶとい奴だったな…図体の割にはちょこまか動くし首は伸びるし、本当にここには変な奴しかいないな…さて、とりあえずあいつを探すか」
千秋がその場から立ち去ろうとしたその時、バンダースナッチが体を起こし千秋目掛けて首を伸ばした。
(まずい!避けれ…)
その直後、何かが天井を突き破りバンダースナッチの頭上に落ちてきた。その衝撃でバンダースナッチは再び倒れた。千秋の目線の先には一人の男が佇んでいた。男は獅子の鬣を連想させる様なバサついた頭髪、大きな犬歯の様な歯…そして、鋭い目は見ているだけで刃物を突きつけられてる様な感覚に陥った。
「見つけたぞ異分子よ、アリスの天分を我に捧げよ」
「その口振り、どうやら俺の正体がわかってるようだな…まぁ、譲る気なんて一切ないけどな!」
千秋は目にも止まらぬ早技でその男を切りつけた…と思われたが、「キィン」という剣戟の音が辺りに響いた。
「なっ⁉︎こいつ、硬い…」
「そんな玩具で我に傷をつけられると思ったか?ぬるいわ!」
男は千秋を勢いよく蹴り飛ばした。吹き飛んだ千秋は壁を突き破って隣の部屋まで飛ばされた。
「ぐっ!なんだよこいつ…本当に人間かよ、お前」
「ふむ、この姿では人間と間違えられても仕方ないな、ならば教えてやろう…我が名は詩竜ジャバウォック!人が語りし災厄とは我のこと!さぁ、我に呑まれよ、アリスと共に!」
すると、ジャバウォックの影が独りでに千秋の元へと伸び出した。千秋はやっとの思いで立ち上がったが走る力は残されていなかった。
(だめだ…避けられない…俺は、こんなところで終わるのか?)
その時―
「させませぇぇぇぇん‼︎」
気がつくとこちらに向かって走って来る時計ウサギの姿が見えた。時計ウサギは勢いのままに千秋を突き飛ばした。そして影は時計ウサギへ纏わり付いた。
「お前、何したんだよ!」
「ご、ごめんなさい!アリスさんの事考えてたら居ても立ってもいられなくて、つい…」
影は徐々に時計ウサギの体を呑み込んでいく―
「アリスさん、私はいつもドジばかりしてました。その度に貴方に助けられてましたね…そして今も…アリスさん、信じていますよ」
そう言うと時計ウサギは一滴の涙を流し、影の中へと呑まれていった。
「子兎の分際が邪魔しおって…次こそ貴様を…」
次の瞬間、千秋の放った一撃がジャバウォックを大きく仰け反らせた。流石のジャバウォックも焦りが見られた。
「ぬぅ⁉︎貴様、一体どこにそんな力が!」
「てめぇだけは…ぶっ殺す‼︎」
その時の千秋の表情は怒りと悲しみが混ざった強い表情をしていた。
「ほう、威勢はよいな…だがいったはずだ、そんな玩具では…」
「なら、こいつはどうかな?ジャバウォックさんよぉ!」
ジャバウォックが振り向くとそこには帽子屋のすがたがあった。そして右手には一本の剣が握られていた。ジャバウォックはその剣を見た瞬間、驚きの表情を浮かべた。
「なっ⁉︎それは、ヴォーパルの剣!何故そんな物が…」
「さぁ、なんでだろうな?アリス!受け取りな!」
帽子屋の投げた剣を千秋が受け取ると、たちまち剣から光が溢れ出し千秋の体中にできた傷が癒えていった。
「じゃ!俺様はこのへんでアデュー!」
帽子屋はジャバウォックを煽るように舌を出しながらその場から去って行った。しかし、ジャバウォックは構っている暇などなかった。何故なら―
「さてさて、死ぬ覚悟はできてんだよな?」
最も危険な男が最も危険な武器を持ち、目の前に立ちはだかるのだから…
足痛い筋肉痛
ここ書くネタ尽きたかも