五頁 限りありて尊きもの
不思議の草原―そこは温かい日差しが差す緑一面の長閑かな地、の筈だが今は殺伐とした空気に包まれていた。そこには睨み合う二人の人物がいた。
「単刀直入に言わせてもらう、今すぐここから立ち去れ」
「本当に冷たいわね…生憎だけど私の計画はまだ終わってないのよ…」
「そうか、なら少し強引ではあるが、ご退場願おう!」
直後、Lの足元から無数の人々が荊の蔓が伸び、Lを取り囲んだ。Nが指を鳴らすと荊の棘が伸びLの体を貫いた。一瞬にして勝敗がついたと思われたが…突如、荊が燃えだした。荊が燃え尽きるとそこには、不気味な笑みを浮かべたLがいた。驚くことに彼女の体には傷がなかった。
「チッ、相変わらず化け物のようだ…いや、そのものか…」
「あら、おかしなことを言うわね。それは、貴方も同じでしょ?」
「……」
暫くの沈黙の後、Lが煽るように話を続けた。
「どうしてあの子を代役に選んだのかしら?気まぐれ?それとも、また可能性に賭けるの?また同じ悲劇を見るだけよ…運命には決して抗えない、だから私は“終わらない夢”を求めるのよ…なぜ貴方は理解できないの?」
そしてNは即座に答えた。
「理解できてないのはお前だ!運命に抗えない?そんなこと、あの時から知っていたさ…だが、それと同時に私は気付かされた。命もお前の言う夢も限りがあるからこそ尊いのだと!それに、千秋くんの運命はまだ“空白”のままだ」
「なら、尚更よ、愚かな創造主に理不尽な運命を与えられる前に…」
「だからこそ今はあの人を、あの人達を信じるんだ…それが私達、傍観者の唯一の役目だ」
その言葉は自身の強い信念にも、無力な自分の嘆きにも聞こえた。そんなNの言葉を聞いたLは溜息を吐き、
「やっぱり分かり合えないのね、でも私は止まれないのよ、夢のためにも…だからねN…私のために死んで頂戴」
その刹那、Lは頭上に巨大な球体を生成した。それは、とても禍々しく、まるで怨念そのものを目の当たりにしているようだった。
「聞こえるでしょ、創造主に弄ばれ朽ちていった者たちの悲嘆が…貴方も呑まれなさい、底の見えぬ淵へと…」
球体はNに向かって放たれた。しかし、Nはそこから動こうとはせずそのまま目を閉じた。
(目の前に死の運命があるとき、五感は意味を成さない、ならば、全てを捨て直感に委ねる。そうすれば自ずと死に埋もれる生の運命が見つかる…でしたね、師匠…)
「生の運命…今ここに見つけたり!」
Nは両手を握りそれを球体に勢いよく叩きつけた。凄まじい衝撃波が発生し球体は衝撃に耐えきれず破裂した。さらにNは隙ができたLに向かって一本のナイフを投げた。ナイフは見事にLの腹部に刺さった。だが、Lは平然とし、ナイフを引き抜いた。
「あの一撃を防いだのは褒めてあげるわ…でも、こんな玩具じゃ私は、あれ?傷が治らない…痛い…苦しい…何が、どうなって…」
「黄金の林檎…一口でも口にすれば永遠の命を得る禁忌の果実…その黄金の光は災厄を退く力を持つ、今のお前にとってはその果汁すらが猛毒そのものとなる。だが、複製のものではこの程度が限界か」
Lはその場に膝から崩れ落ち苦しみの表情を浮かべていた。頭から滝の様な汗が流れ、瞳孔は大きく開いている。
「残念…残念だわ…これじゃあ台無しね、今回は諦めるしかないわね…次に会えるのはいつかしら?うふふっ…またねN、いいえ…ニコラス」
そう言い残すとLは自分の影へと沈み行き姿を消した。辺りが静寂に包まれるとNは尻もちをつく様に座り込んだ。
「少し無茶しすぎたか、やはりこの体では…今は考えないでおこう…次こそはお前を殺す…リリィ」
その時私は、どんな顔をしていただろうか―
夏休み突入しました!