【第三章】第十八部分
「お姉ちゃん。お兄ちゃんはどこにいるんだよ。」
「あっ、忘れてたわ。ヤマナシケンはその辺りに転がっているんじゃないの。」
「そんなモノみたいな言い方、やめてくれる?でも本当にいないよ。」
「おかしいわね。いったいどこに行ったのかしら。観光でもしてるのかしらね。」
しばらく周囲を探して、ようやく和人の姿が見えてきた。
「お兄ちゃん!」
しかし、和人は動かない。宙に浮いている。
「干からびてるじゃない。」
和人は宙に浮いているのではなかった。誰かに抱きかかえられていた。
「かずちゃんにひどいことした。許嫁、あなたを許さない。」
連れてきた者を見て、実亜里が大きな声を上げた。
「名詩魅!どうしてここにいるんだよ。お兄ちゃんにいったい何をしたんだよ!」
赤いセーラー服の名詩魅は、薄くなった和人を抱えて、その体をじっと見つめた後、実亜里に向かって喋った。
「実亜里。そこにいる天使がかずちゃんの時間質量を搾取した。∴かずちゃんはこんな姿になった。ううう。」
名詩魅の頬は大粒の涙でぬれている。
「お兄ちゃん!!」
慌てて和人の元に駆け寄る名詩魅。
和人の体はミイラのように痩せこけている。実亜里の言葉にまったく反応を示さない。
咲良も和人のところにやってきたが、変わり果てた和人の姿を見て、顔は色を失った。
「ヤマナシケン。まさか、アタシのせいで・・・。」
咲良は言葉を紡ぐことができなかった。
「お姉ちゃんがお兄ちゃんを喰ったということなの?そんな、いくらなんでもあり得ないよ!」
「どう思ってもそれ、自由。でも事実、変わらない。許嫁、魔界革新党員。そもそも天使を倒すの、義務。党本部からも天使抹殺の命令、受けている。∴そこにいる天使、倒す。」
名詩魅は放心状態の咲良に近づき、首を掴んだ。
「・・・。」
無言の咲良に対して、呪文を唱えるのではなく、右手のこぶしで、殴りつけた。
何発も何発も殴り続けた。
「お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで~!」
今日ばかりは、声の感情を爆発させている名詩魅。
名詩魅はひたすら咲良にこぶしをぶつけ、咲良は痛いとも言わずに、無言でサンドバッグになり続けていた。
「いくら攻撃してもかずちゃんは戻らない。でも天使を倒せば党からの評価はあがる。∴攻撃を継続する。」
名詩魅はやはり魔法を使わずに打撃だけ。咲良は整った顔にたくさんの痣ができている。




