【第三章】第二部分
「委員長!」
芳香が眉根をやや吊り上げて、右手を上げた。
「百鬼議員の意見は極めて局地的な事象であり、そこにあまりに拘泥すると、天界との交渉方向を誤り兼ねません。大事の前のショウジよりも大局的な見地が優先されますし、これまでも魔族保守党政権はそのようにやってきて、天界との間に相応の信頼関係を維持しています。辺境地での小競り合いの収束には与党としては自信を持っています。これまで大過なく運用された実績をご覧いただければ、自ずと理解できるものと思われます。ハアハアハアハア。」
芳香の呼吸はさらに乱れてきて、周りの委員・議員にも聞こえてきた。
「ずいぶん息切れしてるな。コイツ、議論に負けてると思って、焦ってやがる。よしこうなりゃ一気呵成に攻勢だ。」
百鬼議員がそう思ってしまうほど、芳香議員の呼吸の乱れは目立っていた。
「魔界の支配領域はこのように、以前に比べ減っている。」
百鬼議員は、天界魔界地図のボードを出して、青い支配領域の周辺地域、つまり天界との国境の一部が赤く塗られた部分を差し示した。
「それは天界との経済交流が進められているエリアであります。従って、領土が減少しているという百鬼議員の指摘は当たらないと判断されるかもかなあ。いや判断します。ハアハアハアハアハアハアハアハアハアハア。」
「経済交流だと?経済援助という名目の、土地使用許可じゃねえのか?そういうことを支配権を譲ったと言うんじゃないのか!」
百鬼議員はバンバンと机を叩いて反論している。
「ハアハア。で、では百歩譲って、支配領域が減少したとしましょう。支配権減少、言い換えれば、影響力譲歩は平和維持のコストです。むしろバーターで得られるものがあります。具体的には情報提供、天界の経済データをもらっています。それが魔界の経済運営にプラスになっていることは否定できません。」
『ダン!』
椅子を蹴飛ばしたような大きな音を立てて、百鬼議員は立ち上がった。
「そんなものが何の役に立つ?天界は魔界から時間質量を奪った。当然にして悪魔は時間質量ない状態にさらされて、魔法を使わざるを得なくなり、結果、時間質量なしでも魔法が使えるようになったが、特別な悪魔をのぞき、到級5が上限だ。知ってるだろう。」
「さあ。そんな都市伝説を議会に持ち出すのは議員バッヂを汚すだけです。でも、ハアハアハアハアハアハア。」
「都市伝説だと!俺をバカにするのか!貴様、人生の時間経過を急がせる魔法でも使うつもりか?武闘派と呼ばれる魔界革新党のことはよくわかってるだろ?なあ、見せかけだけの穏健派、魔族保守党の議員さんよ。」
「とうとう本音を爆発させましたね。こちらも爆発したいんですけど。天界が違法な行為をしたという確たる証拠はあるんでしょうか?ハアハアハアハアハアハアハアハア。」
いよいよ芳香議員の呼吸は末期的である。
「よし、本当なら一発ぶっ放したいところだが、今はガマンしてやるぜ。そこまで言うなら証拠とやらをお見せしようではないか。おい、証人いや、参考人か。委員会の場に出てこいよ。」
「呼ばれた。∴答弁する。」




