【第二章】第十六部分
「よしOKじゃ。絶望前提ならコワいものはあるまいて。」
「その言葉がコワいよ!」
「ならば火の魔法を始めよ。」
「わ、わかったわよ。相対魔法、術式・火、制限・オン。対象・ヤマナシケンの時間質量、範囲・ヤマナシケンの体内、時間・1秒、到級4。発動!」
和人の体は微動だにしなかった。
「あれ?魔法が出ないわ。おかしいわね。もう一度。相対魔法、術式・火、制限・オン。対象・ヤマナシケンの時間質量、範囲・ヤマナシケンの体内、時間・1秒、到級4。発動!」
やっぱりダメだわ。いったいどうしたのかしら。今度こそ。」
咲良は呪文を唱えた。『ポン』という小さな音が聞こえた。
「今『ポン』って言ったわよね?音がしたわよね?」
「うむ。たしかに魔法発動の痕跡がある。でも弱い爆発力どころか、矮小過ぎて、何の効果も得られなかったようじゃ。ポンカスじゃな。」
「ヒドい言い方ねえ。せめてEU離脱でポンド、カス化?とか言いなさいよ。」
「意味不明じゃ。さあ、今一度トライするしかあるまい。」
「でも、さっき1秒使ってるわ。つまり次はあとがないのよ。」
「魔法発動時間リミットがわずか3秒か。詮ないのう。しかし、それも運命じゃのう。でもやるしか選択肢はないぞ。」
「う~ん。ダメだわ。どうしても魔法が出せないわ。」
「なにかを思い浮かべるんじゃ。楽しかったことを!」
「楽しかったこと?天界ではロクなことなかったし。人間界にテストのために出されたし。人間界。・・・。リコーダー吹いてくれたこと、自分を探してくれたこと(実亜里から聞いた)は嬉しかったなあ。でもその時、委員長のリコーダーを吹いたわね。それだけじゃないわ。あんなにたくさんのリコーダー吹いていたわ。あれは浮気なんてレベルじゃないわ。多数婦女暴行よ。ムムム。スゴくムカついてきたわ。それにヤマナシケンの委員長を見る目。とろ~んとして、実にまろやかな豆腐みたいだったわ。これは誉めてなんかないんだから!もう許せないわ!爆発。」
『ドン!』「ぐあああ~!」
爆発と同時に発せられた和人の悲鳴は轟音にかき消された。
和人のからだは木っ端みじんになった。和人の短い人生はここに終焉を迎えた。体の消滅を4人に看取られたのがせめてもの救いか。
「お兄ちゃん!みあとのアツアツな新婚生活を置き忘れてるよ~!うわ~ん!」
「ヤマナシケン~!どうして!アタシが悪いの~!」
実亜里と咲良が泣き叫んだ。
「たしかにそなたの魔法の制御ができなかったのが原因じゃが、泣く必要はないぞ。」
「咲良様、ありがとう。おかげで助かったよ。」
そこには白いシャツを着て五体満足な和人が立っていた。
「え、え、え?ヤマナシケン、生きてるの?」
「うん。どうやら無事みたいだね。一瞬考えられないような激痛に甘んじていたけど。」
「ヤマナシケン!よ、よかった~!ぐしゃぐしゃ。」
咲良の言葉は言語体系を維持できなかった。
実亜里は和人の胸に縋って泣くだけだった。




