【第一章】第二部分
「何ぼさっとしているのよ。せっかく魔法で時間を3秒戻してあげたんだから、あとは自分でなんとかしなさいよ。」
「うわあああ。そんなこと言ったって、どうしたらいいのかわからないよ!」
和人はパニックとなり、大きく右腕を振ったら、一角獣の鼻に当たった。
『グガガガガ!』という悲鳴に似た唸り声を出して、一角獣は消滅した。
「何が起こったの?あの化け物はいったいどこへ行ったんだろう。」
「モブにしてはやるじゃない。一角獣というか、術獣の弱点は鼻だったみたいね。それを瞬時に見抜いて、倒したみたいよ。」
「術獣?聞いたことないよ。それに、そんなのんきな分析をしてる場合じゃないよ。時間が巻き戻ったのはわかったよ。信じがたいことだけど、本当に魔法って、あったんだ。でも、たった3秒時間を戻すだけじゃ、あまり効果がないんじゃないの。」
「な、何生意気なこと言ってるのよ。命を助けられて大感謝して、アタシの足の裏を舐めるぐらいするのが礼儀じゃないの、犬みたいに。」
「い、い、犬!?・・・ワン、ワン、ワン!」
和人は四つん這いになり、ベッドに座っている咲良にむしゃぶりついてきた。
「こら!何するのよ。あんたが犬だということはわかるけど、これじゃタダのセクハラよ。バシッ!」
咲良は犬化した和人を思いっきりひっぱたいて、部屋の壁まで飛ばした。
「クウウウン。・・・って、あれ?ボクはいったい、どうしてたんだろう?」
「それはアタシのセリフよ。天使であるアタシの飼い犬になることは許してあげるけど、アタシの体に触れることは絶対禁止だからね。」
「わざとじゃないし。それにしてもアレはいったいなんだったんだろう。」
「今ので、あんたが死ぬまでの忠誠を誓ったアタシの犬になったことは、確定したんだからね。これからは天使咲良の犬として、仕えるのよ。主従関係成立だわ。」
「あのう、主従関係って、主人側から従者に何らかの報酬を与える契約では?鎌倉時代の御恩奉公的な何かがあるんじゃ?」
「見返りを要求しようとしてるの?バッカじゃないの。あんたはひらすら命令に従うだけの木偶人形なんだからね。安心して、死ぬまで生きなさい。」
「ひどすぎるよ!それに、ボクは勉強とか禁止なんだよね。じゃあ、いったいどんな風に生活していけばいいんだよ?」
「そんなこと、アタシは知らないわ。自分で考えなさいよ。」
「なんて、無責任な天使なんだ!」
「とにかく、あんたは狙われているのよ。それは十分わかったわよね。アタシは天使だから、普通の人間の前に姿を現すわけにはいかないから、外では変身した状態になるからね。」
咲良はそう言った瞬間、姿が消えた。
「あれ?どこに行ったの?本当に消えちゃったよ。このままいなくなればいいのになあ。」
(やっぱり考え方が甘いわね。困ったらこれでアタシを呼び出すのよ。)
「どこにいるの?わからないよ。」
(机の上をその腐ったサバ目でガン見しなさいよ。)
「リコーダーがあるけど。でもこれはボクのじゃないな。こんなシュミの悪い金色なんて、吹奏楽の楽器じゃあるまいし、あり得ないよ。」
(ひどいわ!こんな高級感溢れるリコーダーなんて、この世に存在すると思ってるの?)
「存在、不存在の議論なら、これしかないとは思うけど。」
(それならそれ以上深く考えることは禁止よ。あんたは思考すること自体も、危険要素なんだからね。リコーダーの使い方を今から説明するわ。)
「はあ。」
その時、『ドスドスドス。』という大きな足音が廊下側に揺れとともに響いた。
(じ、地震だわ!)
「和人お兄ちゃん。なんだか騒がしいけど、何かあったの?まさか、泥棒に拉致されて、命を奪われてしまったとか?」
女の子にしてはかなり低く太い声がドア越に聞こえた。
「実亜里。大丈夫だから、部屋に入らないでよ。」
「わかってるよ。そんなの頼まれたって、お兄ちゃんの部屋になんか入らないよ。ダメダメお兄ちゃんの中で唯一活躍している青春性欲に、凌辱されるのがオチだからね。」
「実の妹にそんなことするか!」
「他人の妹にはするんだ?」
「上げ足を取るな!もう遅いんだから早く寝ろよ。」
『ドスドスドス』という足音はだんだんと遠くなり、消え去った。