【第二章】第二部分
「真顔でそう言われると、二の足を踏む気分に襲われるけど。」
「それは事実ですよ。だから、度胸と根性のない方は通常、ここでリタイアされるですよ。」「ちょっと、おかっぱ販売員。いくら脅してもアタシたちには通用しないわよ。」
「あらあら、これは天使様じゃないかですよ。もうひとりの方も。こんなところに何しに来られたのですよ?」
「アタシが天使だと一発でわかるなんて、さすが悪魔ね。」
「本当に危険だから言ってるだけですよ。悪魔は天使と違ってウソをつきませんですよ。これもエコ、もったいない精神の現れですよ。」
「アタシたちは魔界に用事があるのよ。別に破壊活動を行うということはないわ。ここにいる人間の治癒が目的。それだけよ。」
「そうですかですよ。天使の言うことですけど、入場料を払うなら信じるですよ。」
「よかったわ。じゃあ、そこを通しなさいよ。」
「ならばひとつだけ条件がありますですよ。じゅる。」
ずっと真面目な顔をしていたおかっぱ入場券販売員であったが、涎を垂らして、舐めるような視線を咲良にぶつけている。
「身体検査させてくださいですよ。」
「真面目そうな顔して、何がしたいのよ。」
「この人です。人間ですから、時間質量を量るですよ。墓るですよ。」
「それならいいわ。スキにしなさいよ。そのまま墓に入れてもいいわ。」
「それじゃここに来た意味がないよ。」
入場券販売員は、それまでと違い、キッとした目で和人を睨んだ。
「タダの人間には興味あるですよ。このまま素通りはいけませんですよ。」
「ボクに何かしろと言うの?非宇宙人・非未来人・不能力者だよ。」
「不能力はマズいですよ。何かしろではなく、こちらが能動的に『身体検査』するですよ。」
入場券販売員は、和人の全身を見回して舌なめずりした。
まだ十代前半にしか見えない入場券販売員。女子であろうと青春真っ只中かもしれない。「検査!?お兄ちゃんの小蛇を検査するのは、みあの一身専属権利だよ、ゼッタイ不可侵条約対象だよ!」
「小蛇?何のことかわかりませんですよ。身体検査と言えば、これですよ。じゃじゃ~ん。」入場券販売員が両手で差し示したところに、置いてあるのは、体重計であった。
それも乗ると、大きな円形アナログ目盛りが目の高さに位置する、昭和の銭湯に置いてあったレトロモノである。汚れはなく、しっかりと磨かれた様子である。
「ボクに、これに乗れって言うの?体重を図るつもり?」
「まあそのようなものですよ。痛くないですから安心ですよ。」
「ちょっと待ってよ。みあが安全かどうか確認するよ。」
実亜里はふんふんとニオイを嗅ぎながら、体重計をくまなくチェックした。
「う~ん。テイスティ。たしかに安全性は確保されてるようだね。でも用途は体重測定ではないね。」
「スゴい。大正解ですよ!これは時間質量測定器ですよ。あまりに大きなエネルギーが来たりすると、いろいろヤバいので。お手数かけますですよ。」
頭と上半身をぺこりと下げた入場券販売員。
「じゃあ、乗ってくださいですよ。・・・これはどういう意味ですよ?」
「あらゴメンナサイ。」
咲良が入場券販売員の背中に乗っていた。
「どうかしましたですよ?」
「いやなんとなく。ひとり黙ってるのもシャク由美子だったから。別になんでもないわ。」
「それは誰ですかですよ。ならばそっちの人間、どうぞですよ。」
「そっち呼ばわりされるのもどうかな。」
ビミョーに眉間にシワを寄せながら体重計に乗った和人。