【第二章】第一部分
和人たちは夢の島に向かって出発し、電車とバスを乗り継いで、今は歩いている。
和人はTシャツ、実亜里は白いストラップのシャツに白のミニスカコーデ。
実亜里は和人と腕を組んでなかなかゴキゲンな様子である。
「お兄ちゃんとこうしてデートできるなんて、夢みたいだよ。行き先が夢の島なんて、正夢だよ。」
「暑いからあんまりくっつくなよ。」
一見いちゃついているように見える兄妹をわずかに振り返って、眉根を寄せる咲良。
「夢の島なんて言ったら、すごく臭くて、ゴミだらけでボロボロなところじゃないの?気が進まないわ。下がすごくゴツゴツしてて、気持ち悪いわ。ほら、なんか、マネキンの足みたいなのが、出てるわよ。」
ブツブツ不満をたれている咲良。今日は羽を隠している以外は、人間サイズで出てきている。水色で裾がフリフリのワンピースを着ており、よく似合っている。
「やっと着いたよ。ここって、ゴミの島?とてもそんな風には見えないよ。むしろ、遊園地っぽいけど。」
和人の言う通り、キリン、ゾウ、ライオンなどが描かれたアーチ型の大看板を冠した大きなゲートが見える。
看板の下には、『もったいないドリームアイランドへようこそ!』と縁取りしたゴシック体で書かれている。板の様子から新品ではなく、最近塗り直してきれいに磨いた感じである。
「『もったいない』とか書かれてるのは気になるけど、古そうなのに、手入れがしっかりしてある感じだね。」
「うんうん。まさに昭和の香りって感じだね。お兄ちゃんと不純な純愛を深めるには絶好調だよ。」
「その言葉、ちょっとおかしくね?」
「ちょっと騒いでないで、早く中に入るわよ。」
やはりややプンスカ気味の咲良がふたりの会話に割り込んだ。
「どうやら、ここに入るには、入場料がいるらしいよ。」
和人が指差した場所、つまりゲートの横には、こうした古めかしい動物園などにありがちな入場券販売所があった。しかし、販売員はいない。
「入場券はどこで買うのかな?」
「どうせ誰もいないんだから、勝手に入っちゃえばいいんじゃないの。門は開いてるじゃない。」
「回転ゲートがあるよ。それは入場券を通さないと入れないタイプだよ。」
「そ、そんなこと、知ってるわよ。早くなんとかしなさいよ。」
知らなかったことを否定しつつ明らかにしながら、指示する咲良。
「これはリストラで販売員を人間から自販機に変えてるハズだから、どこかに自販機があるんだけど。」
睥睨して探索モードの和人だか、周囲にはそれらしい筐体は見つからない。
「ここには自販機はないですよ。この販売員が売ってるですよ。はあはあはあ。」
狭い額に汗して、息を切らしながらやってきた女子販売員。
髪は黒いおかっぱで、茶色がかった黒目に、三白眼、赤いほっぺが幼さを強調していて、中学生ぐらいに見える。宅配便業者が被る小さな緑色の帽子に深緑のつなぎ。
歩数と時間を気にしているのか、さかんに腕時計に目をやっている。
「君がここの入場券を売ってるの?」
「はいですよ。お一人様、千円になるですよ。」
おかっぱ販売員は額の汗を手で拭ったが、さらに汗は染み出てきた。
「千円?それだけで、魔界へ入れるっていうこと?名前はドリームアイランドって書いてあるけど。」
ドリームアイランドという名前を見て、一瞬テンションを上げる咲良。
「はいですよ。魔界という名称だと、怪しいイメージがあって、誰も近寄らなかったので、全米にネーミングを募集して、この名前にしたですよ。」
「その募集形態の方が怪しいけど。じゃあ、本当にここが魔界への入口ってことでいいんだね?」
「はいですよ。一度入ったら、二度と戻れないですよ。」