【第一章】第十九部分
「よくわからないけど、ボクが咲良様、いや天使に左腕を食われたのは、魔法を使うため?」
「そういうことになるでしょう。先ほど、木賀世さんが破廉恥なリコーダー口撃をされた時、ワタクシたち悪魔は、報復として時間質量をいただきました。天使が食べる時間質量と比べると、消費の質が10分の1程度ですから、体の残存率は大きいとは思いますわ。その半透明度が左腕とそれ以外は異なっていると思いますわよ。それにいったん失った時間質量は二度と回復しませんわ。」
「ま、まさか。そ、そんな。うわあああ~!」
和人は焦って全身を見回すと、たしかに全体的には曇りガラスのようであるのに対して、左腕部分は骨がスケルトン状態である。
「このまま放っておくと、全身が透明になってしまいますわよ。そうなったら。」
「そ、そうなったら?」
「時間質量がなくなり、人生ゲームオーバーとなりますわ。」
「それって、死ぬっていうこと?」
「そうなりますわね。その時は魔界への招待状が届くことになるでしょう。時間質量のないカスとしてね。」
「死ぬ?カス?そんなの、いやだあ~!」
「ちょっと待ちさないよ。ヤマナシケンがいなくなると、テストの評点が下がって、アタシが困るんだけど。」
「咲良様。そんなのんきな言い方はあんまりじゃ?」
「どうせいつか死ぬんだから、あまり気にすることはないわ。でも、今はその時じゃない。そこの悪魔。アタシのことも知ってるみたいだけど、それはこの際どうでもいいけど、ヤマナシケンをこのまま放置もできないし。いったいどうしたらいいのか、知ってるわよね?」
「咲良様。ボクのことを心配して?」
「か、勘違いしないでよね。飼い犬の病気を治そうという飼い主責任を果たそうとしているだけなんだからねっ。」
「ありがとう!」
咲良の白い顔に赤みが差している。
「天使からの質問はワタクシに発せられたものですわ。その回答の在り方は魔界ですわ。」
「魔界に行けということなの?あの薄汚れた、いやめちゃくちゃ汚い廃棄物処理工場の世界へ?」
「お言葉ですわね。でもそうしてしまったのはそちらのご先祖ですけど。それはここでは置いておきますわ。天使なら魔界への入口をご存知なのでは?」
「知らないわよ。そんな汚いところは天界の修学旅行どころか、社会見学コースや職場体験先にもエントリーされてないわよ。」
「そうですの。それならば、港の端にある『夢の島』に行ってくださいな。そこが魔界への水先案内口ですわ。行けるなら行ってくださいな。そのまま帰って来なくてもいいですわ。」
「あんな汚いところ?ニオイもヒドイし、すごくイヤだわ。」
「あとはそちらのみなさんで判断すればよろしくてよ。木賀世さんについては、風邪で不登校になりましたと学校へ連絡しておきますわ。ホーホホホッ。」
こうして、和人たちは一旦帰宅することとなった。
「夢の島か。ゴミで作られた島だね。そんなところから行く魔界って、いったいどんなところだろう。」
「お兄ちゃん。もうこうなった、行くしかないよ。」
「うん。この体が元に戻る可能性があるなら、それを追求するのみだよ。それに咲良様も一緒だし。」
「し、仕方ないわね。あくまでテストの為なんだからねっ。」
「うん。それもすごく大事だからね。」
和人の笑顔は咲良には眩しく映った。
「そ、そうだわね。ずっと実亜里に隠れていたけど、ヤマナシケンの気持ちはうれしかったわ。」
「えっ?何か言った?」
「な、なんでもないわ。さあ、夢の島へ行くわよ。」