【第一章】第十六部分
翌日。和人と実亜里は一緒に登校した。
実亜里は肉襦袢ではなく、普通の赤いセーラー服を着て、茶色で短めなふたつ結びの髪を風に靡かせている。鳶色の大きな瞳が朝日に輝いている。胸も楽し気に大きく弾んでいる。
「こうして、お兄ちゃんと夜越しのデートができるなんて、ウレシイよ!」
「人聞きの悪い言い方するなよ。こっちは、学校に行くという大きなリスクに向かっているんだからな。」
こうして、教室に向かうふたり。実亜里は中学2年生だが、和人に追従した。
教室のドアを開けた和人は、金色に輝く無数の光に圧倒された。
1分後、明順応した和人はドアの取っ手を掴んだまま、フリーズした。
教室にいる女子30人全員が金色のリコーダーを首からぶら下げていたのである。
さらに5分後、ようやく解凍された和人は、唾を嚥下して、開口した。
「これはいったいどうしたことだ。みんながあのリコーダー持ってるなんて、おかしいよ。」
「これはこれは木賀世さん。昨日は少々残念でしたわ。ワタクシにおやりになったことが気になるとクラスのみなさんがおっしゃるものですから、木賀世さんから変なことをされないように、こうしましたのよ。」
「ボクが変なこと?それは仕方なくてやったことです。」
「ホーホホホッ。変なことはどうでもよくてよ。そんなことより、この中から本物を見つけてごらんなさい。」
「本物?どういうことですか?」
「この期の及んでシラを切る必要はありませんわ。この中に一本、あなたがお探しの本物がありますわ。それを当ててご覧なさい。」
「委員長。どうしてこんなことするの?ボクが何か悪いことでもしたというの?」
「そうですわね。今はあまりしておりませんが、やがてしてしまうから、というのが正しい評価ですわね。」
「言ってることが全然わからないよ。みんな同じクラスメートじゃないか。なかよくしたいじゃないか。」
「そうしたいからこそ、みなさんもこれまでガマンしてきたのですわ。でもここに天使を連れてきた以上、こちらも対抗手段を取らせていただきますわ。」
「ますますわからないんだけど。」
「ならばそれも、本物のリコーダーを当てたらお教え差し上げますわ。」
「そんなの簡単だよ。」
「おっと、全部吹いてみるとか、幼稚な作戦は通用しなくてよ。すべてに毒を塗ってありますから。それでもよろしければおやりなさいな。」
「毒!?う~ん。もしたから大した毒じゃないかもしれないし、そもそも脅しだけで塗ってもないかもしれないよね。試してみる価値はあるかも。」
「お兄ちゃん、やめて!」
教室の入口手前にいた実亜里が大きな声を出した。
どこからかで捕まえたのか、カラスを手にしている。
「実亜里!そのカラスはいったいどうした?って、まさか。」
「そのまさかだよ、お兄ちゃん。」
実亜里はすぐそばに立っていた女子の金色リコーダーに、嫌がるカラスの口を強引に当てた。
『ガアアア~!』
ひどく濁った声を出したカラスを手放した実亜里。
床に落ちたカラスはガアアアと叫びながら痙攣して、のた打ち回り、やがて動かなくなった。