【第一章】第十四部分
「ピンポン、ピンポン、ピンポン。大正解だよ、さすがお兄ちゃん。妹を愛してる証拠だね。」
「そうじゃないだろ。天使だとしたら、ボクと長年過ごしてきた思い出は、ニセモノで、ボクは、妹詐称天使に誤った記憶を植え付けられていたということ?あの楽しかった夏祭りとか、苦しい思いしかない運動会とか、すべて作り物だというのか!あああ。」
「そんなことないよ。記憶書き換えとか、天使でも簡単にできる魔法じゃないよ。人間の記憶は無限大に近いんだよ。それを書き換えするっていったら、どれだけ時間質量を消費すると思ってるんだよ。部分的書き換えなら大したことはないけど、それでは記憶のどこかに矛盾が発生して、やがて大脳の記憶中枢を破壊しかねないよ。お兄ちゃんが大脳カオスを望むなら、やってあげるけど。」
「謹んで遠慮するよ。わからない用語が飛び出しているし。でも記憶が真実だとすると、妹詐称天使は、生まれた時からこの家にいるということ?」
「そうだよ。だからお兄ちゃんの妹説は確実に証明されるよ。」
「でも妹有力説天使としていただけで、血の繋がった実の妹なワケないだろう、生物学的に!」
「そんなことないよ。実亜里とお兄ちゃんはちゃんと血の繋がった兄妹だよ。」
「妹説有力天使と人間だよ。おかしいだろ?」
「いちいちわかりにくい呼び名を使わないでよ。お兄ちゃん、いい?実亜里とお兄ちゃんは実の兄妹であって、かつ実亜里は天使でもあるんだよ。兼業農家と一緒だよ。」
「それは違うだろ!」
「違わない。実亜里は天使だよ、つまり人智を超えた存在。天使が人間の妹を兼ねるということも有り得るんだよ。天使には何でもアリだよ、モハメッドアリ!」
「最後のワンフレーズで、説得力が極小化したけど。」
「とにかく何でもアリだから。これはどこまでのホントのことだよ。なんなら、DNA鑑定をしてもいいよ。」
「そこまで言うなら信じるよ。じゃあ本当の兄妹でいいんだね。これまでと何も変わらないんだね。」
「そうだよ!」
和人はトンデモ理論に納得できていないものの、心は晴れやかになっていた。
「ところで、ここは大丈夫なのか?」
「ここは悪魔には見つからないよ。」
「でもこの前、ボクの部屋は襲われたよ。」
「今から見つからないようにするからね。相対魔法、術式・風、制限オン。対象・術人、範囲・125立方メートル、時間・8時間、到級3。発動!」
「何をしたんだよ?」
「お兄ちゃんの時間質量を空気並みゼロにしたように見せ掛けた。そんな魔法だよ。世間で言われる結界の一種だけどね。力を抜くだけだから、長時間できるよ。お兄ちゃん、からだが軽くなってない?」
「ええ!全部半透明化してるよ。」
「そうそう、本当は抱きしめたいんだけど、できないね。」
「それはわずかに遠慮するからこのままでいいや。それよりも、黄金リコーダーはどこ?」
「ふう。やっぱりそこなんだ。」
少し残念そうに肩をすぼめた実亜里。しかし、かぶりを振って、確固たる視線で和人を睨むように見た。