【第一章】第十三部分
そして三分後。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「キャーッ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
悲鳴とも怒号ともつかぬ声が割れんばかりに、教室の窓と壁を襲いかかった。
「はっ!ボクはいったい何をしたんだ?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「木賀世くん、ヘンタイ!木賀世くん、超ヘンタイ、木賀世くん、超絶ヘンタイ~!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
強烈なシュプレヒコールが発生し、女子生徒たちは暴徒化してスクラムを組んで和人に迫り、怯える和人は教室の隅に追い込まれた。
「こ、これは何かの間違いなんだ。ボクに悪気はないんだ。名詩魅、助けてよ!」
集団の一員で先頭に立っている名詩魅に通じる言語はなかった。
全員が両手を頭上にあげて、獲物を狙うカマキリ拳の構えで侵攻している。
「だ、誰か助けて~!」
「その言葉、待ってたよ!相対魔法、術式・強化、制限オン。対象・術者、範囲・脚部、時間・10分、等級2。発動!」
実亜里の呪文は大騒ぎの中で、和人には聞こえなかった。
特大赤セーラー服の実亜里が、和人を抱えて、教室を出て行った。
「ふう。やっとウチに帰ってきたね。お兄ちゃん、大丈夫?」
「ものすごいブーストだったんだぞ。電柱やポスト、民家、商店、他もろもろをどれだけ破壊すれば気がすむんだ?」
「生意気言ってるんじゃないよ。みあがどれだけ苦労して頑張ったと思ってるんだよ。あれだけの敵を向こうに回して、命があっただけでも超ラッキーなんだから。」
「そうなのか。よくわからないけど、ありがとう。」
和人は埃だらけの顔を優しく緩めた。
『ぽっ。』
実亜里の大きな顔に赤みが差した。桃太郎でも生まれそうである。
「べ、別に、感謝されても、何も出ないよ。」
「わかってるよ。ここは実亜里の部屋だよな。久しぶりに入ったよ。けっこう、女の子っぽくしてあるな。」
ピンクを主体にした暖色系のカーテンやカーペット。ぬいぐるみやかわいい小物がきれいに整頓して並べてある。
「あれ?椅子がずいぶん小さいけど、前は痩せてたのかな?幼い頃から今の体型だったような?」
『バシッ!』
「いてえ!もうお兄ちゃんはみあのこと、全然わかってないんだから。」
実亜里は背中に手を当てると、そこが銀色に光って、ファスナーが現れた。
「えええ?実亜里、その体は!脱皮したのか。進化に取り残された外骨格生物だったのか?」
「ちがうよ!わざと言ってるんじゃないよね?」
実亜里は喋りながら、ファスナーを開いた。そこから別の体が出てきた。
茶色で肩にかかるぐらいの髪を2つに結び、やや丸い愛嬌のある顔、鳶色の大きな瞳が明るい性格を思わせる。それよりも胸のボリュームが脱皮前をほぼキープしているのが不思議である。加えて背中に何かが生えている。
「これがホンモノの実亜里。」
『ボクの理想の妹だ!もはや兄と妹という民法の壁など、ぶっ壊す。ボクと結婚式を挙げよう、今すぐにだ!』
「実亜里。ボクのフレーズを極端に歪めて遊ぶのはやめようよ。」
「ごめんね、お兄ちゃん。お兄ちゃんの前で、一糸纏わぬ姿を晒すのは恥ずかしくて。」
「ちゃんと服着てるし。その羽と羽衣はなんだよ。」
「ははは。ちょっと解放感に浸ってしまって。」
「まさかとは思うけど、実亜里も天使だったのか?」