【第一章】第九部分
翌日の学校。一時間目の授業がすでに終わっており、今は体育の時間である。
今日も金色リコーダーをぶら下げている和人。体操服にリコーダーとは実に似合わない。
これは体育授業が始まる前のこと。職員室に向かった和人。
(アタシの言う通りにすればいいんだからね。)
「大丈夫かなあ?」
角刈りでガッチリ体型の体育教師の机に向かった和人。
体育教師は、不審そうに眉間にシワを寄せている。
「木賀世。授業前だぞ。先生は忙しいんだが、何の用だ。」
「ボ、ボク、これを付けてないと突発性無呼吸症候群になってしまうんです。」
和人は『リコーダーを付けて全授業を受けさせてください。』という嘆願書を見せた。
「はあ?なんだそりゃ。先生をバカにしてるのか。さっさとグラウンドに行け。」
和人は教師の机に印鑑があるのを見つけた。
「先生、ここに認印をお願いします。」
「何、バカなことを。」
(今よ。笛を吹いて!)
『ぴーひょろろ。』
『あはん。どどーん!』
咲良が飛び出して、呪文を唱えた。咲良が3秒時間を止めた。和人は動けることから、その瞬間に印鑑を取って押印した。咲良はすぐに黄金リコーダーに戻った。
「先生、ありがとうございました。」
押印済みの嘆願書を体育教師にちらりと見せた和人。
「あれ?俺はいつの間に、はんこを押したんだろうか?」
狐につままれた表情の体育教師は学年主任であり、他の授業でも苗字帯刀ならぬ、黄金リコーダー帯刀を許された和人であった。
体育教師の体調が不良なため、授業は自由運動ということになったのである。
「今日、名詩魅は休みだね。昨日のことがあったからかなあ。」
(そうね。きっとアタシの魔法に恐れをなして、近づけなくなったのよ。)
「そうだね?きっとそうだね?」
(その連続疑問文に、そこはかとない悪意を感じるのは気のせいよね?)
「ははは。」
苦笑いするしかない和人。
(ヤマナシケン、どこか変わった?)
「別に。今日は天気がいいせいか、運動がしたくなったような。」
(どうせヤマナシケンは運動神経ゼロなんだから、逆上がりの練習してケガするのがオチだわ。)
「よおし!今日は逆上がりができるような気がするぞ!」
鉄棒を逆手に握った和人。思いっきり足を蹴り上げた。すると、横棒のところで、くるりと回転。・・・太陽に足の裏を見せたまでは進歩であるが、そこで足をジタバタさせて、あとは重力の赴くままに、元の地面に足を打ちつけた和人。
「痛ったあ!今日はできると思ったのに!・・うっ!」
和人は悔しがった瞬間に、とある視線に気づいた。
「ウフフ。」
声が聞こえたわけではない。しかし、そのように感じられた、そこには黒髪の委員長が立っていた。