15分チャレンジ①
深く、真っ黒な世界に僕は居る、そこは何度も来たことのある場所で
辺りには何もなく右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても
何もない。
何もなさ過ぎてすることがない、ふと前後左右以外の方向はと視線を這わす、
上だ、上には光が見える、僕はその光の方向へと泳ぐように進んで行く。
ゆっくりとその光は近づいてくる。
最後まで進み終わると僕の意識は覚醒を遂げる。
ここはベットの上、横には人の気配がする、となりにいるのは僕の妻。
彼女と結婚してから、2年になる……。
一度眠ると深い睡眠に入るのか先ほどの海の底にいる情景を得て
意識が覚醒する、眠りが深いせいか、僕は寝る前の体制からほとんど変わりがない。
これは僕の睡眠時の特徴。
そして何気ない日常が今日も始まった。
横に寝ている彼女に目を向けると、彼女の口からは透明な液体、涎が出ていて
僕は手を伸ばしギリギリの位置にあるティッシュを一枚取り、彼女の口元を拭いてあげる。
「ふにゃ……、えへへ。もう食べられないよぉ」
そんな寝言を言っている彼女。
そして彼女の口を拭いてあげる僕。
ちなみに今の僕は身動きをすることができない。なぜか、と言われると彼女の四肢にガッチリとホールドされているからだ。
彼女の寝相は位置、だけに留まらず、近くにあるものに抱き着いてしまう癖がある。
僕はその彼女の寝相の対象、となったわけだ。
かといって無理やりに出ようとすると起きた時に彼女の機嫌が悪くなってしまう。
僕はとりあえず彼女をゆすり声をかける。
「奈々、朝だよ、起きないと僕が朝食を作れないじゃん」
「ふぇ……?」
一瞬目をピクリと動かした。
だがしかし、目覚めには至らないようだ。
ここからが長い。
僕はなるべく穏便に済むように、再度声をかける。
「奈々、もう8時半だよ。起きないと」
「む……」
お、今度はおきそ……。
うと思った僕だったが考えが浅はかだった。
このくらいで起きる彼女であれば一度目にゆすって声をかけたので起きているだろう。
ダメだな、と思った僕は次の手に移る。
自分の口で彼女の口を塞いでやる、いわゆるおはようのちゅーだ。
「んぷっ!!!」
と息を噴き出した彼女。
だが一瞬目を開けた後、
「もう……」
と言って再び目を閉じて夢の世界へと還って行った。
手足のホールドだけでも解いてくれればいいのに彼女は僕を離そうとしない。
なぜ離さないかというと彼女曰く、一人で寝るのは寂しいから、起きた時に君が目の前に居てくれるのがうれしいの。
だそうだ、それならばもう少し早く起きてはどうだろうか
だが彼女は低血圧のせいで、朝がすごく苦手だ。
僕は仕方ないなと思い、ガッチリとホールドされている手足を無理やりに引きはがし。
彼女をお姫様だっこでリビングへと連れだす。
そしてソファに寝かせ、顔をキッチンの方向へと向け
僕は朝食の作成に移るのであった。