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0 わたしは、魔女じゃない

『違うって! 濡れ衣だよ! わたしは――魔女じゃない……!! わたしは――』


 いくら叫んでもだれも助けてくれなかった。

 ゴウという音とともに熱風が足元から吹き上げる。チリチリと髪が燃えて嫌な匂いが漂いだし、わたしはまたか、と諦めの境地だった。

 わたしはこの逃れられない結末を知っている。これがわたしの運命なのだと、体中に刻み込まれた記憶が訴える。

 そして。それを裏付けるように、以前命が燃え尽きる寸前に聞いた声が、どこからか響いてきた。

 懐かしく、温かく、甘い声。それは永遠の眠りを誘う子守唄にも思えた。


『――――』


 名前を呼ばれた気がして静かに目を開くと、炎の向こう側で苦しげに顔を歪めている男がいる。

 闇に染められたような黒い髪と瞳が印象的な男。

 その端正な顔立ちは、見知ったものだった。

 彼は異端審問官。わたしをこの処刑台に追い込んだ張本人が、しかし、目の前で泣きそうな顔をしていた。


『助けて。違うの。わたしは魔女じゃない』


 あまりにも切なそうな顔に望みをかけ、わたしは乞う。だが彼は寂しそうに首を横に振るだけだった。


『おまえは、どうして生きようと足掻かない? どうすれば、おれの言葉が届くんだろうな?』

『足掻いてる。足掻いてるじゃない!』


 腕を動かすと鎖がジャラリと重い音を立てた。封じられた手足は既に傷つき、血が滲んでいる。


『本当に?』


 まっすぐに見つめられ、問われる。心に切り込んでくるような清廉な眼差しに記憶の蓋が開く。飛び出したものに、わたしは目を見開いた。

 そうだ。わたしは、以前、この男に会っているような気がした。どこかの処刑台で。

 いや前回だけではない。死ぬ間際に、この顔を見たのがはじめてだとは思えない。

 彼は、前にもわたしを見つけ告発し死に追い込んだ。そして最期の時を、悔しそうに見守っていたのだ。


『おれはまた・・、おまえを救えなかった』


 つ、と彼の目から涙が溢れる。愛しい者の死に際にいるかのような声だった。意味がわからなかった。告発し、ここに追いやった張本人はこの男だというのに。


『何を言ってるの? ねえ……あなたは、だれ? どうして、《いつも》わたしを見つけるの?』


 男は力なく首を横に振る。

 次の瞬間、膨らんだ炎が身を包み――わたしはその世での生を失った。



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