一杯110円
私は空虚な妄想に浸るのが好きだ
例えば小うるさい街の中の小さなカフェには少し時代遅れなジャズが流れていて、カウンターの奥に見える棚には小綺麗なカップが並べられている。
男が「すいません!」と声をあげる。マスターは食器を拭いたまま相変わらず。男はムッとしてもう一度声をあげようとしたところ、私のとなりに座っていたお婆さんが「呼び鈴をお使いなさい」と言った。
呼び鈴が鳴ると、マスターはコーヒーを淹れる。メニューをどこにも置いてないわけだ。2つのカップがカップルの前におかれる。男にはエスプレッソ、もう片方にはカプチーノだった。
「すごく美味しそう」
一人が声をもらす。ただ、男の方はこの光景に戦いたようで、恐る恐る尋ねた。
「あの、これって、いくらですか?」
「お客様にお任せしております」
マスターは一礼して戻っていく。二人は顔を見合せ、続いてそれぞれのカップのなかに目をやる。
始めに男が一口。彼の表情が変わった。その後二人は会話を交わすことなく飲み干して、「ごちそうさま」と言って店を出た。
テーブルの上にはお勘定が置かれている。
行儀が悪いけど、気になったので覗いてみた。そこには二百二十円置かれていた。
「マスター。二百二十円だよ。二杯で」
私が言うと、マスターは大笑いした。
「最近のコンビニのコーヒーも捨てたもんじゃないのでね」と。




