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連載第1号

マイルCS。

Dメジャーが馬なりで4コーナーを抜け出し、直線、後続を振り切って貫禄の勝利。

アンカツ(安藤勝巳)は、まさに人馬一体に馬を操り、もはや神の域にあると言っても過言ではない。


航介の本命アグネスアークは激しい三着争い。

ゴールまで、あと20mというところで腕っこきの藤田が腰を上げ、戦闘終了しちまって四着。

狸小路WINSで馬券を買って観戦していた航介はプッツン。

勝負に徹する姿勢を貫いてきた藤田の裏切りが許せない。

その日の夜、そのレースの三連単を取った劇団主宰の会社員ナバちゃんが、Aアークの脚元に異常を感じた藤田が追うのを止めたのを知るまでは、ヤサグレマスターだったらしい。

ナバちゃんが早く来てくれて良かった。

新規の客に当たり散らしでもしたら…。




火曜日、BARをオープンしてから始めての休日。

正午に起きて藤子と喫茶店でブランチ。

夜は、弟分の大沢がいる狸小路の西の外れの、おでん屋「波止場」

薄いニッカの水割りをチビつきながら、アテをつまんでいる。

「なんだよマスター、素っ気ないモンばっかじゃん。モツ煮を食わんから酒が進まないんだよ。金はいいからつまみなよ」

大沢が威勢よくモツ煮を二人の前に置いた。

足を組んで、両肘をカウンターにつき、首を下げてうなだれ、今にも突っ伏して意識を失いかねない様を見て、大沢が藤子をみやる。

「ねぇ…大丈夫?帰ろうか?」

「大丈夫だよ。ちょっと考え事。オーディオを新調するかどうか…」

「あれっ?新しくしたんじゃないの?開業資金で買うって言ってたしょや」

「いやぁ…ついつい内装や備品に高級感を求めてしまって」


航介が「開業資金倍増計画」と称し、天皇賞(秋)とJBCクラシックでデカい勝負をしてスベッたのを知るのは、バーテンダー仲間のヒロ坊とチビ烈こと凛果だけ。

金額はとても公言できないんだとか。

開業の際の使途不明金がバレないよう話題をかえてやがる。


すっかりと冬景色の札幌。

身が縮みあがるほど寒いのだが、藤子は二人で歩くのが久しぶりだから、狸小路を歩きたいという。

ヒロ坊から借りっぱなしの白地のハーフコートの襟を立て、毛糸の帽子を深々と被る航介。

「寒くねぇのか?」

「平気よ。若いから」

「バカにしてるべ」

「いいや。大切に思うよ。航介は?」

「かわいいよ。若いから」

「バカにしてるべ」

「んにゃ、大切に思う」「なら、良しっ」




祝日の金曜日、3日間開催の初日を惨敗してやってきた水道屋の晴彦が一番客。

のっけから競馬新聞を広げてやがる。

「俺は?サンライズバッカス。ハイペースで先行勢が垂れるのを神様、安藤勝巳が捌いてブッチ斬りってことよ」

BGMにビル・エヴァンスをチョイスし、音に合わせながらダンディーマスターになりきったばかりなのに、馬券の話なんだもの…。

根っからの馬キチ航介、当然に呼応する。

「いや、下手すりゃ?ヴァーミリアンが逃げるほどのスローペースになるぜ。俺は先行勢の馬券になると思うから、本命は3歳の地方最強馬、内田博幸の?フリオーソだ」

「ペースしだいってことか…外国馬が乱ペースを引き起こすんじゃないか?」

「去年までのジャパンカップは招待制で、招かれた外国馬が勝負を度外視して走っていたが、今年からは本格的な国際レースに位置付けられて、自費で渡航してレースに臨むんだ。それなりの勝算を持っていると考えるべきで、ちゃんとペースを見極めて勝負してくるさ」

「三歳馬の?ドラゴンファイヤーってのも勢いがある」

「心配ない、田中勝春が、ちゃんと脚を余してくれる。内田が完璧に手の内に入れている?フリオーソは、休み明けで古馬相手のG?で二着。並の三歳馬じゃない。たぶんカネヒキリ級の逸材だぜ」

「単複か?」

「あぁ、もちろん。馬連も買ってみる」



●ジャパンカップダート(G?)

東京競馬場D2100m


◎?フリオーソ(内田博幸)


単勝?2万円

複勝?5万円

馬連

?⇔??各2千円

?⇔?1千円



まだ20時前、週末や祝日は総じて客足が遅くなる。

晴彦が競馬新聞のページをめくった。

「芝のジャパンカップは、どうだ?」

「聞かなくともわかるだろう」

「Aムーンか?」

「あぁ…ドバイでも勝った日本最強馬を絶対視している。世界最強かもしれん」

「能力のピークを越えたって批評があったな」

「フハハ。まぁレースが終わればわかる。前走の天皇賞だって不利さえなければ勝ってたさ。あんたはウォッカ?」

「このレースはダービーでの実績がモノをいう。Mサムソンかウォッカか…悩んでいる。それこそハイペースだろうからウォッカの末脚が爆発しそうにも思うが、Mサムソンの勝負強さの方が上だと思う」

「気持ちはわかるがAムーンの能力が図抜けているのは、どうしようもない事実なんだよ。マイルCSの結果で答えは明白だ」

晴彦が訝しげな視線を向けると航介が続けた。

「マイルCSで、天皇賞の二、三着馬は、着外だったDメジャーに捻り潰された。ということは、不利がなければDメジャーは天皇賞で二着以上だったはずだ。Mサムソンは全く不利を受けずに抜け出して勝ったが、あの着差なら、Dメジャーとイイ勝負だったってこと。Mサムソンの競走能力は、現時点ではDメジャー級ってところ」

「ドバイか…」

「そう。そのとおり。Aムーンがドバイの国際G?を勝ったレースで、国内最強の中距離馬と称えられていたDメジャーは三着どまりだった」

「なるほどな。距離適性を度外視したら、お前の論法は説得力あるよ。ウォッカはどうだ?」

「俺はウォッカの方が怖い。調教も抜群に動いたし、3歳牝馬世代はシャレにならんくらい強い。それとダービー実績を考えるなら、Dインパクトの二着だったインティライミも怖い1頭、やっと本格化して勢いが凄いから」

エラく自信ありげに語る航介、午前二時にやってきたヒロ坊にも同じ話をしている。

「大将の本命は、どっちもダーレーJFが馬主ですね」

「へぇ〜気付かなかった。代表は高橋ったっけ。産業ではなく文化としての競馬界を創りたいって点では共感できる」


鉄火場の勝負師気取りが、文化って…




●ジャパンカップ(G?)

東京競馬場 芝2400m


◎?アドマイヤムーン(岩田康誠)

単勝3万円

複勝7万円

馬連

?⇔?1千円

?⇔??各2千円




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