第3話
あーたらしいあーさがきたー。
目覚まし代わりの携帯の音で高校生活二日目の朝を起きた。ここで、少し俺の事を話しておくとしよう。家は一人暮らしで、東ヶ丘学園から徒歩30分の所のアパートに住んでいる。結構、最近に出来たらしく部屋数は少ないものの、外見、内装など色々きれいで中々暮らしやすい。家族構成は父と母と双子の妹が居る。父と母は共働きで、双子の妹は中学三年で二人とも寮生活をしている。さて、そろそろ準備をしよう。
「よっこいせっと」
布団をたたみ、洗顔、朝食、歯磨き、着替え、いつもと同じ事を繰り返し家を出る。さーて、行きますか。・・・どうしよう、もう帰りたい。
※※※※※※
まだ誰もいない教室にやって来た蓮。前日、席替えで決めた良いのか悪いのか分からない席に着く。カバンから文庫本を出し、栞で挟んでいたページを開ける。
「・・・・・・・・・」
もし、蓮を知っている者が居れば蓮の数少ない誇れる所があるとすればこういう所だと言うだろう。それは、他者を圧倒するほどの集中力。この集中力のおかけでゲームなど食事や睡眠などせずにぶっ通しでやり続けたことがある。
「・・・トイレに行くか」
パタッ栞を挟んで本を閉じ、顔を上げる。
「・・・へぇっ?」
そんな情けない声が漏れた。上げた蓮の顔の数㎝の所に上北の顔があったのだ。
「・・・あなたは不思議ね」
飛ぶようにして上北との距離を取る蓮。そんな行動を気にせず上北はさらに蓮に近づく。まるで蓮の心の中を見るように蓮の瞳を見る。蓮は後ろに後退りながら先程の言動の意味を質問する。
「・・・か、上北さん、な、何やってんですか!?」
美人の顔が近くにあったせいか、噛みまくりの発言になってしまった蓮。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ恥ずかしい。つか、この人、何やってんの?何言ってるの?
「・・・あなたはどうして、そんな目をするの?」
「・・・ッ!」
全身が固まる。本当にこいつは何を言っている?目だと?俺の目がお前に何を分からせた?次から次へと出てくる疑問に頭がパニックになる。
「あなたと私は似ている。何かを、意味を探している。・・・貴方は私の意味が分かる?」
美しい声が蓮の心に突き刺さる。似ている?探している?分かる?、ふざけんな!勝手に人の心をかきみだしといて質問だと。マジでふざけんなよ。
「・・・ふぅー」
深呼吸して心を落ち着かす。混乱していた頭を整理し、暑くなっていた思考を急激に冷やす。
「そんなこと知りませんよ」
「!」
完全に拒絶の声で発する。そのまま、上北の横を通り抜けて教室を出る。・・・さて、トイレに行こう。
「・・・はぁー、疲れた」
ドスッ、と布団に倒れる。結局、ほとんど授業が入ってこなかった。隣の如月さんも心配してなのか、チラチラと見ていたみたいだ。俺なんか心配しても無駄なのにな、ご苦労様のことだよ。
「・・・上北さんってなんなのかな?」
あのときの言葉、光景が思い出される。「あたしの意味を教えて」彼女は確かこう言った。どうして、彼女がそんなことを言ったのか?どうして、俺なんかに質問したのか?そんな疑問が今も流れている。・・・ただ一つ、俺に言えることがあるとしたら・・・
「・・・・・・俺が知りてぇよ。」
誰もいない部屋で媚びるように呟いた。
※※※※※※
高校生活が始まって1ヶ月と少し経って、5月はもう終わろうとしていた。あれから上北さんとはあまり話していない。って言うか、他の人とも話していない。だって、中高一貫の学校じゃん。友達関係すでに出来上がって、入る余地ないんですけど。まぁ、そんなわけで5月のゴールデンウィークも特に変わったことはなかった・・・孤独だなぁ・・・。
「昨日、テレビ見たよ!」
「歌、やっぱりきれいだね!」
「衣装、可愛かったよ!」
俺とは対照的に友達と言うかファンと言うか分からないが、上北さんには一緒に話す程度の人物が出来ていた。せこいなぁー、芸能人。卑屈な思いを心に芽生えさせながら、今日も一人で黙々と昼食を食べる。
「ねぇ、このアイドル知ってる?」
「・・・えっ?」
最初、俺に質問してきたのか分からなかったため、若干反応が遅れる。それが気に食わなかったのか、少し頬を膨らませながら雑誌にのってい表紙の部分を、こちらに見せながら如月さんはもう一度言う。
「だから、この双子のアイドル知ってる?」
表紙に写っていたのは如月さんの言う通り双子のアイドル。片方は黒の髪を一本に束ね下ろしている。もう片方は黒の髪を二本に束ね下ろしている。にしても、下ろすの好きだなぁ。大根おろし、絶対好きだわ。(偏見です)
「あぁ、知ってるよ。だってこの二人・・・」
『えー1-3の藤原君、職員室まで来て下さい。』
放送が蓮の言葉に被る。あの、くそ教師。きちんと如月さんに「ごめん」と謝り、またもや悪態をつきながらも職員室に向かう俺って超紳士。
「失礼しまーーす」
「あー、こっちこっち」
昼休みに呼んだせいか、担任の手にはお箸が握られていた。
「・・・手作りなんですか?」
二段のお弁当箱に盛り付けられているごはんとおかず。中々の出来映えですごく美味しそうで、何だか僕ちゃんテンションが上がってきます。
「まぁな、俺の手作りだ」
『俺の』、と言う部分を強調させ、ドヤ顔な担任。うわぁー超ウザイ。聞くんじゃなかった、と言う後悔が心でいっぱいになりつつ、本題へと入る。
「で、何ですか?」
「いや何、最近学校楽しいかなぁ、と思って?」
「・・・まぁまぁですよ」
一瞬、上北さんの事がフラッシュバックしたが、気にする事はないと思い頭から排除する。
「・・・ふーん、そっか」
「・・・何すか?その意味ありげなふーんは?」
「何でもないよ」、と答える担任の顔は明らかに何か知っている顔だった。そんな担任に苛立ちをおぼえる俺は戻っていいか、と提案する・・・より前に担任が口を開いた。
「上北とはうまくやっているか?」
「!」
・・・こいつ、聞いてたのか?動揺するな、俺。中学の時いつでも声をかけられていいように噛まずに言うの練習してただろ。俺ならいける!
「べ、べつに、あんたな、なんかに関係ないでしょ!」
・・・噛みまくりじゃねーか!つか、何処のツンデレだよ。やばいよ、恥ずかしすぎて顔見れねぇよ。チラッと前髪越しに担任を見る。・・・おいおい、超笑い堪えてるよ。
「ま、まぁあ、だ、大体は分かったから・・・フフッ」
「それなら、良かったです。」
結局、担任が落ち着く待つことにした。
「よし、話に戻るか」
「誰のせいだよ・・・」
呆れている俺の事は目に写って無いかのように話を進める担任。
「で、どうなんだ上北とは?」
「どう、とは?」
「お前から見て上北はどんなやつだ?」
ここで、上北の名前を出して来る辺り、高校生の上北のことを指しているのだろう。これまでの上北のことを思い出す。どうして、普通科のこっちに入学してきたのか?どうしてあのとき、あいつはあんなことを言ったのか?それらを踏まえて答えを出す。
「俺から見て、あいつは・・・」