第2話
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
1-3の教室内が歓喜と驚きの声につつまれた。先生はそれを予想していたかのように、両耳を手で塞ぎながら事態の終息を見守っている。・・・マジかよ。
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ここ、東ヶ丘学園は四つの科に所属する事ができる。『普通科』『スポーツ科』『芸術科』『芸能科』。中学二年の時にどこに行くかを決めるらしく、早い者であれば(『普通科』を除く)中学三年からその道に進めるの事。まぁ、この四つの中で目がいくと言えば『芸能科』だろう。ここに入るものはモデル、俳優、女優、アイドル、歌手など、そう言った者達がここに入る。『芸能科』にはいくつものテストがあり、もちろん顔が良くては入れない。その代わり、なにかと他の科の者達より優遇扱いされる。それらを踏まえて聞いてほしい。俺の思いを!
(どうして、こいつは芸能科に入らなかったんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!)
教室にクラスの生徒から他クラスの生徒まで上北を中心に群がっている。教室の外にも上北をいやRenaを見ようとして、扉から廊下側の窓に顔を出している。これじゃあ、俺が帰れねぇだろうが。どうして、みんな帰らないの。もう入学式、終わったよ。
「・・・・・はぁー」
重い重いため息を一つ。人酔いの俺には結構キツイ。だが、家大好きっ子の俺ならこれぐらいの試練乗り越えて見せるぜ。心の中で決心した俺は扉に一歩を踏む。待ってろ、我が楽園。
『1-3の上北さん、藤原君、職員室まで来なさい。』
担任の声が放送で流れた。許すまじ、あの担任。俺が帰ろうと思った矢先これだ。そんな悪態をつきながらも、今職員室に向かっている俺って超紳士。
「失礼しまーーす」
ガラガラと開けた職員室にやっと来たか、と言う顔をした男性が一人。
「こっちだ、こっち」
手招きしながらこちらを呼ぶ声にしたがい、担任に近づく蓮。はぁー、遅刻のことかな?
「で、何のようですか?」
ぶっきらぼうに聞いた蓮に担任は片手を出し、「待て、待て」と意思表示する。
「まだ、上北が来てないだろ」
「まぁ、そうですけど・・・」
俺と上北さんが関係あることなのか。つーか、あんな感じでこっちこれんの?想像しただけで吐き気がしてくる人の多さに心配していたが蓮のそれは杞憂に終わる。
「失礼します」
凛とした声が職員室に響く。綺麗な声だと素直に思う。担任は俺と同じように上北を手招きしてこちらに呼ぶ。
「すいません、遅れてしまい・・・」
「大丈夫、大丈夫、こいつも今来たところだから」
申し訳そうに謝る上北に担任は頭を上げてと腕を上下させながら安心させる。ってか、こいつ呼ばわりは失礼じゃないですか?
「じゃ、本題と行こうか」
話を変えるように手を叩く担任。
「君たち二人で学校回り行ってきて?」
「・・・・・・はぁ?」
こいつ何言ってるの?バカなの、アホなの?何で今日初対面の奴と学校回りしなくちゃいけないだよ。しかも、芸能人!緊張して吐きますよ僕。
「いや、ちょっと待ってください。そう言うのって教師の仕事ですよね。つか、何で俺達二人で何ですか?」
「いや、だって君たちだけなんだよ。他の中学校から入ってきたの。しかも本当は自己紹介の前に学校の事いろいろと話してたんだよね。でもさ、君たちときたら二人とも遅刻してきたよね。僕は遅刻してきた人に同じ事を二回も話す時間はないんだよね。」
至極まっとうな意見が返ってきた。くそっ、朝の自分を恨みたい。だが、まだだ、最低二人だけでも取り消して・・・
「言っとくけど、一人で行くって言っても信用できないぞ。」
・・・ですよねー。
そんな、感じで芸能人と二人で学校回りをすることになったのだが、予想通り終始無言で終わった。
高校、入学式終わり。
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高校に入って一日目とはなんともめんどくさい。
配られる教科書に名前を書き、何枚も来るプリントを初対面の人に回さなくてはいけない。そして、何より嫌なのが席替えと言う悪魔の行事。スクールカーストトップの人(vip)が俺みたいな最底辺の奴と隣になれば、陰でこそこそ言うのは確実。それを聞いたときの俺はきっと泣く!
「それじゃあ、席替えするから番号順に紙引いていけ。」
担任は教卓に箱を置きながら言う。
首の運動がてらに周りを見渡す。おいおい、やけに男子気合い入ってんなぁ。十中八九、上北の隣がいいのだろう。俺なら嫉妬目線でメンタルが死んでしまうから絶対に嫌なのだが、こればかりは運だ。俺の右手に秘められし力を今解放するぜっ!
「おいっ、藤原お前の番だぞ」
「あっ、はい」
今の見られてないよね。見られてたら、恥ずかしくてもう学校来れねぇよ。要らぬ心配をしながら箱に手をいれる蓮。これに、決めたっ!言葉とは裏腹に静かに引いた席の場所は・・・
「窓側の・・・一番後ろ」
よしっ!・・・いやまだだ、隣の席は・・・如月。誰だ?男、女どっちなんだ。まぁ、いい上北じゃなく良かった。俺の運に感謝感激。
「よーし、全員終わったなぁ。んじゃ、適当に移動しろぉ」
担任の合図でそれぞれが机と椅子を持ち移動していく。さて、俺も行くとしますか。
「よろしくね」
「あっ、どうも」
席の移動が終わった俺は体の震えが止まらない。
なぜ、と聞かれれば隣の如月が女ですんごい可愛かったこと。二つ目に前の席が上北だったってこと。それにより、男子からの殺気が半端ない。・・・どうして、上北の隣は震えていなかって?それは、このクラスで一番のカースト上位に君臨するプリンスだから。スポーツ万能!頭脳明晰!・・・まぁ、そんなわけで人気なわけですよ。
「・・・はぁー」
「どうかした?」
隣を見ると首を傾げてこちらを見る如月がいる。黒髪をボブカットに薄く化粧をしている。高校生が化粧だなんてどうかと思うのだが、気にする年頃なんだろう。
「いや、別に・・・」
目を合わせないようにして、関わらないでくれと、遠回しに伝える。
「そっか、何かあったら相談してね」
ニコッと照れながら笑う。
・・・おふっ、天使が居る。くっそ可愛いな、まったく。そんなわけで良いこと悪いことがあった高校一日目でした。・・・無理矢理過ぎたかな?
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