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旧マドンナ  作者: ろく
5/5

ギャップ

悪女と一括りに言っても色んな悪女がいる。

例えば、浮気や不倫、二股をかける悪女。このような女も悪女と呼ばれるが、彼女達は大抵、快楽主義というか、自分勝手である。

しかし、自己防衛の為に悪女になる女だっている。言い訳にすぎないだろうが、自分のプライドを守る為に人の邪魔というか、人を傷つけるのだ。

マリコの部屋へ電話をする悪女も、きっとどこか自分を守りたくて男と遊んでいる芝居を続けるのだろう。そして、月夜でなくても素直すぎる。自分に素直になりすぎるから、悪女になってしまう。

1人でいる時は寂しい女で、人前に立つと悪女になる。強がりで、プライドが高いのだ。

それは男も女も関係のないことだ。見かけは悪者でも、実は繊細であるし、それをひた隠し生きている。

「あいつ、感じ悪いよな。」っていう人こそ、周りの人より自分に正直なものだ。一般的に良しとはされていないが。


職場で悪女を演じるということは、居場所を失うということにもなる。

しかし、人知れず悪女になり、そしてミッションが成功すれば今のポジションをキープできる。人知れず悪女になって、失敗してもほとんど居場所を失わずに済む。

彩美は人知れず悪女になって、チクチクと中村と古田の仲を引き裂いてやろうと考えていた。

やはり、中村 麻友のような女に狙った男を取られるのが気に食わないのだ。気に食わないというより、いい男を仕留められなかった時に、物凄く恥ずかしい思いをすると思ったからだ。「あの彩美ちゃんでなくて、素朴な麻友ちゃんを選んだのね」誰かきっとそう言うし、言わなくても誰かしら心に思うだろう。

そうなると、彩美の価値は下がるだろう。

実際そんな価値が下がる訳でもないのだろうが、彩美的にはプライドが許せないのだ。


とりあえず、古田が中村 麻友に興味を持たせないようにする為に彩美に興味を持たせることが重要だ。

そこで彩美が考えたのはさり気ない差し入れ作戦だ。何故なら、シフトの中で人員が足りなくて古田が通しのシフトになっている日が1日ある。通しとは百貨店の開店から閉店までの勤務のことであるが、なかなか疲れるものである。


差し入れには何が良いだろうか。彩美の好きなエルメは高価すぎる。紙袋もしっかり厚い紙で、いかにも高そうだ。それは駄目だ。重すぎる。ちょっと粗悪な紙袋くらいが丁度いい。手頃な高価さがいい。

そう、それと彩美らしさを忘れてはいけない。お菓子にもデザインが色々あるのだが、彩美らしいデザインのものを選ぶのがいい。

「どうした、彩美ちゃん。ボーッとして。」

ずっとぼけっといたのか、上司の室井さんが彩美の肩を叩いた。室井さんは30歳で、独身で、映画が大好きで(本人は専門家になりたいらしい)、考え方は専ら一般男性だ。

彩美はふと思った。彼に聞けば良い。そうだ、どんな物とどんな言葉で渡せば良いのかを。

「室井さん、相談してもいいですか。」

室井さんは休憩中に聞いてやるよ、と言ってくれたので、休憩をカフェに出ることにした。

カフェで室井さんはコーヒーを啜りながら、ニヤニヤしながら身を乗り出して聞いた。

「なに?彩美ちゃん、失恋?」

「そういうのじゃないんですけど、」

ああ、なんか相談する相手失敗したぁ、と思いながら続けた。

「差し入れをあげたくて、男性に。そんな大した意味はないんですけど、あげたくて。」

「なるほどねぇ。それで悩んでるんだ。」

室井さんは更にニヤニヤを増した顔になった。これは悟られた。知られてしまった。まずい、まずいぞこれは。

「そんな、何もないですよ。いつもお世話になってる先輩で。」

「羨ましいよ、彩美ちゃんから差し入れなんて。飛び上がっちゃうよ。何でも嬉しいけどさ、彩美ちゃんいいヤツ買おうとしてるでしょ。」

図星だ。

「そんな高いの要らないよ。気持ちだよ。あと、笑顔で渡してくれたら最高だね!」

なるほど、笑顔か。まるで少女漫画だな。確かに笑顔でプレゼントを渡すと好感度が高いかも。

「あとさ、俺がされてみたいのは、秘密だよって、シーってされて貰いたい。」

そう言うと、室井さんは口の前で人差し指を立てて、そう言った。

「えっ、どうして?」

「なんかさあ、ドキッとするよね。俺とその子の秘密ってのが。あと、なんかこの歳でシーってやられるともう可愛くてさあ。」

これだ。これが良い。いいこと聞いたぞ!

さり気ないお菓子と、シーっね。これは良いギャップではないか。こんな彩美にはこれくらい少女じみたほうがいいのだ。


そうやって、彩美の差し入れ計画は着々と進んでいった。


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