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旧マドンナ  作者: ろく
1/5

マドンナ

学生時代、クラスのマドンナというものは、美人で、清潔感があり、頭が良く、運動がそこそこ良く、お洒落で誰とでも仲良くなれる子で、大概の男子は憧れを抱いていた。

これを「旧マドンナ」とする。

時代は変わった、というより成長し、大人になるとマドンナの定義が変わるからだ。


大人のになるにつれて、美人で、控え目で、家庭的で、優しく、隙があり、何処か抜けている女性がマドンナとされ、もてはやされる。これが「現マドンナ」。

学生時代には、当時のマドンナの影にいた子達が、大人になるとマドンナになる。

当然、「旧マドンナ」がモテないという訳ではない。大人の社会でも彼女達は男性にもてはやされるが、「現マドンナ」が現れると、彼女達を差し置いて、すたこらさっさと「現マドンナ」の元へ駆け寄るのだ。


彩美は女性にしては背が高く、ハキハキと話し、頭がキレ、身につけるもの全てこだわり、多趣味で、本当に色んな人と会話が出来る。勿論、小学生の頃からクラスのマドンナとして務めたし、沢山の男子の憧れだった。

そんな「旧マドンナ」の彩美は百貨店で働いていた。

職場の男性は中年男性か、趣味に力を入れ過ぎな独身男性、不細工でパッとしない女性や、化粧が濃く男子の悪口ばかり言う女性がいる。その中でも彩美は飛び抜けて華やかで、明るく、女性だけでなく男性陣からも可愛がられていた。

新しいハンカチを持っているだけで、女子は可愛いと大騒ぎし、休み時間になると男子は彩美と喫煙室に入りたがる。彩美は周りの反応を見るのが好きだったし、とにかくお姫様扱いをされることに大きな喜びを感じ、この顔に産んでくれた両親に感謝の気持ちでいっぱいだった。

彩美は日々ダイエットや日焼け対策に打ち込み、自分の美貌に磨きをかけていたし、ファッションだって研究に研究を重ね、自分が一番美しく見える洋服を選び、彩美の存在は並々ならぬお金と努力の賜物だった。

だからこそ、彩美は誰よりも自信があり、街を歩く女性すら自分に敵わないと思っていた。

ただ、そんな事を人に言った所で「高飛車だ」とか「自己愛が激しい」とかバッシングを食らうので言いはしない。

あくまでも顕著でいるのが彩美もモットーだから。

そして、そんな顕著で美しい彩美に周りの人間はひれ伏し、頭が上がらないのだ。


そんなある日、彩美の職場に新しい職員がやってきた。

「古田 直輝と言います。年齢は25歳です。」

朝礼で彼はそう言って頭を下げた。

背が高く、スラッとし、制服が本当に良く似合い、眉毛は品良く整えられ、顔が小さく、ハキハキとしていて、彩美はすっかり見惚れてしまった。しかも歳も一つ違いで、彼を配属してくれた人事の人にもう感謝状でもなんでも良いから、喜びの意を伝えたい、と思った。それくらい非魅力的な男子がいないのだ。彼に関しては、街中にいても魅力的すぎる。

朝礼が終わると掃除を始めるのだが、掃除の仕方を教えてやって欲しいと中年の上司が彼を連れて、彩美の所へやってきた。

「宜しくお願いします。」

こういう時は丁寧に、フレンドリーに、そして少し褒めてあげるのが一番良い手だ。いきなり「私、あれもできるんです。これもできるんです。だから頼ってね」なんて事は絶対に言わない。

そこで、彩美は「こうやって置くと、取りやすいですよ」とか「すごく面倒ですけど、こうやっておくと後々便利ですよ」とかほとんどアドバイスを言うような感じで、掃除を一通り教えた。

彼は熱心に聞き、丁寧にやってのけた。大きな、綺麗な目で真っ直ぐ彩美の行動を確認し、時折綺麗な程よく太い眉をひそめて理解しながら掃除の説明を聞く彼に、彩美は目を背けたくなるくらい恥ずかしかったが、彩美の方もやってのけた。


このまま上手くいけば、彼はきっと自分の事を信頼するだろうし、きっと周りの男子と同じように駆け寄ってくるはず。「マドンナ」という立場ながら、時折同じ目線に立って話をすると、もう打ち解けるだろう。それまでに十分魅せつけるのだ。

そう思っていた彩美だった。絶対に上手くいく。

確信しかなかった。

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お仕事小説コン
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