第七話
「えーーーい! そのような汚らしい口から出した供物を私に食べさせよって!」
中性的で整った顔立ちで長髪の若い男が激昂し、剣を抜き放ち、美しい容姿をした女性にその切っ先が向けられていた。
「お許し下さい! 貴方様に喜んでもらおうとしただけなのです! 月詠様!」
女性は泣きはらした目を若い男に向けて地面に膝を着いて許しを請うた。
「聞く耳持たん! 即刻、斬り殺してくれるわ!」
男は手に持っていた剣を女性に目掛けて振り下ろす。
が、その刃が女性に届くことはなかった。
年嵩の男が割って入り、その刃を素手で受け止めた。
「わけぇの、そんな無粋なもん振り回すんじゃねぇよ! この美人のお嬢さんはおめぇさんをただ喜ばそうとしてもてなしただけだ! それなのに殺そうとするのはお門違いってえもんだろう!」
「えぇい! 離せ! 離せ! 逆らうならお前も諸共に斬り殺してくれるわ!」
年嵩の男は嘆息する。
「このわからずやめぇーーーっ!」
年嵩の男は月詠と呼ばれた男を殴り飛ばして気絶させた。
女性に向き直り心配そうに女性の体を見る。
どうやら女性に怪我等は無さそうだ。
「大丈夫だったか? ウケモチさん。 それにしても酷ぇ奴だなあ。 アンタに助力を願おうてぇのにその権能を見て斬り殺そうとするとは!」
「わたくしの事は構いません。 しかし……高天原を統べる天照大神様の使者にこのような仕打ちをしたとわかれば貴方様にどのような罰が下されるか……。 直ぐに此処を離れてお逃げ下さい! グンディール様!」
だが、年嵩の男――グンディールは不敵に笑い、ウケモチの言葉を否定する。
「いや、それじゃあ駄目だ。 それじゃあアンタが危ない。 なあに心配するな! 俺がその高天原にこのツクヨミとやらを連れてって、そのアマテラスオオミカミってえ奴と話をつけてくらあ!」
「グンディール様……」
ウケモチのその瞳はグンディールを映していた。
生まれて初めて恋した男として……。
「……シ…ジ………さ…」
「うう~ん」
「シンジ様!」
「え!」
俺は自分を呼ぶ声に目を覚ます。
どうやら広間の椅子に座っているうちに眠ってしまったようだ。
……そして、何故か俺はウケモチさんを抱きしめていた。
「す、すいません! どうやら寝ぼけたようです! ごめんなさい!」
俺は直ぐにウケモチさんを離す。
ウケモチさんは顔を俯かせていた。
イカン! スケベな奴だと思われて嫌われたく無いぞ!
「ほ、本当に下心があって抱きついたんじゃないんです!」
俺は必死に弁解する。
「……あったほうが嬉しいです……」
「はい?」
「い、いいえ、何でもありません!」
ウケモチさんは何故か顔を朱に染めていた。
「そ、それよりもお時間になりましたから、そろそろ移動して下さい」
「わかりました。 あの……ほんとに済んませんでした」
俺は頭を下げて再び詫びる。
そんな俺を見てウケモチさんは嘆息する。
「はあ……、許しますからお顔を御上げ下さい。 シンジ様」
やった! 許してくれたぞ! あれ? でもなんか……ガッカリしてるぞ? 何でだろう?