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第五十六話

 大変お待たせ致しました。

 エバ少尉が仮眠を取って休んでいる最中、襲撃は突然起きた。 直ぐ様CIC(戦闘指揮所)に連絡を入れる。


「CIC! 何が在ったの! CIC! 応答しなさい!」


 エバ少尉の呼び掛けに応じ、連絡を返す者は居なかった。

 続いてブリッジに連絡を入れたが反応は同じく無い。


「一体どうなっているの!? まさか、日本の!?」


 その思考に至った時、エバ少尉は直ぐに行動を開始した。 これが日本国の皇室直属特殊部隊の仕業なら目的はG――シンジが狙いなのは明らかだ。

 速やかにベッドの脇に置いてあるホルスターからM9を抜き銃口を下に向けてスライドを引く。 そして、部屋の内側からドアの外を警戒し、異常が無いかそっと開ける。 するとドアの隙間から煙が部屋の中へ侵入してくる。


「!?」


 素早くドアを閉め、煙の侵入を防ぐ。


「毒ガス!? ……ではないわね。 後で態々自国に不利になるような事はしないはず。 ならば催眠ガス――って、なんで今時白煙が出るガスを? 無煙のものがあるでしょうに!」


 エバ少尉は知る由もないがこの催眠ガスの中に含まれる薬剤が脳に吸収された場合、吸収されてから二十四時間以内の記憶が愛曖になり忘却効果が発揮される。 これは出来るだけ日本国の皇室が犯人である事を可能な限り誤魔化したいが為の苦肉の策である。


 ただこの薬剤、まだ研究段階の試作品で煙の透明化――無煙にまでは至っていない代物だ。

 しかも、通常のものに比べ、倍以上の白煙が出る。

 だが、刀部の者は特殊な訓練を積んでいる。 この白煙を煙幕代わりに利用して視界が効かない中を行動が可能な上、その状況で敵の意表を突いて無力化してみせる位は訳無い。


「ガス対策のマスクは……この近くには置いてないわね。 ならこのままGの部屋に強行突入するしか無いか……」


 エバ少尉はハンカチを取出し口に押し当てて一気に扉を開け放ち、シンジを監禁している部屋まで突き進んだ。


 そして現在、シンジの部屋に侵入したこの騒ぎの元凶であろう犯人に向かって銃弾を放った直後だ。


『G――シンジから離れなさい! 日本国のスペシャルフォース!』


 普通銃口を向けられれば例えプロの兵士といえど恐怖により精神が萎縮し、身動きが取りづらくなる。

 だが、この中でその常識が通用しない存在が居た。


 ユリはエバ少尉の気配を逸速く察知し、エバを視認した一瞬の間にエバの装備を確認。 エバ少尉の発砲と同時に死角に回り込みながらユリは腰の後ろに差していたナイフ抜き放ち、エバのM9に向けて縦に一閃。 M9はユリのナイフ捌きにより見事切断されてしまった。


『なッ!?』


 常人離れしたユリの技に驚き動揺するエバ少尉。 

 間髪を()れずユリはエバ少尉を拘束。 首の頸動脈にナイフの刃を軽く当てる。


『形勢逆転ね!』


『クッ!』


 悔しそうに(ほぞ)を噛むエバ少尉。 だが――


「いや、形勢は全然変わってねえ」


 俺は苦笑いしてユリに話し掛ける。


「え?」


 素っ頓狂な声を上げ首を傾げるユリ。

 ユリの後頭部に銃口が押し付けられた。


「……ッ!?」


「その通りだよ。 スペシャルフォース」


 男が気配を消して様子を伺っていたのを俺は最初から感知していた。


 よくガスマスク被ってシュコーシュコー呼吸音立ててたのに俺以外気づかせなかったな? その技に感心するぜ。


「……気配を消し出来るだけ浅く短く呼吸してその回数も減らしてをしていたのだがね。 君には気づかれていたようだ。 シンジ君」


「俺にとっちゃあ、それでも十分デカイ音だったからな。 所でおっさん誰だよ?」


「私の名はジム・スミス。 階級は大佐だ」


「で、そのジム大差殿は俺になんの用が在って態々USAにご招待してくれるのかな?」


「君には我等が祖国、USAの父に成ってもらうよ」


「俺はUSAの親父になんか成りたかねえよ! ――と、言っても聞き入れてもらえないんだろうな。 そんじゃあ、まあ、交換条件だ。 師匠達の命の保証と身柄の自由。 ただし、屁理屈こねて師匠達に何かあったら容赦はしねえぜ。 少なくとも俺の力はこの程度じゃあ抑えられねぇからな?」


 俺は床を足で叩いて船底の結界を暗に示唆する。


「……よかろう。 条件を呑もう。 ただし、此方も条件を付けさせてもらうがね、シンジくん。 君は大人しく我々と共にUSAに来てもらう。 招待に応じてくれるなら我々は君を歓迎し、もて成そう」


 どうせUSA式のお・も・て・な・しは碌なもんじゃあ無いんだろうけど、此処まで来て応じない訳にはいかんよな。


「分かったよ。 その条件呑んでやる」


「承知した」


「シンジ様! 駄目じゃ! 小奴等(こやつら)の言う事は信じてなりませぬ!」


「そういう訳にも行かねえよ。 ユリを人質に取られてるし、俺もこいつ等に用がある。 さっきも言ったように行きたい所もあるから師匠達は先に日本に帰っててくれ」


「シ、シンジ様! 私の事はいいから! 自分で何とかするから! だから――」


「諦めろって言うんなら、俺は二度と日本に帰らないからな!」


「!? そ、そんなッ!?」


 俺は不敵な笑みで答える。


「俺は仮にも軍神だ! 自分の事は自分で何とかするから大人しく言う事聞きやがれ! それに師匠やユリ達にも聞きたい事が山程あるから俺はちゃんと日本に帰る!」


「シンジ様……」


 ユリは涙目で俺を見ている。 心成しか顔が赤いようだが今はそんな瑣末な事は気にしちゃいられねえ。


「師匠達がちゃんと開放される所を見届けさせてもらうぜ」


「いいだろう」


 そして俺達は船の外に通じる通路を歩み始めた。


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