第四十四話
オリンポスの神域の狩りの森――此処ではよく神々が狩りを行う場所。
その森の奥でアテナとゴルゴーンハーフが戦ったとスキュレーの知り合いのアテナ付きのニュンペーから情報を得た俺達は其処に向かった。
――ZZZZZZzzz……
「「……」」
その場所には既にいないだろうと思っていた俺の予想に反してゴルゴーンハーフが
巨体を横たえ熟睡していた。
「牛の頭に竜の体、藍色の体表でミスリルの鱗。 コイツで間違いないだろう」
スキュレーがゴルゴーンハーフを見上げる。
「それにしても大きいわね。 三十m位あるんじゃない?」
「しかしコイツ、危機意識の無い馬鹿なのか? 普通、外敵に襲われた所で熟睡なんて普通の獣でもせんぞ……。 ともかく、今がチャンスだ。 スキュレーは危ないから離れてろ」
「貴方は大丈夫なの? 石化の視線と石化ブレスを吐くんでしょう、コイツ」
俺はスキュレーにユルン・メトスを見せて言う。
「俺は大丈夫だ。 この槍がある限り、そういった状態異常にゃあならん。 ……ただ、アテナを返り討ちした能力が気になる。 もし、魔女キルケーの言う通りなら、俺だけの力じゃあ勝つのは難しい。 そんときゃスキュレー、君の力を貸してくれ。」
スキュレーは首を傾げて、俺に尋ねてくる。
「最初から私の何とかって権能で戦わないの? その方が安全で手っ取り早く済むんじゃないの?」
俺は渋面で答える。
「魔女キルケーの言う事が本当かどうか信用出来ない。 もし、何かの目的……企みがあるなら君の力はなるべくなら使いたくない」
「そこまで言うからには相当信用出来ないのね。 魔女キルケーって」
俺は苦虫を噛み潰した様な顔になる。
過去、魔女キルケーの所為でどんだけ痛い目にあったか。
キルケーは見た目に反して残酷な女で、ソフィアが殺されかけたり、ヘスティアなんて男をけしかけられて強姦されそうになったんだ。
それが切っ掛けで二人共、永久の幻想島に来たんだからなs
「まあ、そういう事。 だから一度、ゴルゴーンハーフとは様子見で遣り合いたいんだ」
「わかったわ。 私はあっちの方に行ってますね」
そう言いながら、スキュレーはこの場から離れていく。
スキュレーの姿が見えなくなったのを確認して俺はゴルゴーンハーフの側に近寄る。
「それじゃ、お寝坊さんを叩き起こしますか」
出来る事ならこの一撃で起きる処か永眠して欲しいものだな。
俺はユルン・メトスを構え、ゴルゴーンハーフの脳天に向けて神力を込めた渾身の一撃を放つ。
だが、槍の穂先の切っ先がゴルゴーンハーフに当たると同時に、俺の力が抜けていきコツンと小さい金属音を出した程度で穂先が止まる。
「コイツの能力、寝てても発動するのかよお!」
パチッと目を見開いたゴルゴーンハーフと目が合う。
「あ」
ゾクリと嫌な感じがして槍で防御の構えを瞬時に取る。 次の瞬間、体の側面に凄まじい衝撃と圧力を受けて吹き飛ばされた。
尻尾を鞭のようにしならせての打撃攻撃だった。
何だ! この威力! これじゃあ、アテナが返り討ちにあったのも納得できる!!
森の木々に背中でぶつかりへし折りながら一kmを超えた処で漸く止まる。
俺は直ぐにゴルゴーンハーフの居る元の場所へと戻る。
ゴルゴーンハーフは不敵にも俺を待ち構えていた。
「こんにゃろう! なめやがって! 狩猟の神の名に掛けて絶対狩る!!」
俺は槍を最大全長六mの突撃騎搶に変形させる。
だが、ゴルゴーンハーフはその隙を突いて俺に石化ブレス攻撃を仕掛けてきた。
今の俺は槍があるから石化はしないがブレスが煙幕代わりの目眩ましになってゴルゴーンハーフの気配が断たれた。
しまった! 石化ブレスにはこんな使い方もあるのか!? 俺は直ぐに後退して石化ブレスの煙幕から飛び出そうとした。
が、一歩遅く再び尻尾が俺を捕らえて打ち据える。 俺はその攻撃を防御もまともに出来ず、もろに喰らってしまった。
しかし、今度のは先程とは違い数m飛ばされた程度で済んだ。
ん!? 何だ? 今の攻撃は。 さっきのと違って全然効かないぞ? ……もしかして、コイツの能力って!
俺は自分の推測を実証する為に一つ実験してみる事にした。
突撃騎槍に適度に神力を込めてゴルゴーンハーフに突撃攻撃を仕掛けてみる。
見事、首の付け根に命中。 しかし、最初の攻撃同様に当たった瞬間、力が抜けて大して攻撃が効いてない。
ゴルゴーンハーフはカウンター攻撃で前足の爪で引っかき攻撃を繰り出す。
俺はその攻撃を突撃騎搶の刀身で受け止める。
「ぐっ!」
爪での攻撃はとても速く、重い。 まともに当たればそれなりの損傷を俺は受けただろう。
次に俺はゴルゴーンハーフを挑発してやる。 今度は手を出させて攻撃を受け止めてみるのだ。 ゴルゴーンハーフは噛み付き、尻尾、前足による引っかきの三連を攻撃仕掛けてきたが、そのどれもが容易に回避や防御が可能なものであった。
「やっぱりそうか! コイツの能力は……」
俺は一旦後退する。 ゴルゴーンハーフは追って来ない。
今のうちにスキュレーの下に向かい合流する。
「どうしたの?」
「ゴルゴーンハーフの能力がわかった。 奴の能力は外敵の力の減衰ではなく、攻撃を受ける事による力の強奪だったんだ」
「どういう言う事なの?」
「つまり、あのゴルゴーンハーフは外敵の攻撃を受けるとその時受けた力を吸収し、己のものにして、身体能力が強化されてしまう。 その為、アテナ程の強者でも簡単に返り討ちにあったんだろう」
「それじゃあ、やっぱり……」
「ああ、君の加護が必要だ」
「でも、どうすればいいの? その加護」
「俺の槍に君の神力を込めた血を垂らせばいいだけだ」
「ん、わかったわ」
スキュレーはユルン・メトスの刀身の切っ先で人指を刺し、出血させる。
その出血し、滴り落ちる血液に神力を込めてユルン・メトスに振り掛ける。
すると、ユルン・メトスは光輝きスキュレーの血と共に神力を吸収した。
「よし! これで君の加護が得られた。 今度こそゴルゴーンハーフを狩って来る」
「気をつけてね。 無理はしないで」
「おう! わかってる!」
俺は再戦する為、ゴルゴーンハーフの下に向かいゴルゴーンハーフの真正面に立つ。
そんな俺をゴルゴーンハーフは欠伸をしながら『またか』とういう感じで見ている。
ビシッと俺の蟀谷に青筋が浮き上がった。
天然のゴルゴーンは大人しくてあっという間に狩れるから狩り甲斐は無いのだが、少なくともコイツよりは何倍も可愛げがある。
流石、生みの親が魔女キルケーだけのことはある。 ふてぶてしくて可愛げの欠片も無い。
俺は怒りのオーラを隠すこと無く体から立ち上らせる。
「絶対狩る! 絶対狩る! 絶対狩る! 絶対狩る! 絶対狩る!! 絶対狩ってやる!!!!」
俺の尋常ならある雰因気に異常を感じたゴルゴーンハーフ。
俺に対して警戒するが最早、遅きに失する。
既に俺は技を放つ準備が完了していた。
「俺を舐めた報いを受けろ! 喰らえ! 突撃螺旋槍!!」
全長六mある長大な突撃騎搶を高速回転させてゴルゴーンハーフの口に突っ込む。
ゴルゴーンハーフは能力『力の強奪』を発動させているがスキュレーの加護のおかげで殆ど効いていない。
口から体内に侵入した俺は、ゴルゴーンハーフに声を上げることすら許さず、体内をユルン・メトスの突撃騎搶状態で掻き回して絶命させた。
「はっはっはっ! あースッキリした!!」
俺はゴルゴーンハーフの血を浴び、全身血まみれ状態で口から出てきた。
「よっこらしょっと」
槍を別次元に送還し、ゴルゴーンハーフを担いでスキュレーの下に戻る。
血まみれ状態でゴルゴーンハーフを担いでいる俺を見たスキュレーは直ぐ様、俺の傍に掛け寄ってくる。
「ちょっ、ちょっと! どうしたの! 全身血まみれじゃない!! 怪我は大丈夫なんですか!?」
「ああ、大丈夫だ! この血はコイツの返り血だ」
「そう、それなら良いのだけれど……。 なら、何処かで血を洗い流してきたら?」
俺は頭を振って拒絶する。
「いや、このまま俺が統べる永久の幻想島に行こう。 そっちの方が早いし、この素顔のままだとギリシアの神域じゃあトラブルに見舞われる。 何時、何処で、何に襲われるかわかたもんじゃ無い」
「それもそうね。 貴方の美貌じゃあ、このギリシアの神域では男神も女神も標的にするものね。 かく言う私もその一人ですけど」
「おいおい、勘弁してくれ。 今はコイツと遣り合って疲れてるんだから」
「それじゃあ、貴方の島に着いて疲れも取れた頃に襲うとするわ」
「お手柔らかに頼むよ……?




