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第四十三話

 俺は負傷したグラウコスを回収してスキュレーの居る場所に戻ってきた。

 そして、スキュレーに頼んでグラウコスに応急処置を施してもらう。

 せめて正々堂々決闘で戦ったんだ。 好きな相手に介抱してもらってもよかろう。


「……オラの完敗だ」


 グラウコスは目を覚まして開口一番、自らの負けを認めた。

 まさか決闘を始めて直ぐ、槍を召喚しただけで勝ってしまったなんて口が裂けても言えない……。

 グラウコス……何て憐れな奴なんだ……。

 まあ、それはそれとしてグラウコスに言うべき事を言っておこう。


「なあ、グラウコス――昔、あんたが魔女キルケーに頼らず、さっきみたいに自分の力で努力していたらスキュラとの関係はもっと違ったものになっていただろう。 だがな、スキュラは死んだ。 そして、スキュレーとして生まれ変わった。 もう、スキュラは戻ってこない。 そろそろスキュラの呪縛から自分とスキュレーを解放してやったらどうだ?」


「そげな事、おめえに言われなくともわかってるだ! でも! でも、オラが原因でスキュラを死なせた事をオラはずっと後悔してただ。 そんな時、スキュラを苦しめて殺した魔女キルケーがオラの前に現れてスキュラが生まれ変わった事、その居場所を教えただ。 オラ、信じられず、けど、藁にも縋る思いでそこに行ってみたらスキュラが居たでねえか! オラは運命を感じただ。 スキュラは今度こそオラが幸せにしなくちゃあならないんだって! けどもスキュラは……スキュレーは昔のようにオラを拒絶しただ。 でも、オラ、諦められなかったべ!」


 グラウコスの気持ち、わからん訳ではない。

 俺だって同じ立場なら――きっぱり諦めて、影からその女性の幸福を見守るだろうな。

 流石にストーカとかすんのは相手を怖がらせて迷惑かけるんだもん。

 ……前言撤回。 俺、グラウコスの気持ちわかんないわ。


「グラウコス……貴男は馬鹿です。 私の事なんて諦めれば、美青年で逞しい貴男なら他に良い女性が直ぐにでも見つかるのに……」


 スキュレーはグラウコスを手当しながら俯き加減で喋る。


「オラァ……小せぇ頃から漁師一筋でスキュラがオラの目の前に現れる迄は女性に見向きもしなかっただ。 それは、年を取って頭が禿げて腹がでっぷりと太っても、変わる事はなかっただ。 でも、海神になって若返った時、スキュラを見て始めて女性に惚れただ。 言わばスキュラはオラにとっての始めてのの特別だ……」


 グラウコスは照れながらスキュレーに語りかける。


「本当に馬鹿ですよ……貴男という方は……」


 何かグラウコスとスキュレー、いい雰囲気だ。 もしかしてこれが『真実の愛の目覚め』というやつか。

 それならそれで俺としては色々と負担が減って助かるな。

 などと想っているとスキュレーが顔を上げて立ち上がり、俺に向け。


「グンディール。 馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますし、この方、殺ちゃって下さい」


 と、とんでも無い言葉を俺に投げ掛ける。


「「へっ!?」」


 俺とグラウコスは信じられない物を見る目でスキュレーを凝視した。


「え、えーと、なしてまた……グラウコラスを……殺っちゃわないといけないんだ? 決闘の勝敗はついたんだし何もそこまでしなくとも……」


 だが、スキュレーは瞳に暗い影を落とし、きっぱりと断言して言い放つ。


「私、わかったんです。 グラウコスに執着されたままだと幸せを掴む処かまた災難に巻き込まれて酷い目に遭って死んじゃうって。 ならいっそ、不幸の原因のグラウコスがいなくなれば私は幸福でいられるって。 だからお願い! グラウコスを殺して!!」


 スキュレーの話しを聞いたグラウコスは慌ててスキュレーから離れる。


「な、何を馬鹿な事を言うだ、スキュレー! オ、オラ、スキュレーの為を考えて……」


「そして前世で私を死に追い遣り、今また私を苦しめる。 私の事を思うなら死んで冥府へ旅立って下さい! お願い! グンディール! 彼を冥府へ送って!!」


 呆気に取られながらも俺はスキュレーの意図を読み取りその言葉に合わせる。


「……と、言う訳だ。 恨んでくれて結構。 覚悟はいいか! グラウコス!!」


 俺は適度な殺気をグラウコスに思い切りぶつける。

 逃げるか留まるか、お前はどちらを選択する! グラウコス!!


「ひえ~! オラ、まだ死にたくねえべ! も、もう、スキュレーには関わらないから勘弁してくれろ!!」


 グラウコスは失禁しながら海へと逃げる。


「なんてえおっかねえニュンペーだべ! オラ、頭がどうかしてただ! もっとか弱い女を口説いて嫁にするべ!!」


 などと叫びながらグラウコスは海へと帰って行った。


「逃げたな、グラウコス」


「逃げましたね、グラウコス。 でも、よくわかったわね。 アレがグラウコスを試す芝居だって」


「まあ……本気かどうかわかるくらいには神生経験(じんせいけいけん)積んでるからな」


 スキュレーはグラウコスの言葉が真実、実効性のあるものかどうか試したのだ。

 結果、出た答えは否。 グラウコスはスキュレーから逃げた。 つまり実効性は無く、同じ問題が起きればまた過ちを繰り返すだろう。


「しかし、最後の捨て台詞はひでえな。 アレじゃあ、幾ら顔が良くてもいい女なんて捕まらんぞ」


「結局、その程度の男だという事です。 だから、悲劇は起こるべくして起こった。 でも、あの様子じゃあ、もう二度と私の前に現れないでしょうね」


「これでよかったのか?」


「はい、これで良かったんです。 それじゃあ、今度は私が貴方との約束を果たす番ですね。 ゴルゴーンハーフの居場所を探すのに()ずはアテナ様が戦った場所に行きましょう」


「ああ、そうだな。 道案内よろしく」


 そして、俺は本来の目的であるゴルゴーン狩りに(ようや)く取り掛かった。


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