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第四十二話

 さてと、さっさっと問題を片付けましょうかね。

 先ずは――海神グラウコスからだな。

 ゴルゴーンハーフを探し出すよりもグラウコスをスキュレーで(おび)き出す方が手早く済む。


「スキュレー、これから俺が海神グラウコスと話しを付ける。 君はグラウコスを呼び出した後、俺の話に合わせてくれ」


「具体的にはどういう風に話しを進めるの?」


 古臭い手だけど、相手には効果的な定番の芝居『愛しの恋人』でいくか。


「俺と君が恋人同士で正式に結婚する――て、感じかな? それにグラウコスの年代なら、俺の名前を知っているから効果は抜群だろう」


「あなた、そんなに有名なの?」


「まあ、世界中を旅してたからなあ。 このオリンポスにも昔、数十年程滞在してたし。 アルテミスと狩りの勝負したり、アテナと手合わせしたり、ゼウスの実の姉ちゃん――トネリコの木の精霊メリアス連れてきてゼウスが折檻される所を見物したりと色々やったなあ」


「何それ!? オリンポス十二柱の方々と知り合いなの!!」


「此処に来るまでにゼウスやヘラ、アルテミスにも挨拶がてら久しぶりに会って来たぞ。 皆、相変わらずだったなあ。 ……ただ、ヘパイストは正気を無くして彷徨ってたけど」


「ああ、ヘパイスト様、再婚したカリス様達と上手くいって無くて欲求不満だから女神達は皆、近寄らないようにしているの。 でないとアテナ様と同じように孕まされるから……」


「ホントに相変わらず変わってないな、此処……。 と、本題を忘れる処だった。 さっきの要領で芝居を打ってグラウコスに君を諦めさせる。 その後、君が俺のゴルゴーン狩りの協力をして、それが終わったら君を永久の幻想島に連れて行く。 わかったか?」


「わかったわ」


「じゃあ、始めようか」


 スキュレーは海に向かって海神グラウコスを呼ぶ。

 すると、遠くの海面から青緑色の髭と長い髪の男が頭を出して此方に向かって近づいてくる。

 そして、岸に辿り着くと水色の腕を海面から出し、体を支えて勢い良く立ち上がり陸に上がる。

 グラウコスの下半身は魚の尻尾。

 その尻尾で陸の上で立ち上がり、俺とスキュレーに視線を向け俺達を観察する。


「やあ、スキュラ。 オラを呼んだだか? ……処で隣の男はなにもんだ?」


 俺はスキュレーに目で合図を送る。 芝居の開始だ。


「グラウコス、この人は私の大事な人で今度この人と結婚するの。 だから私の事は諦めて下さい」


「なっ! 何だって! どういう事なんだい、スキュラ!!」


 大声で叫びながらツバを飛ばし、驚愕するグラウコス。

 思い切り動揺してるな。 この調子だ。


「あんたがグラウコスか? 俺はスキュレーの恋人の軍神グンディール。 何でもあんた、昔一目惚れした片思いのスキュラとか言うニュンペーの生まれ変わりだとか言って俺のスキュレーにしつこく付きまとってるらしいな。 スキュレーは俺の恋人で妻になる女。 俺と結婚したら俺の住んでる永久の幻想島で一緒に暮らすんだ。 だから、もういい加減諦めてくれないか?」


「グ、グンディールだと!? その昔、ポセイドン様をフルボッコにして七つの海を引きずり回して降参させたあのグンディールかあ!!」


「そうだ。 良く知ってるじゃあねえか。 だったら、自分に勝ち目がない事くらいわかるよなあ?」


 俺は貫禄あるマフィアのボスもかくやと思われれるニタリと笑う顔を態とらしく見下すような感じを出してグラウコスに見せつける。


「くぅっ! それでもオラは諦めねえ! 決闘だ! グンディール! どちらがスキュラに相応しいか見せてやるだ!!」


 フム。 そう来たか。 だがそれも想定内だ。


「おいおい。 いくら海神だからって下級神のお前が上級神の俺に敵うわけねえだろ」


「やってみねえとわからねえべ! それともお前、オラがスキュラを諦めるよう仕向ける為、グンディールの名を語る偽物で実はオラより弱くて格下の下級神じゃあねえべか?」


 お! いいとこ突いてくるじゃねえか。 だが、俺は本物のグンディール。 そして上級神なのも嘘じゃない。


「だ・か・ら、やめとけって言ってるだろう! いい加減聞き分けろ。 お前も大人だろ?」


「やーっぱり、お前、グンディールの名を語る偽物だべ! 見てろよスキュラ! 今、こいつの化けの皮ひん剥いて正体暴いてやるべ!!」


「はあ……。 仕方ない。 わかったよ、グラウコス。 あんたと決闘してやるよ。 俺は軍神だ。 だからハンデをくれてやる。 決闘の場は海の中だ」


 俺は態と盛大な溜め息を突いて渋い顔を作り、グラウコスの要望に答えてやる。

 今度はグラウコスがニタリと笑う。 海の中は自分の領域。 負けるわけがないとでも思ってんだろう。

 その言葉を聞いたスキュレーは慌てて俺に耳打ちしてくる。


(ちょっ、ちょっと! 大丈夫なの! 相手は下級とはいえ海神なのよ! 海の中で勝てるんですか!?)


(う~ん。 正直言って勝負にならんだろうな……。 だが、一度言ってしまった以上、実行しない訳にはいかない。 なに、大丈夫だよ)


 ちなみに俺には天、地、海を司る権能も持っている。 つまり、海も俺の支配領域なのだ。

 海での戦闘でも動きに制限は無い。


 これは卑怯な事でもなんでもない。 なにせ、相手は海神。 海の中でこそ、その真価を発揮するのだから。

 そして、俺も海の中では普通に動ける。 ただ、それだけの事だ。 


(簡単に言わないで下さい! 私の一生が掛かってるんですよ!!)


(いいから! 君は安心して見てればいい)


(えっ! それはどういう……)


「いい加減、コソコソ相談すんの止めねえか! さっきの言葉、取り消す事は許さねえからな! ささっと決闘始めるべ!!」


 そう言うとグラウコスは我先に海に向かって飛び込む。


「それじゃあ、俺も行ってくるよ」


 グラウコスに続いて俺も海に飛び込む。

 海中では既にグラウコスが銛のような槍を持って待ち構えていた。


 うーん、どうしよう。 此方も槍を出すべきか? しかし、それじゃあ一瞬で片が付く。 ……素手で行くか。

 いや! それじゃあ、真剣に勝負をしている相手に失礼だ! なら俺も同じく本気を出さなければ!!


 俺はそう思い直し、槍を召喚しようとした。


「……」


 しまった! 槍にまだ名前を付けてない!!


「どうしただ! 折角、ハンデとして先制はそっちに譲ろうとしただのに! 来ないのなら此方から行くべ!!」


 グラウコスが俺に向かって高速で接近し、槍を突いて攻撃してくる。

 それを紙一重で躱しながら俺は槍の名前を考える。


 前と同じヴァルスロットでいくか? でもその名前、槍の技の名前『ヴァールスロット』の長音読みを短縮して付けただけだし、それにそれじゃあ槍を作り直してくれたブリギッテ達に申し訳ないな……。


「ど、どうしてだ! 何で攻撃が当たらないだ! それに何でコイツ、海中でこんなに動けるだ!!」


 などと動揺しているグラウコスを他所に槍の名前を考える。


 そういえば神代の昔、子供の頃に聞いた昔話に槍っていう意味の言葉があったような……。

 あ! そうだ! 確か、穂先をユルン、柄をメトスって言ってその二つの言葉を合わせて『全の槍』て言う全ての槍に変化し、全てを統べる万物の槍って意味になったはず!!


 よし! 決まった!! 新しい槍の名前は『ユルン・メトス』だ!!!!


 槍の名前が決まった瞬間、俺の直ぐ傍で凄まじい力の大渦が生じ、ユルン・メトスが現れる。


「な、何だ! 何が起こっただあああぁぁぁーーー!?」


 グラウコスは発生した大渦に巻き込まれ、弾き飛ばされる。

 

 俺はユルン・メトスを掴み、構える。


「さあ! 決闘の準備は完了だ! どっからでも掛かって来やがれ! グラウ…コ……ス……?」


 俺がユルン・メトスを構えて決闘の口上を述べた時、グラウコスの姿や気配はいつの間にか何処にもなかった。

 あれ? グラウコスの奴、何処行った?


 暫くそこら辺の海中を探してみたが見つからない。

 俺は仕方が無いので一旦、海中から勢い良く海上に飛び上がるとスキュレーにグラウコスの事を尋ねてみた。


「なあ、スキュレー。 俺、グラウコスの奴とさっき迄決闘してたんだけど、突然、居なくなったんだ。 そこら辺探してみたけど、何処にも居ないんだが知らないか?」


 スキュレーは額から大量の冷や汗を流しながら、微苦笑しながら遠い目をして答える。


「……グラウコスなら今さっき、海中から吹っ飛んで水平線の彼方に消えました」


 グラウコスが飛んで行ったらしき方向を指差すスキュレー。


「……」


 俺はスキュレーの指差した西の方角、約三十km近くの海域でプカプカとうつ伏せで浮かぶグラウコスを発見した。


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