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第四十一話

「私の夫になって下さい!!」


「ごめん、無理」


 スキュレーの予想通りの要求に俺は即、断った。


「即行で断られた!? 何故? どうしてですか? 私、女としての魅力ありませんか!」


 スキュレーは亜麻色の髪の美しい容姿だ。 

 永久の幻想島の女神達と比べても十分に女性としての魅力はある。 だが……。


「う~ん……俺達、出会ったばかりでお互いの事何も知らないし、そもそも俺、嫁さん沢山貰うんだ。 だから、流石に君一人の夫になる事は出来ないな」


「じゃあ! 私も嫁の一人に加えて下さい!!」


 諦める処かグイグイ押してくるなこの娘。 何か理由でもあるんだろうか?


「何でそんなに出会ったばっかりの俺と結婚したがるの?」


「実は私、今ストーカーされてるんです。 しかも、海神グラウコスに……」


 海神グラウコス――スキュラに一目惚れした下級の海神で、スキュラが魔女キルケーに魔物にされた要因である。

 確かに、そんな相手にストーカーされてたら必死に結婚相手を探すよなあ。 しかも、相手は御先祖様を不幸に追いやった疫病神。


「ストーカーなんてされるなんて君、余程スキュラに似てんだろうな」


「それだけじゃないの。 私がスキュラの生まれ変わりだってグラウコスが言うの……」


「そりゃあ、グラウコスの妄想――思い込みだろ?」


「アイアイア島の……今は幸福の島でテーレマコスと結婚して暮らす魔女キルケーに教えて貰ったって言ってました」


 キルケー結婚したのか! てか、よくあの性格で結婚できたな。 相手は相当のマゾなんじゃねえか、その男。

 でも、どっかで聞いたことがある名前だな。 もしかして……。


「オデュッセウスとペネロペとの間に出来た息子の?」


「です」


 結婚相手が昔の男の息子か。 よっぽど忘れる事が出来なかったんだな、オデュッセウスの事が。


 だが、それにしてもキルケーの奴一体どういうつもりだ?

 もしスキュレーがスキュラの生まれ変わりだという事が本当でも二人にとっては既に過去の出来事。 今更、話しを蒸し返してもいい事なんざ一つも無いのに。

 ヘタしたらもっと悲惨な事にだってなりうる……。


「キルケーの奴、また余計な事をしたもんだ」


「仕方がないでしょう? グンディール様。 これが四方丸く収める方法なのですから」


「!? キルケー! いつの間に!!」


 相変わらずの美貌に服がはち切れんばかりの大きな胸と尻。 それでいて細い体や手足。 アンバランスな美しさで男を魅了する体。

 間違いなく魔女キルケーだ。 ただ、地面に立っているその体は半透明で反対側の景色が見える。


「今、此処に居る私は魔術による映像です。 貴方達二人に伝える事があって姿を現しました」


「てえ事は、もしかして俺を此処に導いたのは……」


「私ですわ。 グンディール様」


 キルケーは迷いなど一切なく答えた。 俺の怒りを受けるかもしれないというのに。


「これでも私、オデュッセウスのおかげで改心したんですよ? そう警戒しないで下さいな」


「お前の言う事は、あんまり信用出来ん」


 俺は露骨に疑いの目をキルケーに向ける。 コイツの所為で痛い目に遭ったのは一度や二度じゃないからな。


「あら? そんな事言って良いのですか? 折角、貴方の追い求めるゴルゴーンの重要な情報を教えて差し上げようと思ったのに」


「俺の探してるゴルゴーンは竜とのハーフで石化のブレスを吐き、ミスリルの鱗を持つ。 そして、アテナですら返り討ちにする程の強さの魔獣。 情報としてはこれだけあれば十分だ」


「そのゴルゴーンが其処にいるニュンペーの協力無くしては殺せなくとも?」


「何? どういう意味だ」


 スキュレーの協力が必要? どう見ても華奢で弱々しいニュンペーにしか見えない彼女に、ゴルゴーンとの戦いで一体何が出来るんだ?


「そのゴルゴーンのミスリルの鱗が権能や能力の類を減衰させる力を秘めているとしても?」


「それがどうスキュレーの協力が必要だという話しになるんだ。 彼女にそれ程の力は無いだろう」


「彼女自身にはなくとも、彼女が他者の力を高め、敵対者の力を奪う事が出来るとしてもそう言い切れるのですか? グンディール様」


「まさか! 増幅と減衰の権能か!!」


「当たり。 次いでにその危険性もご存知ですよね?」


 増幅と減衰の権能。 嘗て神代の時代のとある神域にその権能を持つ女神が居た。 その権能の力は絶大で、それを持つ女神を我が物にしようと神々が争った。


 結果、神々は一人残らず死に絶え、その女神は彼女を災いの元として恐れた人間達の手によって殺された。

 そして、その神域は消滅。 神域の存在していた大陸も大地が粉々に割れて海に沈み、住んでいた人間達は逃げる暇もなく大陸と運命を共にして滅んだと言う。 俺にとって嫌な話しの一つだ。


 その話しが本当ならスキュレーを人知れず保護するか、もしくはいっそ殺してしまうかだ。

 ただ、俺は後者は絶対意地でも選ばん。 甘いと言われようと罪も無い者を殺すなんて俺が絶対に許さん! 絶対にだ!!


「で? 俺はどうすればいいって言うんだ?」


「もう答えは出ているのでしょう? ならばそうすれば良いだけの事」


 そうなると選択肢は一つ、彼女を俺が永久の幻想島で保護するしか無い。


「はあ……。 スキュレー、結婚云々は別にしてお前を俺の住む永久の幻想島に連れて行く。 其処でじっくり今後の事を話し合おう。 その代わりグラウコスは俺が何とかする」


「ん~、当面はそれでいいわ。 ……でも、貴方の処になら嫁いでもいいんですけどね」


「碌な男神じゃあ無いぞ。 俺は」


「私のニュンペーとしての感がそう言ってるの。 それに貴方の様な美貌の男神は見た事ないわ。 このギリシアの神域でもいないんじゃあないかしら? そんな人のお嫁さんになれる機会なんて今後、訪れないわ。 なら、良縁は大事にしなくちゃね」


「……君は逞しいよ」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「しっかしキルケー――何でそんなにゴルゴーンハーフの事に詳しいんだ?」


 そういえばコイツ、よく魔術や魔法薬で魔物を生み出したり、掛け合わせたりしてたよな。 ……もしかして!


「そろそろ映像魔術の使用限界時間ですので私はこれにて失礼しますわ。 グンディール様」


「ああ! やっぱり! お前が魔術や魔法薬でゴルゴーンとドラゴンを掛け合わせて創りだしたんだろう! 生み出したわいいが自分の手に負えなくなってオリンポスに捨てたんだろう!! だからさっき『四方丸く収まる』何て数が一つ多い言い回ししたんだな!!!!」


「それではさようなら、グンディール様。 御縁がありましたら、また何処かでお会いしましょう」


「コラ! 逃げるな!!」


 俺の制止の声も書かず、魔女キルケーの姿はその場から()き消えた。


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