第四十話
今回は資料とにらめっこしながらの作業だったので間がかなり開いてしまいました。
申し訳ありません。
――水晶の館 セックヴァベック
グンディールがギリシアにの神域に向かっている最中、セックヴァベックのサーガの執務室でサーガはノルニルのウルド、スクルド、ベルダンディと久しぶりの再会を果たしていた。
「お久しぶりですね、ウルド様、ベルダンディ様、スクルド様」
「そうだのう。 フリッグが起こしたあの一件以来か。 いや、懐かしい」
フリッグとは玉座フリズスキャールヴに座す権利を持つオーディンの妻であり、オーディンと同等の知恵者であり、主神であるオーディンの次に序列が高い最高位の女神である。
サーガは女神の中で最高位であるフリッグの次、序列二位の女神であったが、何かと喧しく口出しするサーガをフリッグが疎ましく思っていた。
其処でフリッグは一計を案じサーガを罠に嵌め冤罪を被せて追い落とし、更には奴隷にして始末しようとした処、グンディールが機転を利かせてサーガを自分の奴隷とし助け出したのである。
「流石にあの時はサーガ様と言えど危なかったですねえ」
お茶を飲みながらのんびりした口調で話すベルダンディ。
「むぐむぐ。 でも、サーガが居なくなったんでフリッグのブレーキ役が誰も居ないからオーディンも苦労してるわよ。 まっ! 私達にはもう関係ないけどね! あの口煩い嫌味なババアとは二度と会いたくないわよ!」
テーブルに出されたお菓子を口一杯に頬張りながらフリッグへの愚痴をこぼすスクルド。
「こ~ら、スクルド。 駄目ですよ、そんな言い方。 グンディール様に嫌われますよ」
ベルダンディがすかさずスクルドの言葉遣いを咎める。
「は~い、ごめんなさいベルダンディ姉様。 むぐむぐ」
スクルドはベルダンディに一言適当に詫びると再び菓子を食べるのに没頭する。
「処でそろそろグンディールと会いたいのだが。 既にグンディールの体調は戻ったのであろう? それにヴァン神族の長から伝言をあずかっておるしのう。 それを伝えておきたい」
「ヴァン神族の長から?」
ウルドは呆れを込めて肩を竦ませて見せた。
「グルヴェイグを嫁に貰ってくれと言ってきておる。 本来なら友好の証としてアース神族の誰かに嫁がせるつもりだったが、ヴァン神族を心良く思っていないアース神族の男神達によって辱めを受ける寸前、そのグルヴェイグをグンディールが助けた礼だそうだ」
「!? アース神族がヴァン神族と戦争をする原因となった女神をですか!?」
「そうだ。 まあ、グンディールと友好を結んでおきたいという下心が丸見えだがな」
サーガは盛大に溜息を吐いて今度は此方の事情を語る。
「はあ……。 ただでさえティル・ナ・ノーグの王――ルー様からもカオティック・ウイルスの件の礼として女神を嫁に貰ってくれと連絡が来たばかりだというのに……」
「まあ、仕方あるまい。 グンディールだしのう」
「そうですね。 グンディール様ですから」
この一言で納得されてしまうグンディールであった。
――ギリシアの神域 オリンポス
サーガとウルドが会談をしていた頃、俺は知り合いに挨拶回りをしながら暴れゴルゴーンの情報を集めている最中だ。
最初はオリンポス最高神ゼウスとその妻ヘラからゴルゴーンを狩る許可を貰おうとした。
そしたら、ゼウスが今まで槍で封じてきた素顔を晒してる俺に欲情して突然襲いかかってきやがった。
それをヘラと一緒になってボコッて、ヘラからはゼウスの無礼な振る舞いの詫びに狩りの許可が出た。
何でもゼウス、最近浮気が激しすぎたんでヘラが一計を案じ、貞操帯を無理矢理ゼウスに付けて以来、ゼウスは欲求不満らしい。
幾ら欲求不満で、しかも両刀使いだからって俺を襲うんじゃあねえよ! 今度やったらぶっ殺すぞ!!
次にソフィアの情報源であるヘパイストの工房に向かおうとしたが途中で目を血走らせたヘパイストと遭遇、『おんな! おんなあ~!!』とブツブツ呟いている尋常ならざる姿に情報提供を得るのを断念した。
で、今度は月と狩猟の女神アルテミスに会いに行くとアルテミス俺の素顔に驚くわ、彼女と会話しているだけで兄であるアポロンが嫉妬にかられて何処からとも無く矢を射掛けてくるので鬱陶しくて会話に集中出来ん。
それで戦の女神アテナなら何か知っているかもと思って彼女の住まいである神殿に行ってみたら留守だったし。
さて、どうしようか……。 他にまともな知り合いなんてオリンポスに居ないしな。
そうだ! アスクレピオスの神殿でヒュギュエイアの妹達に聞いてみるか。
暴れ回ってるならそれ関連の怪我人が居るはず。 なら、情報が集まっているかも。
俺は早速、アスクレピオスの神殿に向かった。 が、何せ久しぶりのオリンポス。 見事に道に迷ってしまった。
「……此処、何処? てか、最近の俺ってよく道に迷うな」
俺が辿り着いた場所は、岩場が複雑に入り組んだ海岸だった。
誰かに道を尋ねようにも誰の気配も無い。 ん? いや、この先に誰か居る。 この気配、ニュンペー(下級の女神もしくは女の精霊)辺りか?
「すんませ~ん。 道に迷っちゃった者ですけど。 此処ってど…こ……!?」
果たして其処にはニュンペーが今まさに服を脱ぎ終わり全裸になった姿で出会した。
「キャ!? キャアアアァァァーーー!!」
全裸のニュンペーは俺に背を向けその場に蹲る。
俺は慌ててニュンペーの姿が見えないよう岩陰に身を隠す。
「わわわっ!? す、すんません! 覗くつもりじゃなかったんです!!」
「あっ! あなた誰ですか! 此処は海のニュンペー以外、滅多に誰も近寄らない場所なのに!!」
「え~と。 俺の名前はグンディールて言うんだ。 永久の幻想島の戦いと狩猟の神。 此処には凶暴なゴルゴーンを狩りに来たんすけど道に迷っちゃって……」
慌てて服を着る布が擦れる音を聞きながら俺は此処に来た事情を話す。
「グンディール? 永久の幻想島? 聞いたこと無いわね。 それよりゴルゴーンてあの竜とのハーフのゴルゴーンの?」
「竜とのハーフ? 何それ?」
「知らないの? 暴れ回ってるゴルゴーンは体が竜で頭が牛の藍色の魔獣で竜とゴルゴーンのハーフだろうって言われてるの。 しかも、ミスリルの鱗に石化の視線と石化のブレスも吐くから狩猟の女神のアルテミス様やその兄のアポロン様でも手におえないんでアテナ様が直々に退治に行かれたって話しよ」
「何だって!? それは本当か!!」
不味い! アテナが出てきたらすぐにケリが付いちまう! そうなったら鎧の素材の皮が手に入らなくなる!
「ええ――もういいわよ。 出てきても」
その了承の言葉で再び彼女の前に姿を現す俺。
「……」
途端、彼女は先程迄騒いでいたのが目を見開いて急に静になる。
それに心なしか顔が赤い。 熱でもあるのか?
「それにしてもさっきはごめん……。 水浴びしようとしてたんだろ?」
「え、ええ。 それはもう、別にいいです。 それに誰も来ないと思い込んでいた私も悪かったんだし……。 あ! 名前言うの忘れてた! 私の名前はスキュレーて言うの」
「確かにこんな入り組んだ場所、誰も近づかないだろうね。 スキュレーは近くに住んでるの?」
「ええ。 此処にはよく来るわ。 だから此処は私の庭みたいなものだし、秘密の場所も沢山あるの。 この入江はその一つよ」
待てよ? スキュレーってスキュラって読む事も出来たよな?
確かギリシアのアイアイア島の魔女キルケーの魔法薬で魔物に変えられ、悲観した彼女は崖から身を投げて命を落とし、肉体は人を喰らう完全な魔物と化した乙女のニュンペーのはず。
「もしかして、スキュレーってスキュラと何か関係あったり?」
「あ、わかっちゃった? スキュラってウチの御先祖様の血筋なんだ。 だから御先祖様、周りに色々言われてこのオリンポスに引っ越して来たの。 で、オリンポスで生まれた私にスキュラの名前を付けて不幸になって死んだスキュラの魂共々幸せになって欲しいって願いを込めたんだって」
「俺の住んでる永久の幻想島にローマの女神キルケが住んでて、ギリシアの魔女キルケーと犬猿の仲なんだ。 二人共、顔を合わせる度に『ロリババア』とか、『乳牛若年寄』とか言い合って喧嘩するんだぜ」
「確か魔女キルケーの名前ってローマの女神キルケ様から貰ったって話ですよね? 権能も同じだったから父親である太陽神ヘリオス様がローマの女神キルケ様の許可を得て名付けたって……」
「能力的にはローマのキルケの方が上、肉体的にはナイスバディーな魔女キルケーの方が上。 で、お互いそれを妬んで喧嘩してるって訳さ」
「隣の芝生は青いってやつね」
「君自身は魔女キルケーの事どう思ってるんだ?」
「ん~、わかんない――かな? だって、 会った事も無いし。 それよりあなた、ゴルゴーンハーフを狩りに来たんですよね? だったら、私が協力してあげる! 私、これでもニュンペーの間じゃあ結構顔が広いの。 その情報網でゴルゴーンを探してあげます!」
「申し出は嬉しいけど、女神アテナが出張って来たんじゃあ、もう退治されてるんじゃないかなあ……」
俺は肩を竦ませた。
あのアテナが出てきたんだ、今から行っても間に合わんだろう。
「ああ、それね。 話しの続きだですけどアテナ様、自慢のメデューサの首を張り付けたアイギスの盾でゴルゴーンハーフに挑んだんだけどメデューサの石化の能力が効かなくて不意を突かれた攻撃で重症を負ったの。 今はアスクレピオス様の神殿でパナケイア様達に治療されているはずよ」
「本当かよ!? あのアテナに重症を負わせるなんてかなりのもんだ! 相当手強いぞ! そのゴルゴーンハーフ」
俺は思わず大声を出して叫んでいた。
巨人戦争ギガントマキアーにおいては大地母神ガイアの生み出した巨人達の中で最も強力なエンケラドスと戦い、シケリア島を投げつけ、下敷きにして倒した程の強さを持つアテナに重症を負わせるとはよっぽどの相手だ。
「その後だから、ゴルゴーンハーフはゴルゴーンの隠形の能力で身を隠して見付けられませんよ? だから、私が協力します」
彼女の話がもし本当なら、ニュンペー達の協力で見付けられるだろう。 ゴルゴーンハーフとの戦いでは新しいこの槍があればどうとでもなる。
ただ、相手から協力を申し出てくる場合、大抵は何らかの条件を付けてくる。 厄介な条件をだ。
「勿論、ただじゃあないよな? 条件は何だ? 何が望みだ?」
俺は警戒しながら相手の条件を尋ねる。 う~む――この手の話しは定番の一つだ。
そのスキュレーは、頬を赤らめて恥じらいながらも俺の予想通りの要求を突き付けた。
「私の夫になって下さい!!」
※訂正 第二十九話 メリアスを女神ではなく精霊に訂正しました。




