第三話
俺は老婆――オリエ婆さんに自己紹介をする。
彼女は何でもこのエルフの村の村長だそうだ。
……て、エルフ? あのファンタジーで有名な妖精の?
そう言えば、心成しか彼女達の耳が長いような……。
うん! 気の所為だ! そういう事にしとこう! 俺の頭の中にある常識の為に!
「しかし……、まさか外の世界からの来訪者とはのう……。 これもグンディール様のお導きかのう……」
「あのう、さっきから外の世界、外の世界って言ってますが、何の事でしょうか?」
老婆は俺に紅茶を差し出し、一呼吸置いて話しだす。
「それはのう。 この島は外の世界と隔絶した世界なのじゃ」
何か……、話がオカルト方向に向かっているな……。
「……と、言うと?」
「この島は元々、軍神であり狩猟の神であり天と地と海を司る神〘グンディール〙様がお創りになられた島なのじゃ。 グンディール様は元はペルシアの神で在ったが、ゾロアスター教の誕生後、神としての地位を追われ、世界を長い年月放浪したのじゃ。 その間、自分と同じように虐げられ住処を追われた人々を新たな地、この永久の幻想島を創造し此処に匿うたのじゃ……。 それ故、この島は外の世界とは別次元に在り、独立した世界を保っておるのじゃ」
オカルトじゃないよっ! まさかのファンタジーだよっ!!
しかも俺、この島から出れないよっ! て、あれ? それじゃあ俺、どうやってこの島に辿り着いたんだろう?
「あのう……、付かぬ事を伺いますが。 それじゃあ、俺はどうしてこの島に辿り着いたんでしょうか?」
「……一つ聞くが御主、その棒と腰の短剣は何処で手に入れたのじゃ?」
「ギクッ!」
「儂、口でギクッて言う奴初めて見た」
どうしよう……。 あの遺跡に在った槍を抜いて持って来ちゃった☆ テヘペロ☆ って可愛く言っても許してくれないだろうなあ……。
まさか、この槍は島に魔物や邪神を封印してた神器とか、この槍が無くなったら島が崩れて無くなるとかっていうネタじゃあないだろうなあ……。
「もしや御主、グンディール様の遺跡に安置されておった槍を抜いたのではあるまいなあ~!」
「ギクッ! ギクッ!!」
「まさかっ! 本当に抜いて来たのかっ!!」
「すんませんでしたーーーっ! 言い訳ですけど俺、此処に人が居るなんて知らなくてっ! だから、危険な動物から身を守る為に武器が必要だと思って抜いちゃったんですっ! ごめんなさーーーいっ!!」
俺はすかさずジャンピングDO・GE・ZAで平謝りした!
俺、殺されないだろうな……。
「おおっ! おおおっ! 遂に!! 遂に!! グンディール様が御降臨なされたーーーっ!!!」
「へっ!?」
正面の椅子に座っていたオリエ婆さんと俺の隣で座っていたルナティアは、土下座しいていた俺よりも頭を低くして、というか頭を床に擦り付けて俺を崇敬していた。
俺は恐る恐る二人に尋ねる。
「グンディール様が御降臨って……」
「勿論、貴方様の事ですじゃっ!!」
二人は目を輝かせて俺を見詰める。
俺がグンなんちゃらっていう神様だなんて――それはあり得ない!
俺は即座に否定する。
「無い! 無い! 俺がその神様なんてあり得ない! だって俺、ケンカ弱いし、剣術も下手糞だし、狩猟なんてした事無いし。 それに俺、島を創るなんて出来無いですよ!」
しかしルナティアは俺にグンディールだという根拠を提示した。
「この島を自由に出入り出来るのはグンディール様だけですし、何よりグンディール様愛用の槍〘ヴァルスロット〙をあの祭壇から抜けるのはグンディール様だけです。 何なら離れた所からヴァルスロットを呼んではどうでしょうか? ヴァルスロットはどんなに遠く離れていてもグンディール様が呼べば、時空を超えて瞬時に手元にやって来たと言われています。」
「……わかった。 試してみるよ。」
俺は短剣の穂先を柄に繋げて誰もいない遠くの方に投擲する。
槍は驚くほど速く、遠くに飛んでいった。
そして俺は声を大にしてヴァルスロットを呼んだ。
「来い! ヴァルスロット!」
するとルナティアが申し訳無さそうに俺に言ってくる。
「あの~、声に出さずとも心の中で呼んでも来るのですが……」
俺は顔を真っ赤に染める。
恥ずかしい~! それならそうと先に言ってくれよ!
「あっ! でも来ましたね!」
確かにヴァルスロットは俺の手元に戻って来た。
「これで確定ですのう! やれ嬉しや! やれ目出度い!」
その日の夜、村を上げての大宴会となった。