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第三十五話

「ヴィラコチャ!」


 俺は空中に浮かぶ男に対してそう叫んでいた。

 黄金の装飾に身を包み、両手にそれぞれ一本づつ奇妙な黄金の杖を持っているニコニコ笑顔の美男子。

 間違いなくヴィラコチャだ!


「エイル隊長! グンディール様!」


 エイルの部下のワルキューレ達が此方に気づいて飛んでくる。


「何があったの!」


「それが! イキナリ空間が振動したかと思ったら上空の結界に亀裂が入り、あの者が侵入してきたんです! しかも、迎撃に出た防衛の女神セークーリタース様があ奴に倒されました!」


「何ですって!」


 セークーリタースとは安全と防衛を司るローマの女神で現在はこの永久の幻想島の防衛を任せてあった。

 その防御力に秀でたセークーリタースをこの短時間で倒すとはやはり強い!


「おんや? そこに居るのはグンディールはんではないですか! いや~、お会いしとう御座いましたがな! あの時の借り、ようやっと返せまんな! ほな、復讐させて貰いまっせ!」


「抜かせ! ロキを利用してこの島に死病をばら撒かせたのはお前だろう! 復習するなら俺に直接しやがれ!」


「あんさんにはあのおっかない槍がありまっしゃろ。 その槍がある限り、こわーてこわーて手が出せませんがな。 それ以前にあんさんの居場所とこの永久の幻想島の場所がわからしませんでしたから、わてにはどうする事も出来しまへんでしたんやで?」


「それでロキを使って永久の幻想島と俺の居場所を探って、俺のヴァルスロットを破壊したって訳か!」


「まあ、そお言う事でんな」


 ヴィラコチャはニヤリと笑って見せた。

 強者の余裕のつもりか! 奴の場合は卑怯者の勝利の確信だろうがな!


「グンディール! 一体何事だ!」


「随分と騒々しいが原因はあ奴のようだの? グンディール様」


「ほうほう! また、綺麗処さんが出てきはりましたな! こりゃあ、この島の男共を呪いの病で死滅させて正解でしたわ! あんさん殺して後で楽しませて貰いまひょか!」


「させると思うか?」


「あの槍の無いあんさんなんてちーとも怖ありませんわ。 安心しなはれ。 わて、これでも優しいんで有名なんよ。 今のあんさんならわての一撃で痛いなんて感じる暇なくあっちゅう間にお陀仏であの世行きですわ。 それにこの島の女達ぜ~んぶわての女にして面倒見ますさかい、後の事は心配せんでええですよ」


「お前だから心配なんだよ! カビリャカから聞いてんだぞ! お前の卑怯なやり口は! そんな奴に俺は負けねえよ!」


「カビリャカ?」


 ヴィラコチャはニコニコ笑顔から一転、初めてその顔から表情が失せた。


「ああ! お前、彼女を手に入れるのにルクマの木の実に精を仕込んで彼女の目の前で目立つように落とし、それを食べるように仕向けて自分の子共を孕ませただろう! カビリャカがお前から逃げる為、赤児と一緒に海に飛び込んで岩に姿を変えた後、風の精霊から話を聞いたって言っていたぞ!」


 無表情で俺を見詰めるヴィラコチャ。

 体に纏う雰因気から徐々に殺気が混じり始めている。


「何であんさん、カビリャカと話し出来たんや。 わてがカビリャカに何度呼び掛けても反応してくれんかったのに何で!」


「そりゃ、お前が怖かったからだよ。 初めは襤褸(ぼろ)を着た男に辱められて羞恥心で逃げたけど、何処まで逃げてもお前がしつこく追い掛けて来るから段々怖くなって、追いつかれそうになったから岩になったんだって。 彼女言ってたぞ」


「そんな事、誰も聞いてまへん! 何であんさんにはカビリャカは答えたんや!」


 俺は眉根を釣り上げてヴィラコチャを怒鳴りつけてやる。


「彼女は岩に姿を変えてもお前に怯えていたんだよ! 偶々傍を通り掛かった俺がそれに気づいてカビリャカを慰めてやってたら、彼女の方からも少しずつ俺に話しかけてくれるようになって!」


「そんな阿呆な……」


 ヴィラコチャは俺の話しを聞き、顔を俯かせ肩を震わせている。

 どうやらカビリャカが俺となら会話するのが相当ショックだったようだ。


「本来は明るくお茶目な性格の女性だったみたいだけど、お前の所為で何時も怯えていた。 だから俺はお前に戦いを挑んだ。 お前が彼女に二度と近づかないようにする為にな! ……だけど、結果は辛うじて俺がお前に勝って、お前は海の中に飛び込んで泡となって逃げだした。 俺がお前を取り逃がしたんでカビリャカは岩の姿から戻らなかった……」


「カビリャカは今もあの時のあの場所で岩の姿のまま息子と一緒におりますわ……」


 カビリャカ、岩から戻ってないのか……。

 どうやら、今もカビリャカはヴィラコチャに怯えてるみたいだな。


「なるほど、あんさんにはカビリャカは心を開くんでんな。 そうや! わてがあんさん殺してあんさんに化ければカビリャカも自分から元の姿に戻るはず! これは名案や!」


 此処で一気にヴィラコチャの殺気が膨れ上がる。

 コイツ、まさか俺に化けてカビリャカを騙す気か!?


「ホントにおめぇは碌でもねえ奴だな! 根性腐ってやがるぜ!!」


 俺も神気を高めて纏う。

 ぐうぅ! まだかなり体が辛いが、なりふりかまっていられねぇ! 此処で負けたら後がねぇんだ!

 そんな俺の様子に気づいたウィルトゥースと九天玄女が俺に向かって叫ぶ。


「グンディール! 無茶をするな! 此処は我等に任せろ!」


「そうじゃ! グンディール様! お前様に何かあっては元も子もない! エイル! グンディール様を頼むぞ!」


「はい! わかりました! ワルキューレ隊はウィルトゥース様、九天玄女様の援護を!」


「「「了解!!」」」


 ウィルトゥース、九天玄女がヴィラコチャに向かって飛んで行く。

 それに続くワルキューレ隊。

 だめだ! ヴィラコチャにはこのメンバーじゃ刃が立たねえ!


「よせ! 止めろ!」


 だが、戦の女神達は俺の制止を振り切り、空に華麗に舞って行く。


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