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第三十四話

「よし! 大夫良くなってきたわね。 これなら普通の生活をする分には問題ないわ」


 今、グンディールこと俺――シンジは戦乙女であり医術の女神エイルの診察を受けている。

 エイルは本来女性しか治療しないが俺の場合は特別だ。


 昔、エイルがアースガルドに居た頃、か弱く真っ先に戦争の犠牲になる女性しか治療しない方針で、他のアース神族の男神達から恨みを買い、犯されそうになったのが原因だ。


 ちなみに、そのエイルを犯そうとした主犯は戦神トールの舎弟の中級の戦神だ。

 部下達を治療しないで見殺しにしたエイルを逆恨みしての犯行だった。

 ただ、その騒動でその戦神は軽い罰で済んだのに対し、エイルはアースガルドから追放処分となった。

 典型的な男社会に加え、オーディンがアース神族の戦力低下を避ける為の処置だ。


 その結果、割を食ったエイルは生き場所を失い途方にくれている処をスカウトした。

 まあ、舎弟の不始末にトールに頭を下げられ、エイルの事を頼まれたのもあるが……。

 それに当時の永久の幻想島では医者、特に婦人科の専門医が居なかったので此方としても大助かり。

 そういう理由で俺の主治医的な感じでエイルに診て貰えている。


「……処でエイル、その……俺は今の状態でどれくらいの時間戦える?」


 エイルは片眉を釣り上げる。


「四半刻もは無理ね。 ……何? もしかして、ロキが言ってたヴィラコチャって奴が気になるの?」

 

 俺は答えにくい事をエイルに聞かれ押し黙る。

 エイルは俺が答えるのをじっと待っている。

 暫く部屋が静寂に包まれ俺はそれに耐えかねて、溜息を付き意を決して答える。


「ヴィラコチャはインカの創造神だ。 しかも、俺より遥かに強い。 ただ、俺には当時ヴァルスロットがあったからギリギリで勝てたが、今はその頼みのヴァルスロットも無い。 その上、ロキがヴィラコチャとの契約でヴァルスロットを破壊したのなら多分、直ぐにでも襲ってくるだろう……」


 俺は俯き、苦虫を噛み潰した顔で答える。

 そんな俺の姿を溜息を吐いてエイルがイキナリ俯く俺の後頭部に思い切りチョップを落とす。


「痛っ!? な、何すんだよエイル!」


「アンタねえ……その時は一人だったんでしょうけど、今、この島にはアタシ達ワルキューレやウィルトゥース様、九天玄女様だって居るんだから、アンタ一人じゃないでしょう! 皆で力を合わせれば、そんな奴なんて倒せるわよ! ……だから、一人で何でも背負わずにアタシ達にも分けなさい。 これでもアンタの将来の嫁達なのよ!!」


 エイルは俺に対して怒りながらも何処か悲しそうに俺に怒鳴りながら話す。


「エイル……ありがとう」


 エイルの言葉で俺は初めて皆に心配を掛けているのだと知って、それを諭してくれたエイルに対して自然に出た感謝の言葉だった。


「わっ、わかればいいのよ! わかれば!」


 エイルは頬を朱に染めて照れる。

 そのエイルの表情に俺はエイルに気づかれないよう微苦笑する。


 と、其処でビリビリビリと突然、空気が大きく振動する感覚に襲われる。

 これは! 誰かが永久の幻想島の結界を破ろうとしている!


「遂に来たか、ヴィラコチャ!」


 ヴァルスロット程ではないがベッドの脇に置いてあった魔法の槍を持って、俺は部屋からエイルを置いて飛び出し、空気の振動の発生源である結界を壊そうとしている場所に向かう。


「あっ! こら! 待ちなさい!」


 俺の直ぐ後を付いてくるエイル。

 急いで向かったその先には……。


「これは!」


 その場所の上空には亀裂が入り、中では赤黒い模様が明滅している。

 そして其処には一人の見覚えのある男が空中に浮かんでいた。

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