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第三十一話

――グラズヘイム宮殿

 

 ウルド達ノルニルはオーディンと謁見する為、オーディンの住まいである黄金で作られたグラズヘイム宮殿に訪れていた。


「ウルド様、オーディンとお会いになってどうするつもりなのですか?」


 年嵩のノルンがウルドに尋ねる。


「別れの挨拶と餞別を渡しにな。 まあ、見ているが良い」


 高御座には世界の隅々まで見渡す事が出来る、フリズスキャルヴに座すオーディンが居た。

 その周りには他に十二の座がある。


「久しいな、ウルドよ。 して、今日は姉妹と仲間のノルニルを伴って一体何のようだ? お前達三姉妹は世界樹ユグドラシルの世話と管理を自分達に課しておるのだろう? ユグドラシルから離れても良いのか?」


「ああ、もう我々の役目は終わったよ。 だからオーディン、そなたに別れの挨拶と餞別を渡しおこうと思って今日は罷り越したのだよ」


 オーディンの表情は露骨に喜色を浮かべた。

 彼女達、運命の三女神がヨトゥンヘイムより遣って来てからはアース神族は何故か黄金に困り財政難であった。

 もし、彼女達がいなくなれば再びアース神族は黄金に満たされた生活が出来るのだから喜ぶのは当然だ。


「そうか! 其方等はアースガルドから去るのか! いや、寂しい限りだのう……。 それで、餞別とは一体何だ?」


 オーディンはウルドの去るという話しに喜んでいたが、餞別という言葉に他者に気づかれぬよう警戒した。

 人生経験豊富なオーディンにとって別れの餞別というものには碌な思い出が無いからだ。


「お前達の息子バルドルを蘇らせる事が出来る薬をくれてやろう」


「何と!? そのような物が存在しているのか!!」


「ある! ただし、その代わり我等にはお主のもう一人の死んだ息子ヘズを我等に引き渡してもらおう」


「ヘズを? 盲目の戦神に何の用だ?」


「人出がたりぬのでな。 丁度、ヘズ向きの仕事がある。 なに、アース神族には全く関係なき事よ。 それで、返答は?」


 オーディンは暫し思考を頭の中で巡らせる。


(ヘズは生まれながらの盲目。 その所為で戦神としての務めは果たせん。 唯一の権能、神像の力もたいして役に立たん。 此奴等が何を企んでいようと恐れる事は無いな)


「……良かろう。 その条件を飲もう」


「では二人の遺骸をの場所を教えてくれ。 あっ、そうそう。 もし、約束を違えた場合は薬の効力は無効となるからそのつもりでな」


「何だと! そのような真似はせん! 約定は例え口約束でもちゃんと果たすわ!」


 オーディンはウルドの言い様に腹を立て怒鳴り付ける。

 そのオーディンの様子に満足するウルド。


(オーディンのこの様子では余計な小細工を弄する真似などせんだろう)


「わかった、わかったよオーディン。 それよりも早くしてくれないか?」


 ウルドはオーディンを急かす。


「ならば良い。 さあ、此方だ」


 オーディンはバルドルとヘズの墓に自ら案内する。


「バルドルとヘズの墓は別にしている。 何せヘズは本人が知らぬとは言えロキに騙され、バルドルを殺めたのでな」


 バルドルが立派な墓に対してヘズは隅の日も当たらぬ場所にみすぼらしい墓が経てられていた。

 とは言え、誰かが墓参りをしているのだろう。

 ヘズの墓は小奇麗にされていて花が供えてあった。


 ウルドはまずバルドルの墓土に蘇生の薬を振りかける。

 この蘇生薬は世界樹ユグドラシルの葉と花と実から作られたウルド達三女神にしか調合できない薬だ。

 やがて墓の前の土が盛り上がり、一人の男が土の中から這って出てきた。


「おお! バルドルよ!」


 オーディンは喜びのあまり、土で汚れている男――バルドルに抱きついた。


「父さん!? 何で俺、埋められていたんだ! そう言えば確か、俺は胸を何かで貫かれて……」


「運命の三女神の薬でお前は生き返ったのだ、息子よ!」


 オーディンは今まで死んでいた時の事をバルドルに語ってやる。


「そ、それじゃあ!? ナンナは……」


「……お前の死がショックで死んでしまった」


 バルドルはウルド達ノルニルに縋り付き、懇願する。


「頼む! ナンナを……俺の妻を生き返らせてくれ!」


「!? 止すのだ! バルドルよ! もう諦めよ!」


「しかし、俺には諦める何て無理だ! なあ、頼む! ナンナも……ナンナも生き返らせてくれ!」


 しかし、ウルドは渋い顔をする。

 本来、この世に蘇らせる者はバルドルとヘズのみ。

 他の者――ナンナを蘇らせる予定は無い。

 それでもバルドルはウルド達の足に縋り付く。


「これこれ! 仮にも主神オーディンの息子たるお前がそのような情けない姿を晒すな! ……わかった。 ナンナを蘇らせよう。 ただし、これにも条件を付けさせてもらう」


「本当か! 本当にナンナを生き返らせてくれるんだなウルド!」


 バルドルは顔に満面の笑みを浮かべ何度もウルドに確認を取る。

 条件という言葉に今度はオーディンが渋い顔をする。


「待て待て、バルドルよ! ウルドは条件を付けると言うておる。 その条件、良く考えねばならぬぞ。 して、ウルドよ. ナンナを蘇らせる条件とは?」


 オーディンの問いに口の端を少しだけ釣り上げウルドは答えた。


「なに、簡単だよ。 グンディールと永久の幻想島。 そして、その島の住人には今後一切、直接、間接問わず危害を加えぬ事をアース神族全員が誓約する事だよ」


 と、ウルドは事も無げに答えた。


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